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#23 進化していくベンチャーキャピタルのディールソーシング

私の過去の記事をご覧になっている方は、マイクロVCの数が年々増加していることはもうご存知だと思います。そして私はさらにこの傾向が続くと思います。これに伴い、ベンチャーキャピタリストは成功するためだけでなく、生き残るためにもユニークな競争優位性を持たないといけません。本日の記事では、ベンチャーキャピタリストを差別化する重要な能力の一つである「ディールソーシング能力」についてお話したいと思います。

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すべての投資活動の基本は、それが公開市場での投資であろうと非公開市場での投資であろうと同じです。公開市場の株式取引であれば、割安な時に株を買い、価値が上がったところで売ることで利益を得ることができます。そのため、株式トレーダーにとって最も重要な能力の一つは、多くの人が気づく前に割安な株を見つけることです。

同様に、ベンチャーキャピタリストにとっても、まだ価値が低くいものの、時間が経てば価値が上がる可能性の高いスタートアップを見つける能力が重要です。すなわちディールソーシング能力が重要になります。しかし、株式投資とベンチャー投資では、その見つけ方に大きな違いがあります。株式投資では、財務データなどの分析を通じて割安な企業を見つけますが、アーリーステージのスタートアップ企業をすべて網羅するリストやデータはありません。スタートアップの中には、まだ創業者の頭の中にアイディアとして存在する場合も多いです。

そのため、ベンチャーキャピタリストがどのようなスタートアップのリストやアクセスを持っているかは、競争優位性を決定する重要な要素の一つとなります。例えば、私がElon Muskの友人で、彼がまたスタートアップを始めることを知っているとします。ベンチャーキャピタリストとして、私のリストはかなり競争力があると言えるでしょう。実際、シリコンバレーのサンドヒルロードの著名ベンチャーキャピタルファンドであるDFJや、最近ではFuture Venturesを共同設立したSteve Jurvetson氏は、Elon Musk氏へのアクセスを持っています。驚くこともなく、Future Venturesは、Elon Musk氏の会社であるThe Boring Company、Neuralink、SpaceXに投資しています。また、彼はTeslaとSpaceXのボードメンバーも務めています。

最近、ベンチャーキャピタリストは色々なユニークな方法で独自のスタートアップリストやアクセスを作っています。例えば、Lucy Guo氏とDave Fontenot氏が設立したBackend Capitalは、エンジニアリングのバックグラウンドを持つ将来の創業者へのアクセスを広げるためにハッカソンを開催しています。また、元TinderのVPであるJeff Morris Jr.氏が設立したChapter One Capitalは、Product Clubというアクセラレータプログラムを運営しています。もちろん、YCombinatorがこのアプローチの先駆者であることは言うまでもありません。

メディアは、ディールソーシングのための興味深いチャネルとなっています。Twitterは、ベンチャー企業のマッチングプラットフォームとして人気を博しています。Twitter上で、スタートアップの創業者はベンチャーキャピタリストにアイデアを売り込み、ベンチャーキャピタルは興味のあるスタートアップに声をかけます。ブログはベンチャーキャピタルが利用する最も古い形態のメディアですが、今ではポッドキャストも一部の投資家の間で人気のディールソーシングチャネルとなってきています。8-bit CapitalのパートナーであるKent Lindstrom氏は、自身のポッドキャスト番組を利用して新しいスタートアップ企業にアクセスします。トップVCの1つであるInitializedの創業者であるGarry Tan氏は、最近YouTubeチャンネルを開設しました。Banana CapitalのTurner Novak氏は TikTokも利用しています。言うまでもなく、Andreessen Horowitzは、ブログ、ポッドキャスト、YouTubeまで、豊富なコンテンツを提供しており、この分野でのトップリーダーと言えます。

上に挙げたリストは、ディールソーシングチャネルの一部に過ぎません。アーリーステージのスタートアップを見つける方法は、他にもたくさんあります。例えば、他のベンチャー・キャピタル・ファンドへの投資も、ディール・ソーシング・チャネルの一つとして一般化してきています。シリーズA以降に投資する大規模なファンドが、ディールソーシングのチャネルとして小規模なシードファンドに投資するという形です。重要なのは、ディールソーシングチャンネルが多様化してきていることであり、今後もそうであり続けるということです。かつては、ベンチャーキャピタリストの個人的・プロフェッショナルネットワークを通じた紹介だけが主なチャネルでした。しかし今や、ベンチャーキャピタリストは自分のネットワークはもちろん、メディアなどの別のレイヤーを作っているのです。

市場の変化に自社の製品やサービスを常に合わせていくことは、企業が成功する上で非常に重要なことです。ベンチャーキャピタルファンドのコアサービスは、優良なアーリーステージのスタートアップに投資することです。特に、長年の経験を持つベテランキャピタリストのような強力なネットワークを持たない新人ベンチャーキャピタリストにとっては、継続的に独自のディールソーシング戦略を構築・ピボットしていかなければ、VC投資環境が刻々と変わっていく中で、魅了的なコアサービスを提供することが段々と難しくなっていくと思います。また、このような多様化は、スタートアップが自分たちに合う投資家に出会える角度をも高めていくと思います。

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References
・Image Credit: Shridhar Gupta, Unsplash - https://unsplash.com/photos/dZxQn4VEv2M
・Former Tinder VP Jeff Morris Jr. opens up Product Club, an accelerator meant to stay small and focused - https://techcrunch.com/2020/07/13/former-tinder-vp-jeff-morris-jr-opens-up-product-club-an-accelerator-meant-to-stay-small-and-focused/
・Steve Jurvetson and Maryanna Saenko on their new fund, SPACs and the great tech exodus - https://techcrunch.com/2021/01/12/a-deep-dive-on-steve-jurvetson-and-maryanna-saenkos-200-million-new-fund/
・Garry Tan’s YouTube channel - https://www.youtube.com/channel/UCIBgYfDjtWlbJhg--Z4sOgQ
・Kent’s podcast, Something Ventured - https://somethingventured.us/

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