Join戦争は問題の発生過程に過ぎない ─ VRChat人気イベントとクラウドファンディング出資者とのお気持ち事例 ─
初めまして。VR Ing!ght(インサイト)です。
このnoteアカウントでは、VRSNSで7000時間程度過ごしてきた1ユーザーによる、主にVRChatを中心としたVRSNSにまつわる様々な事象の洞察とその記録を行います。
それにより読者の皆さんへ、VRSNSに関する新たな気づきを提供するとともに、今後のVRSNSでの活動に活かして頂くことを目的としております。
さて早速ですが、今回は X (旧Twitter) へポストされたいくつかのツイートについて取り上げさせていただきます。
VRChatにおける、サキュバス酒場という接客系イベントへの参加方式について疑問を投げかけているポスト。そして、
それらのポストを引用して、そのイベント主催者の方から発信されているポストです。
上記のポスト群についての考察を行う前に、まず前提について確認しましょう。
前提:サキュバス酒場とは
今回話題になっている『サキュバス酒場』とは、VRSNSの1つであるVRChat内にて毎週火曜23時〜24時に開催されている、接客系イベントです。
初営業から約4年が経過した今もなお人気を集めているイベントであり、VRChatにおける現状の接客系イベントに多いReqin方式ではなく、Join方式での参加による営業を行っていることが特徴です。
なお、サキュバス酒場は2024年3月から5月にかけてイベント会場の一新のためのクラウドファンディングを行い、目標金額100万円に対して253%となる約253万円の出資を集めているほどの人気を集めています。
さらに、2024年8月初頭には有名ストーリーマーであるスタンミさん等を招待した営業の模様が配信されたことで注目を集め、現在に至るまでさらなる支持を得つつあります。
1. 今回の主題は「Join戦争」ではない
さて、今回取り上げたポストは「Join戦争のせいでサキュバス酒場に入れない」ことを嘆いている内容です。
先ほど少し触れた通り、さまざまな環境要因がその勝敗を左右することや、2024年夏からの新規層流入により参加希望者の母数自体が大きく伸びていることから、サキュバス酒場におけるJoin戦争に勝つことは難しくなっています。
ですが取り上げたポストにもある通り「何度も勝てる」参加希望者が居る一方で、そうでない参加希望者も存在します。
このことから、X上における取り上げたポストについての周囲の反応は「勝てないなら環境を整えるべきだ」「無料で提供されているイベントなのだから拘り過ぎるな」「自分でイベント主催すればいい」といった内容が多く見受けられます。
しかし、今回取り上げたポスト群が抱える問題の本質は「Join戦争」だけではありません。
2. なぜ "すぐに" 反応を示したのか?
そもそも、参加希望者がJoin戦争に負けたことや、その制度を問題視するようなX上のポストは所謂『お気持ち』として扱われるにすぎず、VRChatユーザー界隈ではよくある話として周りのユーザーがそれに反応したりしなかったりすることが日常的に行われています。
また、サキュバス酒場の営業には無料で参加することができます。
サキュバス酒場を含め、VRChatで開催される無数のイベントの大半が参加費無料です。
そのため、VRChatのイベントには「有志が対価を求めずに開催しているイベントなのだから、参加者はイベント主催側に求めすぎてはいけない」といった空気感や、イベント主催側は(VRChatというプラットフォームのルールを逸脱しない範囲内で)やりたいように営業する、といった文化が染みつきつつあります。
ですので、今回の件のようなお気持ちがあったとしても、それに応答しないことも選択肢として存在していたはずです。
であるにもかかわらず、今回の問題提起ポストに対して、イベント主催者から約半日、あるいは約1時間で引用による意思表明がなされています。
お気持ちポストを無視することもできたであろうに、こんなにも迅速に回答があったのは、一体どうしてでしょうか?
Join戦争自体の是非についてあなた自身のお気持ちをポストする前に一呼吸置いて、今回の発端となったポスト群が生まれた背景について一緒に調べていきましょう。
3. クラウドファンディングの功罪
3-1. 宝の持ち腐れ
ここで、今回取り上げたポストのうち1つを投稿したユーザーの、以前のポストを紹介します。
これらは要するに、「サキュバス酒場のクラウドファンディングに出資したため『イベント内で特別待遇してもらえる3Dモデル』をリターンとして受け取ったものの、そもそもJoin戦争勝てないんじゃその3Dモデルを持っていてもただの宝の持ち腐れじゃないか」といった内容となります。
なお、このユーザーは「サキュバス酒場に行きたくても行けない状況が何カ月も続いてるのに」ともポストしており、長い間サキュバス酒場への参加に苦心していることが伺えます。
3-2. クラウドファンディング後の予期せぬ人口増加
上記の内容を知り、「このユーザーはJoin戦争に勝てもしないのに出資しておいて文句を言っているのか?」とお考えになる方もいらっしゃるかもしれませんが、その考えはあまりにも短絡的であり、間違いです。
サキュバス酒場のクラウドファンディングは2024年の5月末に締め切られていることは、現在も公開されているサイトからも明らかです。
しかし、その後2024年8月に、状況が大きく一変してしまいました。そう、冒頭でも取り上げた通り、有名ストリーマーのスタンミさんによる、サキュバス酒場の営業への参加の様子のライブ配信があったことです。
そこでVRChatについてほとんど知らなかった層がサキュバス酒場の魅力的なキャストや世界観を知りました。これ以外にもスタンミさんが複数回にわたってVRChatで活動する模様を配信しており、このことをきっかけに2024年8月頃から日本におけるVRChatのユーザー数が急激に増加しています。
実際に、2024年9月の初めにはVRChatの同時ユーザー接続数がそれまでの歴代最高を上回り約11万人にまで達している、とVRChatの運営者が発信しているポストが存在します。
この頃からサキュバス酒場への参加を希望するユーザー数もさらに多くなり、サキュバス酒場側がそれまでより多くの受け入れ枠を用意してもなお一瞬で満席となってしまうほどの人気ぶりへと過熱していったのでした。
サキュバス酒場の状況がクラウドファンディング終了時の2024年5月当時のままリターンが行われていたのであれば、今回のトラブルは起きなかったかもしれません。
しかし、予期せぬ出来事により、2024年の夏~秋にかけて突如その知名度が爆増してしまいました。
その結果、せっかくクラウドファンディングの成果としてイベント営業用の会場が新装開店したにもかかわらず、「自分が金を出して新装開店したイベントに参加できない」という出資者が生まれてしまったのです。
3-3. クラウドファンディングによる出資者へのリターンについて
今回起きてしまった予期せぬ誤算について、クラウドファンディングを行ったサキュバス酒場に致命的な落ち度があった訳ではありません。
なぜなら、クラウドファンディングのリターンとしてイベント本編に参加できることを保証するような内容のものは用意されておらず、事前の約束を完全に無視しているとは言えないからです。
しかしその一方で、本記事内の『3-1. 宝の持ち腐れ』で紹介したように、 「サキュバスコイン」と呼ばれる「イベント本編に参加できた時だけ特別な待遇を得られるリターン」も配布されています。
その結果、イベント側としては「出資に対して約束したリターンの提供は全て完了した」と言える一方で、出資者としては「出資したのに約束されたリターンが遂行されていない」とも言えるような状況が生まれています。
こういった状況が、冒頭のようなポストが生まれるきっかけになったのではないでしょうか。
4. お気持ちに便乗する前に背景を調べよう
ここまでの過程で、ポストを行ったユーザーに着目してその過去のポストを一緒に確認してきました。
そしてその過程で、そのユーザーが2022年頃からサキュバス酒場というイベントの魅力に惹かれてきたコアなユーザーであることや、イベント参加のためにわざわざ住居引越しやインターネット回線、パソコン性能の強化といった自己投資を行っており、それでもなお2024年8月以降のユーザー数増加の煽りを受けイベントに参加できていないといった背景があったことがわかりました。
しかしそういった背景を理解しようともせずに、件のツイートを安易に『Join戦争の話題』とだけ解釈し、それに対して自慢気に「人が増えたんだから諦めな」「環境を改善していないのが悪い」「参加にコツがいるのにそれを知らないのが悪い」などと石を投げるかのようにお気持ち空リプライを行うのは、あまりにも軽率であり、短絡的であり、感情的すぎる行動です。
これは今回取り上げたポストを行ったユーザーにも当てはまることではありますが、自分が感情を害されたからといって浮かんだ感情をそのまま周囲にばらまいたとしても何もメリットはなく、むしろ関係のない周囲にまでその感情を伝播させてしまう行為です。
その感情を無思考でインターネットに流す前に、「本当にそれでいいのか」「どうしてこのツイートが生まれたのか」「それを見た他の人がどう感じるか」「当事者でないのに自分事として捉えて被害者ぶっていないか」といった点について考えてみませんか?
確かに相手に直接意見を投げかけるのは怖いでしょうが、何かの改善を求めるには「当事者に直接伝える」ほうがよっぽど有効です。無関係な人を巻き込んでタイムラインを連鎖お気持ちの嵐で埋めてしまう前に、やれることはないでしょうか?
一方で、今回取り上げたイベント側も「火曜日以外の追加営業」などの策を講じているとはいえ、それでも尚、営業に参加したくても参加できないユーザーが多数存在しているのもまた事実です。
2024年夏の突然の人口爆発により、「VRChatにおける1つのイベントが抱えられる参加者数」に天井が見え始めているようにも伺えます。
冒頭で取り上げたようにイベント主催者が「入念に対策を話し合っている」とは言ったものの、人口爆発から半年が過ぎようとしており参加者側の過熱も冷めやらぬ一方です。
イベント主催者、およびVRChatというプラットフォームがこの問題に対して斬新かつ有効な回答を出すことができるか。それによって、VRSNSの今後が大きく左右されてしまうかもしれません。
VR Ins!htでは、今後も不定期ながらVRChatを中心とするVRSNSの動向について触れるとともに、その姿を記録して参ります。
以上