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「単なる“情報発信ツール”じゃない」 武蔵野大学アントレプレナーシップ学部は、どうやって「声」で学生の成長を加速させているのか - Voicy声の社内報 [導入事例]

Voicyの人気パーソナリティ、伊藤羊一さんが学部長を務める武蔵野大学のアントレプレナーシップ学部(EMC)では、学生や教職員などEMCの関係者だけが聴けるクローズドなチャンネル、「学部内Voicy」を活用しています。

当初は「学生と教員の距離を縮めるためのコミュニケーションツール」として導入しましたが、運用したところ別の効果があったといいます。「学生の成長を加速する最強のツールを手に入れたことに気付いた」という伊藤さんと学部長補佐で教授の津吹達也さんに、詳しく話を聞きました。

[サマリ]教員がファシリテーターになり、刺激し合い学び合う場にふさわしいコミュニケーションツールに

【導入背景】
・2021年4月開設の新しい学部。教員の人となりや授業内容を学生に知ってもらい、教員と学生の距離を縮めたかった
・忙しい現役実務家教員が、学生に向けて簡単に情報を発信できる。教員の自己紹介など「情報発信」の手段として活用開始

【活用方法】
・シリコンバレーやカンボジアの海外研修で学生の振り返りに活用。ライブ感をもって記録でき、振り返りが習慣化
・「しゃべる」ことが学生の成長の加速につながることに気付いた

【導入後の変化】
・アントレプレナーシップに欠かせない「思いを言語化して人に伝える」実践に
・受けた刺激を「話す」ことで気付きに変え、学びが加速 ・学生間の縦横の関係作りにも


[事業紹介]武蔵野大学 アントレプレナーシップ学部

設立:2021年4月
学生数 約180名(1年生から3年生)、教員約30名
Webサイト:https://emc.musashino-u.ac.jp/

高い志と倫理観に基づき、失敗を恐れずに踏み出し、新たな価値を見出し、創造していくマインド「アントレプレナーシップ」(起業家精神)を冠し、2021年4月に生まれた新しい学部。実践重視のカリキュラム、現役実務家教員による伴走、多くの起業家たちや仲間たちとの対話を通じてアントレプレナーシップを育み、未来へ力強く踏み出していくことができる若者を育成する。

お話を伺った「声の社内報」の担当者

アントレプレナーシップ学部 アントレプレナーシップ学科
学部長 教授 伊藤羊一さん
同 学部長補佐 教授 津吹達也さん


[導入背景]教員と学生の距離を縮めたい

—— 武蔵野大学アントレプレナーシップ学部(EMC)は、2021年4月に設立された新しい学部です。2期生が入ったばかりの2022年5月から、Voicyの「声の社内報」を「学部内Voicy」として導入されていますが、きっかけは?

伊藤:僕自身が2020年10月からVoicyのパーソナリティをやっていて、声で伝えることの効果やおもしろさを実感していたんです。そうするうちに、「声の社内報」を社内コミュニケーションに活用している企業の番組にゲストとして呼ばれて、「こんな風に使えるのか! EMCでも活用できるんじゃないか」と思ったことがきっかけです。EMCではSlackなどテキストによるツールも使っていますが、声で教員と学生の距離を縮めたいと考えました。

EMCの教員は大半が現役実務家なので、常にキャンパスにいるわけではありません。もちろん、ネットを活用して学生と密にコミュニケーションは取っていますが、チャネルは多いほうがいい。Voicyは、スマホのアプリにしゃべればいいだけなので、テキストや動画に比べて簡単です。学生は、教員の生の声が聞けますし、教員も簡単に発信できるので便利です。


—— 開始当時の
プレスリリースでは、「『教員紹介』、『学生の自己紹介や活動紹介』、『科目紹介』および、『授業外で得た学びやおすすめのイベント情報』、『授業では語り切れなかったプラスαの情報の共有や補足』などを番組として毎日放送する予定です」とあります。

伊藤:まずはVoicyに慣れている、Voicyパーソナリティの教員による自己紹介から始めました。

ただ、そもそもEMCの教員と学生はものすごく距離が近くて、そこには課題感があまりないんです。

津吹:誰も「先生」って呼びませんよね。

伊藤:僕のことも、学生はみんな「羊一さん」と呼びますし。

そうするうちに、教員からの情報発信とは別の使い方が見えてきました。

(インタビュー途中で学生に声をかけられる伊藤さん)


[活用方法]海外研修の振り返りに活用、学生の成長が加速

伊藤:2年生を連れてシリコンバレーに海外研修に行ったときに、津吹さんが編み出した方法があって、それが素晴らしかったんです。

津吹:EMCでは振り返りを大事にしていて、授業の後に必ず「振り返り」を書いてもらっています。シリコンバレーの海外研修は本当に刺激的で、学生たちも日々感じることがたくさんあったようなのですが、疲れてホテルに帰ってから振り返りを書くのは大変です。毎日現地ではレストランで一緒に晩御飯を食べていたので、Voicyの収録アプリが入ったスマホを順番に回して、全員が振り返りを録音していきました。

最初のうちは、天気のことや食べ物で驚いたことなどを話したりしていた学生も、後半になると、現地の起業家の話を聞いて感じたことや自分のピッチについての反省、帰国後の抱負や今後の学びへの決意などを話すようになってきました。おそらく、「夜、学部内Voicyで振り返りをしなくては」と思うと、日中の経験の中で感じたことや気付いたことを、意識して覚えておこうとするのだと思います。振り返りのための“アンテナ”が立ったんでしょうね。

伊藤:振り返りが習慣になると、学びが加速します。だからこそEMCでは、授業でも振り返りを重視しているんですが、学部内Voicyを活用することで、実体験でも振り返りを習慣付けられました。

海外から帰国すると、現地で感じたこともリセットされ、どんどん忘れてしまいます。だからこそ、特に海外に行ったときには、こまめに振り返りをすることが大事です。Voicyはアプリで簡単に録音できるので、感じたことをすぐに言語化して共有できるのがとてもいい。声の振り返りは、学生の成長につながることに気付いたんです。

津吹さんはゼミでカンボジアにも行っていますが、そこでもVoicyで振り返りをしていますし、僕も学生数人とボストンに行ったときに活用しました。

津吹:下の学年の学生が、「今度海外研修でシリコンバレーに行くんだけど、どんな感じなんだろう」と思ったときに、先輩のVoicyを聞くといいですね。


[導入後の変化]思ったことを言語化し「しゃべる」ことが成長に

—— 学部内Voicyを“聞く”ことで、情報が得られ、刺激になったり人と人がつながるきっかけになる一方、学部内Voicyで“しゃべる”ことは、学生にとってどんな風にプラスになると考えていますか。

伊藤:僕はVoicyパーソナリティになってもうすぐ3年になりますが、声でアウトプットすることは成長につながると実感しているんです。

文章で表現するときは、思考を整理し、構造化する必要があります。それは必要ですし、大事な作業なのですが、そのプロセスの中でそぎ落とされたり、忘れられてしまう思考や感情、思いもたくさんあります。

一方、「しゃべり」というのは、まだ整理・構造化しきれていない、もっとナマの感情や思考が表現できる。そういった“生煮え”の思考を言語化することで、「自分はこんな風に感じていたのか」「ここが気になっていたのか」という気付きや、次のアクションのヒントが得られることは多いのです。

そして、シリコンバレーで現地の起業家たちに会った時にも感じたのですが、どこの国でも起業家は本当によくしゃべるんですよね。思いや夢を言語化して人に伝えることは本当に大切なんです。周りや自分に対する「宣言」にもなるので、モチベーションにもつながります。


—— アントレプレナーシップ学部は、起業家精神を育てることを目的としています。起業家精神を養うためにも、話すことは重要なわけですね。

伊藤:そうなのです。さらに、もっと普遍的な、人の成長にも欠かせないと思います。

例えばEMCの1年生は、全員が学生寮に入ってともに学びます。3年目に入って、寮生活が学生の成長にどう寄与しているかがわかってきました。ここでもカギは「しゃべること」なんです。

EMCの学びは3つのステップから成っています。最初のステップは「刺激を受ける」こと。実務家の教員から刺激を受け、寮に帰ると仲間がいるので、次のステップの「話す」ことで思考がクリアになり、考えを発展させたりして“気付き”が得られます。“AHA! Moment”の訪れです。そして、得られた気付きをもとに、授業で実践するのが3つ目のステップ。「Just do it! (とにかくやってみる)」です。

校内Voicyの役割は寮と似ています。話すことで気付きが得られる場であり、人との接点を作るための仕掛けなんです。

(伊藤さんによる図解。寮で話す、Voicyで話す、ことが思考をまとめるのだと言います)


[今後の展望]声をアーカイブし、EMCの歴史を刻みたい

—— 今後、学部内Voicyをどのように活用したいと考えていますか。

伊藤:EMCは3年目に入って、現在約180人になりましたが、そろそろ違う学年の学生同士だと顔がわからなくなってきます。でも、それぞれユニークな取り組みをしているので、つながりができると刺激になって、また新しいものが生まれるはず。教員の自己紹介よりも、学生に自己紹介してもらう方がいいかもしれませんね。学生にもっとしゃべってもらいましょう。

津吹:そうしましょう。学生の間の縦横の関係性も作れそうです。

EMCは、海外研修に行ったり、地方で地域創生に携わったり、学外の企業や団体とプロジェクトに取り組んだりと、学校の外に出る学生が多いので、どんどん振り返りを校内Voicyで話してもらうようにするといいですね。

伊藤:今度からやりましょう。スマホさえあればいいので、楽ですしね。それに、現場のライブ感は大事です。まずは「声」で残し、さらに「文章」でクオリティを深めるという、両方があるといい。

そしてもう一つ、EMCというのは新しい学部で、新しいことをたくさん始めているので、それをアーカイブとして残しながら、歴史を刻んでいくことが重要だと思っています。すべて現在進行形なので、あとで振り返ったときに初めてストーリーが見えてくる。声って、後で聞くと、その時のことを思い出しますよね。まだ、どう活用するかはこれからだと思いますが、今後アーカイブが重要になってくる予感がします。


声の社内報を検討中の企業の方へ:学び合う場を目指す学校にはぴったり

—— 学部内Voicyを検討中の学校へ向けたアドバイスをお願いします。

伊藤:人の成長には「しゃべる」ことが欠かせません。私たちのように、学生の「振り返り」に活用するなど、どんどん学生にしゃべってもらうといいと思います。

ただ、そのためには雰囲気作りが非常に重要です。僕はよく学生に「『どうせムリ』と言わない」「人の夢を笑わない」ことが重要だと言っていますが、安心して自分の考えたこと、感じたことを表現できる環境を作ることと、セットで進めてほしいです。

教員は「教える人」というよりも、ファシリテーターなんです。知識を一方的に伝える形の学びではなく、教員がファシリテーターになって、刺激し合い、学び合う場を目指す学校にとって、学部内Voicyは強力な武器になると思います。

2023年5月取材

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最後までご覧いただきありがとうございました。
「聞き手」つまり「情報の受け手」のメリットばかりに着目してしまうことが多いのですが、「話し手」の成長につながるというVoicyの活用法は、私たちにも大きな気付きになりました。「声の社内報」として、企業で導入されるケースが増えていましたが、大学での活用場面もこれから広がりそうです。


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