THE ROLLING STONESの本拠地〝Olympic_Studio〟

TBSラジオで毎週金曜日8時30分~午後1時まで放送の「金曜ボイスログ」
シンガーソングライターの臼井ミトンがパーソナリティを務める番組です。

このnote.では番組内の人気コーナー
「臼井ミトンのミュージックログ」の内容を書き起こし。
ちなみにyoutube版では動画も公開しているのでそちらも是非。

本日のテーマは…

THE ROLLING STONESの本拠地〝Olympic_Studio〟


ロンドンにある2つの世界的なレコーディング・スタジオ

以前、THE ROLLING STONESのドラマー・Charlie Wattsの話をしました。
今日はそんなTHE ROLLING STONESが本拠地として使っていたロンドンの
レコーディングスタジオについてお話ししたいと思います。

ロンドンと言えば、世界で一番有名なレコーディング・スタジオ
「アビーロード」があります。アビーロードは、THE BEATLESが本拠地として使っていたレコーディング・スタジオです。それに対して、ライバルともいえるTHE ROLLING STONESが使っていたのは、同じロンドン市内にある
「オリンピック・スタジオ」という名前のスタジオです。
アビーロードもオリンピックもどちらも数々のロック名盤を産んだスタジオなんですが、THE BEATLESとTHE ROLLING STONESのイメージの違いを
象徴するような決定的な違いがあるんです。

THE BEATLESとかTHE ROLLING STONESが出始めた頃はレコーディング・
スタジオっていうのはだいたいレコード会社の持ち物だったんですよ。
今でこそ自宅でパソコンを使い誰でも音楽が録音出来る時代ですけど、
5~60年代の当時はレコーディングする環境を整えるために莫大な投資を
必要としたわけです。だから、大企業である大手レコード会社じゃないと、レコーディング・スタジオを作るなんてことは出来なかった。

これはアメリカでもイギリスでも日本でもレコード産業の黎明期はどこも
そうですけど、そもそもレコード会社というのは、電化製品を作る大企業の持ち物だったわけです。
どういうことかというと、そもそもはレコードプレイヤーとかアンプとかのオーディオ機器を売りたいから、レコードを作るんですよ。
レコードをヒットさせるという目的のさらに向こうには、電化製品を売るという目的があるわけです。これはある意味テレビゲームでも同じですよね。例えばプレステを売るために魅力的なゲームソフトが必要なわけです。
ハードをヒットさせるにはソフトをヒットさせないといけない。
だから、本来は電化製品を作るのが本業の大企業が傘下にレコード会社を
持ちレコーディング・スタジオを作ったわけです。

THE BEATLESの「アビーロードスタジオ」

THE BEATLESが本拠地にしていたアビーロードスタジオも例外ではなく、
これ、彼らが所属していたレコード会社EMIの持ち物なんです。
だから実はもともとはEMIスタジオという名前でEMIが自社の音響オーディオ技術の粋を集めて作り上げた最上級の自社スタジオだったわけです。
THE BEATLESが使い始める30年も前からロンドン交響楽団が本拠地として
レコーディングに使っていた、由緒正しき名スタジオなんです。
それが「アビーロード」というアルバムが大ヒットしたことを受けて、
あとから「アビーロードスタジオ」と名前を変更したんです。

そんなわけで本来はEMIという大企業の施設ですから当然中で働いている人たちはみんなEMIの社員です。ビートルズが録音してた頃なんて録音技師はみんな白衣着てたんですよ。もともとはロンドンシンフォニー録ってるようなとこですから、非常に厳格でかしこまってるわけですね。

正反対のTHE ROLLING STONESの独立系スタジオ

そんなアビーロードと正反対なキャラクターとも言えるのが、
THE ROLLING STONESが使った「オリンピック・スタジオ」。どう正反対なのかというと60年代当時のロンドンではかなり珍しかった独立系のスタジオなんです。つまり、大手レコード会社の所有物ではないレコーディング・スタジオなんですね。

それ以前も、もちろんちょっとしたテレビCMを録ったり、映画のセリフを録ったりするための独立系のスタジオはあるにはあったんですが、あまり
一般的ではなかった。それがですよ、やっぱり何と言ってもTHE BEATLESの世界的な大ヒットを受けて、雨後の竹の子のようにロックバンドが生まれ、ロック産業が急成長するんです。

大手レコード会社のスタジオだけでは数も足りないし、やっぱり新しく生まれたジャンルであるロック・ミュージックを録るために、もっと自由な発想で使える融通の効くスタジオが必要になってくるわけです。
つまり白衣の研究者のような大企業の社員がツマミをイジるんじゃなくて、若者たちが自由に使えるようなスタジオが求められたんです。

そこで、1965年に20世紀初頭に建てられた古い劇場を改装して作られたのがオリンピック・スタジオ。元々は音楽ホールで後に映画館として使われていた古い建物なので、もともと建物がもっている音響性能が非常に良かった。しかも、レコーディング・スタジオには必要不可欠な肝心な録音機材。これを担当したのがアビーロードスタジオの機材のメンテナンス部門で働いていた腕利きの技術者なんです。ディック・スウェットナムという後にヘリオスという伝説的な音響会社を立ち上げる男なんですが、彼が設計した真空管を一切使わない、当時としては最先端のミキサー卓を設置した。
その他テープレコーダーなんかも最新鋭の機種をどんどん導入したんです。

それに対してEMIが所有するアビーロード・スタジオは、やっぱり大企業の施設ですから、そういう新しい機材を導入するのが遅いわけですよ。
大企業だから設備投資するのにもいろいろな決裁を得ないと行けないから。どうしても保守的で、いつまでも古い真空管の機材を使い続けたんです。

ロックスターたちの溜まり場のように。

逆に言えばTHE BEATLESはそんな保守的な古臭い環境でかなり頑張って
実験的なサイケな音作りをしていたと言う風にも言えるわけですが、実は
自分たちのとこのアビーロードと違って最新の設備が整っているオリンピックスタジオには、強い興味や憧れがあったみたいです。
深夜にTHE ROLLING STONESのレコーディングを見学したり一緒にジャムったりして、しょっちゅうオリンピックスタジオに入り浸ってたみたいです。

Led ZeppelinもJimi Hendrixも当時のロックスターたちにとっては溜まり場、サロンのような場にもなっていたらしいんです。
でもそれって大手レコード会社の持ち物なら起こり得ないことなんですよ。何故なら、大手レコード会社が所有するスタジオにはそのレーベルに所属
するアーティストしか出入り出来ないわけだから。
独立系のスタジオだからこその風景なんですね。

独立系ならではのゆる~いエピソード

そして独立系のスタジオならではのゆるいエピソードが一つあって、
THE ROLLING STONESがレコーディング中に近所をパトロールしていた2名の警察官が中の様子を見に空いている扉からフラッと入って来てしまった。
これは大変な事件なんですよ、だってマリファナを急いで隠さないといけないんですから。
そこでストーンズの当時のプロデューサー兼マネージャーのAndrew Oldhamは機転を効かせ「あ!ちょうど良いところに来てくださいました!」といって警官の注意を逸らすために声をかけます。
「今ね、ちょうどパーカッションを録音しようとしていたところで、すみませんけどお巡りさん、その腰にぶら下げた警棒をお貸しいただけませんかねぇ?」と無茶ぶりして時間稼ぎする。
そのやりとりの間にスタッフがマリファナをスタジオの外にこっそり持ち出して事なきを得ました。ところがですね、その警棒を貸してくれという頼みを真に受けた警察官は、本当に警棒を貸してくれたんですね。
貸してくれって頼んだ手前、一応録音しないとカッコつかないですから、Mick Jaggerが警棒を打ち鳴らして申し訳程度に4小節だけ録音しました。

というわけで、今日聴いていただく曲には途中ドラムとベースが抜けて
歌だけになるところで「カッカッカッカッ~」警棒の音が入っています。
2サビ後ですね。是非耳をすましてお聞きください。

オリンピック・スタジオでの録音。
The Rolling Stonesで「Let’s Spend the Night Together」


ちなみにオリンピック・スタジオ今は映画館を中心とした複合商業施設になってまして、一応小さなレコーディングスタジオも併設してはいるようですが、当時の形のままは全然残っていません。残念ながら実質的にはクローズしたと言えるかな。一方でアビーロードスタジオの方はまだまだ現役です。

youtube版では動画で同様の内容をご覧いただけます。

金曜ボイスログは毎週金曜日8時30分~午後1時にて放送。
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