Belle des Poupee｜永遠になくならないデザートを

2024年8月22日 17:41

　「妖精にお願いするものは決めた？」

　「食べたらお菓子がなくなってしまうのが悲しくて泣いたことはなかった？　あたしは泣いたわ。あんなにきれいで、かわいらしくて、胸踊るようなものが、口に入れるとほろほろと溶けて甘い思い出に変わってしまう、その悲しみを言葉にできなくて。
　だからね、あたしは、永遠になくならないデザートをくださいってお願いするつもり」
　「たとえば、どんな？」

　「たとえば、そうね。凝ったお菓子もいいけれど。
　毎年春になるのを待ちわびて、あたしたちはこの森に野苺を摘みに来るでしょう？

　木漏れ日の中、白い花と、まだ色の淡い苺の実の中から、紅の実を選り分けて、口の中に放り込んでいく、

　そんな時間が永遠に続けばいいと思うの」

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　「あたしの姉さんはちかごろ急におとなびて、苺摘みではしゃげるのも今のうちよなんて言うのよ。

　それがおとなになることなら、いつまでも少女のままでいたいわね。

　でもあたしは必ず、姉さんの分の苺を持って帰るのよ」

＊

　「おとなになりたくないとはあたしは言わないわ。

　あたしが一番好きなのは菫の砂糖漬け。それが似合うような、気品のあるおとなになりたいの。

　お砂糖ってふしぎじゃないこと？　夢のなかに咲いていた菫の花を、昼の世界に持ってくるために、たっぷりまぶした妖精の粉みたい。

　あたしはお砂糖の中で咲く、枯れない菫の花になりたいの」

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　「あたしが好きなのは、銀のアラザンをちりばめた、白いふわふわのクリームのケーキ。

　信じられないくらい綺麗で、息をつめて眺めていると、春の陽気の中でうらうらと倒れていってしまうような、そんな愛らしいケーキが永遠に崩れないままでいてほしいの。

　一度でも触れたらくっきりと跡がついてしまうから、誰も指一本触れない、神聖なくらい無垢なケーキでありたいわ」

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　「あたしが好きなのは……お菓子の包み紙。

　儚く壊れやすいお菓子をふわりと包んで、外の世界から守る、綺麗なパッケージ。その包装紙一枚を隔てた中は妖精物語の世界。

　あたしにもそんなお守りがほしいの。そして誰かにとってそんなお守りになりたいの」

　「それでは決まりね。森の奥で白日夢を紡いでいるという妖精を、探しに行きましょう」

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Belle des Poupee｜アクセサリーブランド　→HP
花びらの型の作成から染め、形成まで全てオリジナル・手作業の布花と、シルク等の上質なリボンを使用し、アンティークを意識したデザインのヘアアクセサリー中心のブランドです。日常を楽しむためのアクセサリーから、特別な日の装いまで。

川野芽生｜小説家・歌人・文学研究者　→Linktree　
1991年神奈川県生まれ。2018年に連作「Lilith」で第29回歌壇賞、21年に歌集『Lilith』で第65回現代歌人協会賞受賞。24年に第170回芥川賞候補作『Blue』を刊行。他の著書に、短篇小説集『無垢なる花たちのためのユートピア』、掌篇小説集『月面文字翻刻一例』、長篇小説『奇病庭園』、エッセイ集『かわいいピンクの竜になる』、評論集『幻象録』、歌集『人形歌集　羽あるいは骨』『人形歌集II　骨ならびにボネ』がある。2024年7月、第二歌集『星の嵌め殺し』刊行。

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