マーケターが現代においてweb広告を学ぶ難しさについて考える
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マーケターが現代においてweb広告を学ぶ難しさについて考える

佐々木 鴎

現代においてマーケティング、こと広告についての知識を学ぶ需要が増えてきました。広告の知識とは、かつては広告代理店の人が学ぶものでしたが、現代においては事業会社のマーケティング担当にも求められるスキルになっています。

しかし、現代はweb広告を学ぶに際して、少し物足りない時代なのかもしれません。簡単にweb広告の変遷を振り返りながら、考えてみたいと思います。

◆web広告の歴史の変遷

そもそも2010年以前、web広告は広告代理店の専売品でした。

国内大手のYahoo広告をはじめ、広告媒体のいくつかは「広告代理店のみが発注できる」サービスであり、事業会社がインハウスで広告出稿をすることが事実上不可能でした。webで広告を出すには、広告代理店を通すしかないという時代だったわけですね。

しかし2010年以降、Google Adsをはじめとして「誰でもアカウント発行ができる」広告媒体が台頭。GoogleやTwitter, Facebookが広告を誰でも始められるようになり、Yahoonなどの国内媒体もそれに倣って一般開放を推し進められました。そして2021年現在、国内外のweb広告はほとんどが「誰でもはじめられる」仕様になっています。やろうと思えば、どんな会社でも自分たちで広告出稿を始められるオープンな時代です。

2010年から2020年まで、こういった広告の一般開放化が推し進められました。それに伴って、事業会社の広告内製化(インハウス化)が進められ、広告代理店を使わず自社でweb広告を出稿・管理するという会社が登場してきたのです。

広告代理店へ広告を依頼するのと比べて、自社で広告を管理するには様々なメリットがあります。

・コミュニケーションラインが社内なので、施策スピードが速い。

・代理店マージンがないため、コストカットが可能。

・自社にweb広告の知見が溜まっていく

など、様々な効果がありました。

もちろん、デメリットもあります。広告代理店を使わないことで、より効果が悪化したり最新の市場情報のキャッチアップが難しくなったりなど、必ずしも内製化すれば成功するというものでもありません。とはいえ、2010年頃は事業会社が広告出稿を内製化する流れが強く、一部で「広告代理店はこれから仕事がなくなる」とまで言われていたほどです。

結局、内製化すれば万事うまくいくというものでもなく、2010年代後半は広告代理店への揺り戻しや、自社と代理店の並走という体制を作る会社が多くなっていきました。2021年現代においては、「完全インハウス化」「代理店と並走」「代理店のみ配信」と、事業会社によって広告管理体制が異なっているのが特徴です。

そんな現代において、マーケティング職に求められるのは「web広告の知識」であり、自社で管理するにせよ、代理店とコミュニケーションを取るにせよ、マーケッターと呼ばれる職種にはweb広告の最低限の知見が求められるようになりました。そうして、「web広告を学ぶ」ことへの需要が高まり、マーケティングを学ぶセミナーだとか学校だとか、記事が台頭してくるようになってきたのです。

しかし、現代においてweb広告の知識、中でも細かなアルゴリズムを学ぶことは少し難しくなっていると言えます。設計や大筋を学ぶことは簡単なのですが、広告の作りを実感するには非常に難しい時代になってきているのです。


◆web広告を学ぶにおいて重要になる要素

web広告を学ぶにおいて重要になる要素は「入札(bidding)」です。CPMやCPCといった広告の値段を決める重要な要素であり、入札の仕組みを知ることで本質的なweb広告の理解が出来ます。

入札とは、web広告の値段を決める要素であり、出したい枠に対していくらぐらいの単価で出稿しますかという基準になるものです。

例えば1日に1,000回表示されるサイトがあるとして、そのサイトの広告枠に広告を出したいクライアントが3社いるとします。全ての会社が「1日に1,000回以上、うちの広告を出してほしい」と願っても、枠が限られているためそれは叶いません。

その3社をそれぞれA社、B社、C社とします。広告を貼っているサイトから見た時に、どの会社をどれぐらい表示すべきか、考えないといけないですよね。その際に重要になってくるのが値段(入札価格)です。それぞれの会社が、こう注文してきたとします。

A社「1回表示するごとに1円支払います」

B社「1回表示するごとに10円支払います」

C社「1回表示するごとに5円支払います」

あなたはどの会社の広告を貼りますか?迷うことなく、B社の広告ですよね。これが「入札価格」の概念です。A社は安く広告を買うことができますが、おそらく広告がほとんど露出されないでしょう。B社は多く広告を露出することができますが、他の会社よりも広告費は高くなってしまいます。C社はその中間で、それなりの値段で少な目のボリュームが出ることが想定されます。

この入札価格、サイトによってどれぐらいが適正なのかが変わってきます。優良サイトであれば当然値段は上がりますし、値段の低いサイトもあります。広告運用を行うにあたって、「この媒体にはこれぐらいの入札価格が適正だ」という数値感を持つことが強い武器になります。

けれども現代において、この入札価格の感覚を学ぶことは、実務上難しくなっている(また必要なくなりつつある)のです。その理由はなぜか。現代において主流の媒体であるGoogleやFacebookといった媒体が「媒体独自のアルゴリズムで広告を運用する」ようになってきているからです。


◆web広告のアルゴリズムを学ぶ難しさについて

現代において広告出稿の主流であるGoogleやFacebook, YahooやTwitterといった媒体はすべて、「自動入札」という入札手法を持っています。これは簡単に言うと、「ある程度の目標を渡してくれたら広告媒体側のアルゴリズムでよしなに入札価格を決定しますよ」というもので、自動入札に任していれば勝手に最適化されていく、という仕様です。

これ自体は非常に便利なものなのですが、そのアルゴリズムがブラックボックスになっているのが問題点です。「市場全体の入札状況によって入札価格が変わってきて、中でも広告自体の成績(スコア)によっても変わる」という状態なのですが、そのアルゴリズムの詳細や中身は計り知れません。媒体に任せれば自動で良い具合に配信してくれるという点で、初心者にも優しい設計なのですが、広告を学びたいという人にとってはある意味優しくないかもしれません。どの枠にどれぐらいの入札をすれば最適なのか、という、生の数値の実感値が得られないからです。(もちろん手動入札もあるのですが、全体的な入札しかなく、個別入札の設計ができる媒体が少ないです。)

2010年以前、Google広告やFacebook広告の台頭以前は、日本のディスプレイ広告はi-mobileやnendといった国内媒体を中心に回っていました。これらのディスプレイ広告は、現代の媒体と違い、「面単位で入札価格を変更できる」という非常に細かな仕様のものでした。

「このメディアに対してはCPC10円で配信するが、このメディアに対しては25円で配信する」といった細かな調整が可能でした(現代においても、i-mobileなどは管理画面で管理が可能です)。そうして、全体的に数値を見るのではなく、面(メディア)単位でCPMやCPCといった入札価格を学ぶことができ、かなり細かな運用が可能だったのですね。

web広告が台頭してきた2000年~2010年頃のweb広告代理店担当者は、メディアひとつひとつに入札価格を調整するという非常に細かな運用を行っており、個別の入札価格に関する相場感や入札設計に関する知識が細かくついています。けれども残念ながら、Google AdsやFacebook Adsが主流である現代においては、こういった細かな入札価格を学べる機会は少ないと言えるでしょう。

必ずしも、細かな運用をすべきだとは思いません。けれども、「個別の入札価格を把握する」という作業をすることによって、web広告の入札に関する専門的な知識・体感が得られることは事実です。現代において類似のことができるのは、リスティング広告の個別入札価格の設定等でしょうか。

現代の、「アルゴリズム任せの配信」は非常に便利で、「目標値だけ入れておけばあとは媒体がよしなにやってくれる」という楽な時代です。これ自体は素晴らしいことですが、この設計に甘んじてしまうと、「ではweb広告の裏側はどうなっているのか」という設計を理解する機会が少なくなってしまっていることも事実です。

例えて言うならば、皿洗いを通り越して食洗器を使っているような状態です。最終的には、食洗器を使うことは便利だし使うべきですが、「食器を洗う」というアルゴリズムを学ぶことに実感値を持ちにくい時代になってしまっています。


◆おわりに

現代においてはほぼ、マーケティングの知識がなくても広告を出稿・管理することが可能になっています。AIの発展(厳密にはAIではありませんが)によって、人が勉強しなくてもweb広告を取り扱えるようになった、とも言えるでしょう。間口が広くなり、初心者でもweb広告を取り扱いやすくなりました。

しかし、web広告の裏側のアルゴリズムや、細かな運用をしたいマーケターにとっては、少し物足りない時代でもあります。また、せっかくweb広告を学びたくて広告代理店に入ったとしても、細かなweb広告のアルゴリズムを学びきれない、という事態も起こり得ます。こういった点で、貪欲なマーケターにとっては現代は少し物足りない時代かもしれません。自分自身、少し物足りなさを感じてしまっています。

また、今からweb広告を学ぶ人には、web広告の実感を持ちにくい時代かもしれません。例えばリスティング広告の個別設定を試してみるだとか、業界歴の長い先輩に話を聞いてみるとか、そういった工夫で少し実感値が持てるかもしれないので、これからweb広告を学ぶ人は挫折することなく、先輩に話を聞いてみるなどされてみてください。

web広告は掘り下げていけば、そのアルゴリズムや設計が非常に面白いものです。シミュレーションゲームや戦略ゲームが好きな人は特にその奥深さに感銘を受けるでしょう。

これから、楽しくweb広告を学び、優秀なマーケターに育つ人が増えることを願っています。現代は必ずしも学びやすい時代ではないかもしれませんが、web広告は日々進化しており、時代はより良くなっています。現代における広告運用のやり方も、日々変化しています。広告というものの設計を学び、人に何かを伝えることの楽しさが少しでも理解できれば、あなたは優秀なマーケターになれます。

具体的に広告を学ぶ方法についても、また気が向いたら書こうかなと思います。これから、優秀なマーケターが増えていくことを願って。

最期までお読み頂いてありがとうございました。


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佐々木 鴎
とある広告代理店の代表をしています