小説【アコースティック・ブルー】Interlude

 狭いスタジオ内にはアンプやドラムセットが詰め込まれ、三人のメンバーが持ち込んだ機材でさらに足の踏み場もない状況だった。学生服姿の少年は所在なさげに防音扉の前で心細そうに立ち尽くしている。

「何してんだよ。お前も早く準備しろ!」

 ベースギターを抱えた長髪のメンバーがマイクを少年に手渡す。少年以外のメンバーは皆、彼よりも5つほど年上で派手な服装と髪型をしているので見るからにガラが悪そうで、少年はそんな彼らに囲まれて萎縮しきってしまっていた。メンバー達の不安と疑念の色濃く滲む視線が突き刺さるのを少年は感じる。

”本当にこいつで大丈夫か?”

 ハイハットでのカウントが始まり、四度目の合図で全員の楽器が唸りを上げる。アンプから叩き出された轟音が痛快なグルーブを生み、スタジオ内の空気が震えると、彼らの奏でる音楽の圧倒的な迫力に少年の中に渦巻いていた不安は期待へと変わっていった。
 イントロの演奏が終わればいよいよ自分の出番がやってくる。緊張しながらメンバー達の様子を伺うと、各々手元の楽器に意識を集中しているのか少年には目もくれない。そんな彼らの真剣さが余計に少年の緊張感を煽ったが、それでも力強い音楽の波動が自分の背中を押してくれているような気がした。

 前奏が終了していよいよ自分の出番がやってくる。少年は勇気を出してバンドに負けないくらいの声を張り上げた。その瞬間メンバー達の視線が交差し、不安げだった瞳に驚きと喜びの光が灯った。
 圧倒的な高揚感がバンド全体を包み込み、一曲の演奏が終わる頃にはメンバー全員が満面の笑みを湛えていた。

「スっゲーなお前っ!」
「やるじゃん!」

 メンバー達が少年の肩を叩いて彼の才能を称える。安堵と喜びと興奮で少年は顔を紅潮させていた。

「だから言ったろ。俺の弟は天才なんだ。」

 少年の肩を力強く掴み、SEIISHI が自分のことのように喜ぶ。
 TASKは初めて誰かに認めてもらえたような気がして、自分に可能性を与えてくれた兄に心から感謝した。

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