小説【アコースティック・ブルー】Track4: IN THE HOLE #3

 冷たい雨が降りしきる中、TASKの死を悼む人々が黒い列を成す葬祭場。
 入場規制が敷かれた門の前には沢山の報道陣やファンが押し寄せ、TASKの遺体が安置されている境内は騒然としていた。
 濡れた地面に崩れ落ちて泣き喚く女性や門の格子にしがみついてTASKの名を叫んでいる男性の姿を後目にユウコもまた一般参加の列に並んで、遺族席の傍らに沈痛な面持ちで佇むMor:c;waraメンバーを遠目に見ていた。
 彼が亡くなったと最初の報道があってから早四日。知らせを聞いてすぐに彼の家族に連絡を取ったが、すでに熱狂的なファンが事務所や実家にまで押し寄せていたため、古い友人だとどんなに説明しても取り合ってもらえなかった。
 ユウコは近親者による密葬には参加できず、仕方なく一般参加が許される今日まで待つしかなかったが、それでも彼の眠る棺を遠目に見ることしか許されず、彼の最期の姿を見ることは叶わなかった。

 祭壇に飾られているTASKの遺影は優しく微笑んでいて、それを見守るメンバー達は一見気丈に振舞っているようにも見えたが、その横顔には少し疲れた様子が見て取れる。
 特にSEIIHIは半身を失ってしまったような力の無い暗い目で献花台を見つめていて、TASKの遺影には視線を向けることすらできないようだった。ユウコはそんなSEIICHIの姿を見ていられず、献花台に花束を捧げると、SEIICHIに視線を向けないように意識しながら頭を下げてすぐにその場を立ち去った。
 タスクとの最後の別れにしては、素っ気ないほど短いその時間にユウコはやりきれない思いを抱えながらも仕方なく斎場を後にする。後ろ髪を引かれる思いで最後にもう一度遺影を振り返ると、献花台近くで小さな騒動が起こっていた。ICレコーダーを手にした男性がメンバー達と対峙している。

「ツアー前から解散の噂があったと聞いていますが本当ですか?
 前事務所との裁判も長引いていますが、TASKさんは本当に事故で亡くなったんでしょうか?」
「どういう意味だ?何が言いたい?」

 記者の質問に対してSEIICHIがイラついた様子でそれに応える。

「遺書のようなものはなかったんですか?」

 記者のこの質問に無気力に佇んでいるだけだったSEIICHIの表情が変わった。

「あいつが自殺したって言いてぇのか!? ふざけんなよてめぇ!!」

 怒りを露わにしたSEIICHIが記者の胸倉に掴み掛かる。周囲にいたメンバーやスタッフ達が慌てて止めに入ったが、怒りの収まらないSEIIHIは狂犬のように白い歯を剥きだして何度も怒鳴り散らしながら彼らの静止を振り払おうとした。質問した記者は警備員に無理やり門の外へと押し出されたが、彼の姿が見えなくなってもSEIICHIの怒声は斎場内に響き続けていた。

 多くのファンが連日この斎場に詰めかけてパニック状態に陥っている様子がニュースやワイドショーで取り上げられていた。
 TASKの死に関しては不可解な部分も多く、警察による捜査が進行中らしいが、バンドに関する不穏な噂や前事務所とのトラブルを引き合いに、あらぬ憶測も流れ始めていた。
 Mor:c;waraの楽曲の歌詞に言及しては事故との関連性を結びつけようとする趣味の悪い報道がそれに拍車をかけ、TASKのあとを追って自殺するファンまで出てきていた。そういう報道を目にすると、ユウコも友人の死を冒涜されたような気がして心底腹が立ち、場所をわきまえないあの無礼な記者に対してSEIICHIが怒り狂うのも納得できた。
 いつも華やかなステージでファンを魅了するメンバー達が一様に黒い喪服姿で佇んでいるその日の光景がユウコの目には異常なほど寂しく見えて、怒りに目を血走らせるSEIICHIの横顔が強烈にユウコの記憶に焼き付いていた。


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