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「学力」の経済学(著者:中室牧子)

「データ」に基づき教育を経済学的な手法で分析する教育経済学は、「成功する教育・子育て」についてさまざまな貴重な知見を積み上げてきた。そしてその知見は、「教育評論家」や「子育てに成功した親」が個人の経験から述べる主観的な意見よりも、よっぽど価値がある―むしろ、「知っておかないともったいないこと」ですらあるだろう。本書は、「ゲームが子どもに与える影響」から「少人数学級の効果」まで、今まで「思い込み」で語られてきた教育の効果を、科学的根拠から解き明かした画期的な一冊である。(Amazon内容紹介)

子供の学力を伸ばす為、様々な教育方法がある。そのいくつかとして「子供にゲームをさせない」「子供はほめて育てるべきである」「勉強させるために子供をご褒美で釣ってはいけない」といった、おそらく多くの人々の直感に反し得ない教育方法は、現在も社会では主流のように見受けられる。しかし、そうした個人的な経験に基づく多くの意見は、科学的根拠に由来するものでなく、むしろ、精神論をベースに語られているような気さえする。本書は、そうしたアプローチとは反対に、データ重視の手法を取り入れた教育経済学という立場から、より効果的な教育を語った本となっている。

その一例として、著書の中で紹介されている「勉強させるためのご褒美理論」について一つみてみよう。ご褒美理論とは、子供を勉強させる為に、お金やものと言ったインセンティブを与え、子供に勉強をさせる方法である。アメリカのある実験で、このご褒美の因果関係を明らかにした実験が行われたが、これは、学力のインプットとアウトプット、どちらが子供に対してより効果的か、という実験である。

実験では、”テストでよい点を取った時のご褒美(アウトプット)”と”本を読んだらのご褒美(インプット)”の組に分かれて検証が行われた。そして、学力テストの結果が良くなったのは”本を読んだらのご褒美”組だったそうだ。その理由は、人には目先の利益や満足を優先してしまう傾向がある為、テストでよい点を取るご褒美は、インプットと比べると少し遠い未来の話となってしまうからである。また、テストでよい点を取るご褒美は、どうすれば点数が上がるかといった勉強の道筋が示されていない為、学力の向上まで結びつきにくい。それに比べインプットは、本を読み、宿題さえ終えればよいわけなので、子供たちにとっても何をすればよいか明確であり分かりやすい。よって、ご褒美は、「テストの点数」などのアウトプットではなく、「本を読む」「宿題をする」などのインプットに対して与えるべきと判断する事ができる。

本書では、その他にも、”お金”はよいご褒美なのか、”少人数学級”には効果があるのか、教育にはいつ投資すべきか、など、教育効果にまつわる見解を様々な実験データをベースに紹介している。データ分析に基づいた教育に興味のある方は、是非一読してみるといいかもしれない。


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