見出し画像

【第19話】アリア 36歳 頼りになる男

 まさか自分が、全国ニュースになるような事件の当事者になるなんて、夢にも思っていなかった。
 タカがモテることはわかっていたけど、こともあろうか、心中しようとする子がいたなんて。
もしもわたしが原因の一つならば、罪悪感もある。
 けど、五ツ木さんに聞いた詳細で、リナさんが自死した本当の理由は、生育環境にあったのだろうなと想像した。

 帰国して本当にすぐ、空港からそのままの足で五ツ木さんと合流した。カラオケ店を名乗っているが、防音性が高く室内には監視カメラもなく、あらゆる撮影にも使われる、業界では有名なお店だ。

「俺のネタ元の子いわく、彼女は母子家庭で、母親も精神を病んでいて、それを介護しつつ水商売をして、彼女自身も母親に処方されてた大量の薬を一部飲んでたらしい。種類はけっこうヘヴィなやつだったから、もう依存症だったみたいよ」
「そうなんですか。本当に、胸が痛みますね。ちなみに、ネタ元って……」
「自分で見つけた、彼女の自称親友って子。でも、けっこうペラペラ喋っちゃって、なんだかねえ」
「若い子ですか?憶測で嘘が報道されるのは困るので、わたしの知ってることは全て話しますから、ガチで頼みますよ?」
「OK OK!だねえ、こないだも、ダレノガレちゃんがやってくれたもんね。憶測では絶対に書かないから安心して」
「さすが、五ツ木さん!じゃ、これ誓約書です♪」
「おえ、アリちゃんも相変わらずだねえ。そういうとこ、嫌いじゃないけど」

 仕事ができる人とのやり取りは、話も早くて助かる。
「じゃ、ここからボイレコ入れますね」
「はいよー」

 わたしは、被害男性と親かった女性Aさんとして、週刊誌やワイドショーの匿名コメントで使われる証言をした。
 タカに、特定の恋人はおらず、不特定多数のガールフレンドがいたことは事実だけど、女性を傷つけるような言動を見たことはなく、逆に優しすぎて女性から言い寄られることが後を絶たないようだった。と話した。
 加害女性の仕事も、水商売と書かれると変な憶測を呼ぶので、わたしがタカから聞いていた蒲田のガールズバーで働いていたことも伝えた。

五ツ木さんが、
「今回、リナさんが凶行に走ってしまった原因に思い当たるところはありますか?」
鋭い質問をしてきたので、
「はい。それまでは数年間、特定の恋人は作らなかったようですが、夏頃についに彼女ができたと聞きました。その辺から、二人の関係がこじれたのかなと思います」
 それが、自分だとはもちろん言わないし、五ツ木さんにも話していない。彼のことだから、実は知っている可能性も高そうだけど。

 インタビュー形式で記事になるとのこと。事件から3週目の誌面に載る予定とのことで、時期としてもちょうどよかったように思う。
 世間の好奇の目から、タカを、わたしが守る。そう心に誓った。


 その翌日、タカのお見舞いに行ったら思っていたよりは元気そうで、安心した。でも、そう装っていただけで、実はまだまだ心身ともに傷は癒えていないかもしれない。当然だ。だからわたしは、できる限りサポートに徹したい。

 その後、予定通り記事が載った週刊誌が発売され、真っ先にチェックしたら「やられたあ〜!」と思った。なんと、見出しと共にタカのLINEのスクリーンショットと思われる画像が数枚、掲載されていて、そこにわたしとタカの甘いやり取りの内容が、バッチリ載っていたのである。

 すぐに五ツ木さんに電話して、
「ちょっとー!聞いてませんよ?プライバシーに配慮してくれてるのはありがたいけど、わたしにも羞恥心ってものがあるんですけど?」
「ごめんごめん!でも許してよ、ネタ元の子にリナちゃんが、相談がてら彼のスマホから盗み見た画面をスクショして送ってたらしくて、これは!って思うじゃん?
でも、被害者が彼女に真剣だったことが伝わる内容だし、読者に誤解は与えないよ。むしろ、彼が被害者ってことに納得がいくような構成にしたつもりよ?」
「……ですね。そこは、ほんと、尊敬しますよ。完璧です。ありがとうございます。」
「とんでもない。こちらこそ、送られてきたスクショの画像が、俺の友達リストのアリちゃんと同じアイコンって気づいた時、武者震いしちゃったもん。
まさかねえ……ダンナとはどうなのよ?近状とかも聞きたいし、たまには飲み行こ。
とりあえず今回は、いろいろ、お疲れさん!」
「ありがとうございます。夫婦仲は相変わらずですよ。でもほんと、飲みいきましょ!お誘い、楽しみにしてるんで」

 これで、巨大掲示板とか、その他の週刊誌なども、これ以上の詮索はしないだろうなと思える、完璧すぎる記事だった。


 さらにその後、回復したタカと一緒に会った高橋くんも、できる男だなあ、としか言いようのない、非の打ち所がない好青年だった。
タカは昔から苦手だったと言っていたけど、その理由もわかった気がした。
 彼らは一見正反対の、女性や物事に対して真面目な人と、周りに流されやすい遊び人と……だけど、それ以外の部分には意外と共通点が多かったし、お互いをリスペクトしている部分もあるようだった。

 なにより、わたしと高橋くんは似た雰囲気を纏っているから、もしも彼が女性だったら、タカはわたしではなく、彼に惚れていたかもしれない。


連載はマガジンにまとめてあります。
https://note.com/virgo2020/m/mbb11240f6784


この記事が参加している募集

スキしてみて

まだまだ物書きとして未熟者ですが、サポートいただけたらとても嬉しく、励みになります。