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耳や尻尾を欠いても25年間ずっと笑顔を絶やさない

かわいくて、でもちょっとふてぶてしい三毛猫がいた。
東京・世田谷の奥沢に住んでいた頃、今から25年ほども前の話だ。

近所のどこかで飼われているらしく、名を〈奥沢ギャース〉といった。
いや、勝手にそう呼んでいただけだし、今回初めて文字に起こしたから、あるいは〈ギャース〉ではなく〈ぎゃあす〉なのかもしれない。
「ギャーッ!」と鳴くから〈ギャース〉、シンプルな名だ。

当時、大家が1Fに住む一軒家の、2F部分に住んでいた。
2Fへはアパートにありがちなカンカンカンと音を立てる階段で上がるようになっていて、1Fの大家の玄関とは別になっていた。
〈ギャース〉は多くのネコ同様、ほとんど姿を見せなかったが、たまにその安っぽい階段の下にデーンと座っていた。
見かけるたび太っていく〈ギャース〉は、たまに自分がネコであることを証明したくなるらしく、隣の家との境界にある塀の上を歩くこともあった。

イヌはかわいくて大好きなのだけれど、実はネコはあまり得意ではない。
でもこの〈ギャース〉は違った。
珍しくかわいいと思えたのだ。

三毛の彼女の背に浮き出る背骨を眺めているうち、どうしてもその隆起を何かで形に残したい衝動を抑えられなくなった。
思い立ったが吉日、チャリにまたがり二子玉川の東急ハンズへ向かい、プラスチック粘土を白、茶、黒の3色買い求めた。
今でこそ百均で買えるが、当時は手軽ではなかったのだ。

袋の口を止めたりするのに使うビニールタイ(ビニタイ)で骨格を作る。
ぬるま湯で温めて軟らかくした3色の粘土をマーブル状にし、ビニタイの骨格に肉づけ、冷えて硬化する前に手早く〈ギャース〉の形に整えていく。

背骨の隆起はもちろん念入りに。
そのためにはるばる二子玉川までチャリを走らせたのだ。

こうして生まれた〈ギャース〉がこれだ。

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10年後、子どもたちの手荒な洗礼を受け、右耳を欠いてしまった。

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どうしても残したかった背骨の隆起はこれだ。

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その日、実は黄の粘土もこっそり買っていた。
〈ギャース〉といっしょに〈ピカチュウ〉を作るために。

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こちらも子どもたちと遊ぶうちに尻尾のつけ根を欠き、ビニタイが露わに。

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〈ギャース〉も〈ピカチュウ〉もちょっと痛々しい。

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けれどこの2匹、耳や尻尾を欠いても25年間ずっと笑顔を絶やさない。
一昨日幕を閉じたパラリンピックの選手たちがそうであったように。

(2021/9/7記)

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