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危険、30分チャレンジ

少し前の話になるが、東京出張のときのこと。

夕方ホテルから飛び出して、どこへ食べに行こうかなとフラフラしていると目に止まったのが「30分飲み放題」の看板。
よく見てみると、30分750円とある。
安い!と思ったが、計算すると1時間1500円、2時間3000円だから、それほど安いわけでもなく、ただ30分という刻み方が当時珍しかっただけだ。
もしこの店に入ることがあれば、30分だけでスパッと帰るべき。
…との思いはいつ実現できるとも知れないので、すぐ店に入ることにした。
ちなみに今どきは30分290円などの店もあるらしいから、恐ろしい。

入店するとすぐレジ。
そこで最低2品はフードを頼まなくてはならず、何を選んだか記憶は曖昧だが、ポテサラと〆サバだったような。
飲み放題の時間を30分と告げる。
そして訊かれるファーストドリンク。
それに応じてジョッキやコップ、徳利などが空の状態で渡される。

勝負はここからだ。
着席すると店員が開始時刻の書かれた札を持ってきてスタート。
完全セルフだから、渡されていたジョッキにビールを注ぎにいき、席に戻ると同時にそれをほぼ一気飲みで空ける。
グラス交換制なので、空けなければ次に進めない。

そこからは順番は覚えていないが、ハイボール、ウイスキー、赤ワイン、白ワイン、日本酒、焼酎、酎ハイを次々と。
ちょびっと味見程度とかではなく、どれもこれもグラスにきっちり1杯。
30分でどれほど飲めるかの勝負なのだから当然だ。
次第に周囲の音がグワングワンと大きく聞こえはじめる。
視野が狭くなり、グルグルと世界が回りはじめる。
延長しますかと店員が訊いてくるが、ここはカラオケか。
30分でどれだけ…と説明しようとしたが、おそらく呂律がまるで回っていなかったのだろう、店員はそのまま行ってしまった。
終了です、とグラスを片づけられ、30分チャレンジは終わった。
そこまでは覚えている。

感覚的には瞬きをしただけだが――

目を開くと、徒歩5分ほどのホテルの自室のベッドの上に、大の字になって全裸で寝ていた。
店を出てからもう数時間も経っている。
これにはたまげた。
どんなに酔ってもちゃんと自室に帰ってこれる帰巣本能! ん? そこ?
一歩間違えば、命を失っていてもおかしくなかった状況。
全裸の自分をまじまじと眺め、そう思った。

危険、30分チャレンジ。
笑い話にできる程度に無事だったことを喜びつつ、その後そうした無謀な飲み方からは縁遠いお酒を楽しんでいる。

(2021/6/2記)

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