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海外駐在で語学とどう向き合うか

noteには語学の勉強方法に関する記事が既に数多くありますが、今回は「参考になる!」と感じた記事も引用しながら、私の考え:①語学をなぜ学ぶのか、②語学以前に土台として重要なこと、③駐在中の向き合い方、を紹介したいと思います。

*今回は、語学との向き合い方/考え方を書きます。どのような本・サイト・アプリで勉強したかなど具体的なツールについては、次の機会にしたいと思います。

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1.語学をなぜ学ぶのか

機械翻訳の精度が日々向上する時代に、語学を学ぶ意味について、まず考えてみます。海外駐在では、ビジネス・日常生活において外国語を使いますが、ここを意識しているかどうかで、上達速度やモチベーションが変わってくるはずです。

ここで、英語圏以外に駐在する場合、英語と現地語の2つが身近にあります。私は香港に駐在したので、英語と広東語が話される環境に身を置きました。これは、個人的な意見ですが、理想をいえば(余裕があれば)、英語と現地語の両方を学べると良いと思うのです。

私なりに語学を学ぶ理由を3つ考えました。

①活躍のフィールドを広げることができる
②アクセスできる情報を広げることができる
③駐在する場所の文化を知り、相手の本音まで理解できる

順番に詳細を書いてみたいと思います。

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①活躍のフィールドを広げることができる

そもそも駐在員になるには、ある程度の語学力を求められます。語学力がある人に活躍のチャンスが多く巡ってきます。これは駐在してからの業務でも同じです。チャンスを掴むために、語学を勉強するというのが1つ目の理由です。

なお、駐在前の時点で、駐在先で即使えるレベルの語学力を持っている必要はありません。(持っていれば理想的ですが…)

「TOEIC900は錯覚資産」という記事がありました。社内の評価を高めてチャンスを勝ち取ってから、英語力を上げても良いという内容が書かれています↓

私もこの意見には賛成で、TOEICの点数は、日系企業のウケが良いです。ただ、TOEICには、Speaking・Writingがないことから、高得点でも駐在先ではすぐに通用しません。しかし、駐在中も語学は伸びるので、まずはPR材料を作ると割り切って勉強し、ハイスコア=切符を手にすることが重要ですね。

駐在前の勉強(語学試験など)や駐在中の業務で語学力を上げれば、さらに活躍のチャンスを得て、フィールドが広がるという好循環が生まれます。

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②アクセスできる情報を広げることができる

日本で生活していると、日本のメディアからの情報が中心となります。海外の出来事は日本のメディアに「翻訳」され、私たちの元に届きます。海外で暮らすとよく気づくのですが、この過程で色々な「解釈」が入っています。

これからの時代は、ますます生の一次情報=翻訳される前の情報にアクセスすることが重要になります。特に英語で発信される情報は量が多く、一次情報に近いので質も高いです。直接海外メディアのニュースにアクセスできれば、日本のニュースを待たずに、情報を早く仕入れることもできます。質・量・スピードの観点から情報戦を優位に制することができるようになります。

コミュニケーションを取れる相手が増えるので、ビジネスパートナーも広げることができます。情報を仕入れられるパートナーが増えるともいえます。

例えば、今日本でもメディアを騒がせている新型肺炎ですが、海外のメディアでも多くの情報が飛び交っています。駐在中は、香港での日々のニュースのほか、海外のネットニュースなど、幅広い情報源に触れました。「日本の政府・メディアがどう解釈しているか」だけでなく、「日本が海外からどう見られているか」という両面を知ることができました。海外駐在/日本勤務のどちらかに関わらず、この両面をバランスよく理解することが、今後ますます求められていくと思います。

*ご参考まで、新型肺炎について「香港から日本はどう見えているか」以下の記事に書きました↓

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駐在する場所の文化を知り、相手の本音まで理解できる

機械翻訳の時代にあっても、即時で、直接自分の言葉で、コミュニケーションを取れることは強みです。また、言語は国・地域の文化、人々の思考方法に大きく影響を受けて発達してきました。語学学習は、文化・思想を知ることでもあります。

商談のとき、多くの場合、共通言語である英語が話されますが、本音は現地語で話されます。例えば香港の商談では、相手側が一旦話を止めて、広東語で相談し合ってから、議論を再開することがよくあります。私たちに聞かれたくない本音を話していた可能性が高いです。逆に、私たちの場合も、議論を中断して、日本人同士、日本語で相談することはよくありますね。

特に現地語の場合、知っていると相手の懐に入り込み、本音を引き出すことができます。「ビジネスの場は英語だけで十分」ではありますが、余裕があれば、現地語を学ぶと良いと考える理由はここにあります。片言でも、相手は喜んでくれます。生活の場(食堂やスーパーなど)では、現地語を使うことも多いでしょう。

なお、駐在先が英語圏であれば、それがそのまま国・地域の文化・本音なので、ひたすらネイティブレベルを目指せば、相手への理解が深まってくると思います。

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2.語学以前に土台として重要なこと

海外駐在といえば、「英語がペラペラに喋れないと!」と思う人も多いでしょう。ただ、私の経験では、周りの駐在員がみんなネイティブ並みに英語が話せたかというと、そうではありません。

よく言われていることですが、語学はあくまでもツールであり、基盤となる能力であることは間違いありませんが、それ以上に、①専門性、②コミュニケーション能力、③相手へのリスペクト、が土台として重要だと思います。

逆に、これらが揃っていれば、多少語学が頼りなくても、ビジネスとしては何とか回るはずです。それぞれの内容を説明したいと思います。

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①専門性

語学がコミュニケーションのツール(どう伝えるか)だとすると、専門性はコミュニケーションの中身(何を伝えるか)です。伝えたい内容を持っていなければ、語学ができてもあまり意味はないです。

例えば、私も、専門外の分野のセミナーに出席したとき、言語は日本語なのに内容は全くわからなかったという経験があります。ツールとしての語学と専門性が、セットになって初めて、有意義なコミュニケーションとなります。

駐在は語学留学とは異なるので、「自分しかできない強み=専門性」を身につけた上で、それを提供していく姿勢が重要です。そうすれば、専門的な内容を知りたいがために、こちらから話を引き出そうと、相手も努力をしてくれます。

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②コミュニケーション能力

これは、日本のビジネスでのコミュニケーション能力とほぼ同義です。「相手の関心を理解しつつ、自分の意見をわかりやすく表現する」というキャッチボールが基本になります。

ただ、コミュニケーションの方法は、その国・地域の文化的背景に大きく影響を受けるので、そこを十分に理解しておく必要があります。駐在前に、Erin Meyer氏の書籍「The Culture Map」を読みましたが、興味深かったので、その内容を引用しながら、ご紹介します。

【概念その1】
言葉通りに受け取って良いかどうかは文化によって異なる。これも考慮しながら、直接的/間接的なコミュニケーションのどちらが良いか考えるべき。

・Low-context(精確・簡潔明瞭が好まれ、言葉通りに受け取って良い)
 v.s. High-context(暗示・曖昧さが含まれ、言外のニュアンスも考慮が必要)

・Direct negative feedback(ネガティブな内容でも明確に伝える)
 
v.s. Indirect negative feedback(ネガティブな内容は遠回しに伝える)

これを4象限で表現すると、以下の図のようになります。日本は、High-context(以心伝心)、Indirect negative feedback(遠回しに伝える)に属していますね。異なる文化とのコミュニケーションでは、「ネガティブな内容も含めてなるべく明確に言葉で表現する」ことを意識する必要があります。

私の駐在していた香港(中華圏)は日本と同じ象限に属しますが、日本の方がよりHigh-contextな文化といえるので、明確な表現にするように気をつけました。(同じ象限の場合、相対的な関係が重要)ネガティブな内容は、遠回しに伝える方が好まれるので、そこは日本と同様にしました。遠回しに伝えても、相手は十分に理解してくれていたと思います。

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図 コミュニケーションの方法 概念図

【概念その2】
意思決定の方法、権威に対する捉え方が文化によって異なる。これも考慮しながら、リーダーは組織をまとめるべき。

・Top-down(意思決定はトップが下し、メンバーは従う)
 v.s. Consensual(意思決定は協議で、メンバーの合意を得てから行う)

・Egalitarian(平等主義の組織構造、権威もフラット)
 v.s. Hierarchical(階層的な組織構造、役職による権威が強い)

これを4象限で表現した図は以下の通りです。日本は、Consensual(時間をかけて協議する)、Hierarchical(階層的な組織構造で役職が重要)に属します。

香港(中華圏)の場合、Top-down型の意思決定が向いているので、協議に時間をかけず、マネジメント層が方針を迅速に決める必要があります。決まったことには従うメンバーが多いです。組織構造は、日本と同様に階層的であり、どの役職についているかが重視されます。商談でも、こちらの役職が下過ぎると相手にされません。逆に商談相手の役職が低いと、意思決定権をほとんど持っていないのと同義です。役職の高い人を巻き込む必要があります。

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図 リーダーシップのスタイル 概念図

本書籍では、最後に8つの概念について、4カ国で比較を行っています。自分たちの文化・価値観の違いを自覚し、お互いを尊重するために、このCulture Mapは有用である、と結んでいます。

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図 Culture Mapにおける8つの概念

これらの概念の実態については、組織・人によって多少ばらつきはあると思いますが、コミュニケーションの全体像をつかむ上で、本書籍は一読の価値ありです。日本語版、原著は以下の通りです↓

本書籍のレビュー記事として、以下もオススメです。ぜひ動画も一緒にどうぞ↓

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③相手へのリスペクト

最後に、相手へのリスペクトも忘れてはいけません。敬意を持って接すると、相手も返してくれます。言葉だけでなく、表情・動作にも現れますね。

日本語の敬語のように、英語にもcould, would, I am wondering if~など、丁寧な表現があります。ニュアンスとしては、敬語のようなものだと考えています。このような表現も学びながら、敬意を伝えていくと良いでしょう。

3.駐在中の向き合い方

①英語編

駐在中はとにかく時間が貴重です。語学学習に多くの時間を割くのは、私はもったいないと考えました。そのため、以下のように取り組みました。

・オンライン英語講座の受講:週3日、朝7〜8時。復習・宿題は講座がない日。
・英語ニュースの聴講:毎朝朝食を食べながら、ネットニュースの動画を視聴。
 出勤中は、Podcastでニュースをリスニング。
・ビジネスでの使用:会議前のAgendaの準備、会議の総括の作成を担当。
 会議では積極的に発言・質問。(話さないといないのと同じ)

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語学学習は、なるべく早朝に済ませていました。夜は色々予定が入りがちです。また、早朝の方が集中力は高いです。ぜひ、早起き、早朝学習をオススメします。

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オンライン英語講座は、会社の支援プログラムを使いました。スキルアップの補助が出る場合は、積極的に使うと良いです。レベル・ニーズに応じて、柔軟にプログラムを設計してくれることから、弱点を補強する、プレゼンの練習をするなど、うまく使いました。

私は、Berlitzのオンライン講座を使いましたが、これは会社の補助対象だったからです。大手のオンライン講座は、ハズレも少ないと思うので、いくつか無料体験をやってみて、自分に合うものを選べば良いと思います。
(なお、講座の内容には、満足しています)

ポイントは、自分に合う講師を探して、早い段階で固定することでしょうか。講師のスタイルにばらつきがあるため、あまり色々な講師で受けない方が良いです。

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英語ニュースの聴講は、日本にいるときからやっていました。日課としてできるようになると良いと思います。
(オススメのサイトなどはまた別の機会に書きます)

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駐在の醍醐味は、ビジネスでの使用を通じて、生きた言語に触れ、効果的に語学力を上げられることだと思います。自習よりもこちらに注力すべきと思います。会議の調整・準備・総括の役を担いつつ、会議の場でも積極的な発言を心がけました。

駐在先は日系企業だったので、日常業務では結構日本語になってしまったのが残念な点ではあります。重要な会議、社外打合せは英語でしたので、その場を活用しました。(会議中は、普通語・広東語もよく話されていました)

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②現地語:広東語編

余裕があればチャレンジすると良いと思う現地語ですが、まずどのレベルを目標にするか決めましょう。私の場合、駐在期間も限られる中だったので、高いレベルに到達するのは難しいと考えました。そこで、

・食堂やスーパーで香港人とコミュニケーションが取れる
・節目で社員の前で少し長い挨拶ができる

ことを目標に設定しました。広東語の場合、日本にはあまり学習本が売っておらず、オンライン講座もあまりありません。教材を探すのには苦労しましたが、以下のように取り組みました。

・日本でAmazonから広東語の学習本を注文、自習に活用
・広東語学習アプリ、香港人とコミュニケーションを取れる会話アプリを利用
・香港のニュース、広東語学習者向けYoutuber動画を聴講
・香港日本人クラブの広東語講座を受講

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英語と比べてニーズは少ないかもしれませんが、広東語の学習本やアプリ、サイトについても、また別の機会に紹介してみようと思います。

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なお、香港日本人クラブの広東語講座は、会社の補助をもらいながら受講しましたが、オススメでした。(スキルアップの補助は、本当に積極的に活用しました)
やはり、face to faceの練習は勉強になりましたし、知り合いも増えました。ここで学習した内容についても、機会があれば書いてみます。

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「別の機会に紹介します」と結構、色々書いてしまいましたが、気長に捉えていただければ…ここまで読んで頂き、ありがとうございました。

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P.S. その1 表紙は、灣仔周辺で撮影した路面電車です。2019年は、日本香港観光年でした。日本・香港間の交流人口は、2017年に300万人を突破しており、色々なイベントが企画されていました。少しわかりにくいですが、そのプロモーションの一環で、車体がデザインされていますね。
P.S. その2 今日は2月29日、今年は閏年(うるう年)ですね。英語では、Leap yearというそうです。うるう年の条件は、
 ①西暦が4で割り切れる年をうるう年とする
 ②西暦が100で割り切れて、400で割り切れない年は、平年とする
らしいです。つまり、2000年や2400年は、うるう年ですが、2100年、2200年、2300年は②によって、うるう年ではないのです。知っていましたか?
以下のサイトが面白かったので、引用します↓
P.S. その3 なんと今日は肉の日でもありました。ランチに入ったトンカツ屋さんでは、カツ1.5倍で同じ値段にしてもらえました。カツが2段重ねです。このようなキャンペーンは、日本ならではと思いますね。少なくとも香港にはありませんでした。得した気分です。

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読んで頂いてありがとうございます!「参考になった」「楽しい内容だった」と感じてもらえたら嬉しいです。頂いたサポートは、今後の記事作成のための調査研究に活用させて頂きます。