【クイズ】接 客 王

今回は接客にまつわるクイズを、黒ワインからの挑戦として書くことにしました。接客に自信があるサービスマンにも、一流店のサービスとは何かを知りたい方にも、デートの待ち合わせに早く来すぎて時間を潰したい彼氏さんにもぜひ考えてほしい内容です。

問題の題材は、全てある一つの店で実際に僕が客として感じた不満です。ただそれをそのまま垂れ流すのは、ただの客のわがままにも受け取られてしまうのではないかと考え、僕ならどうしていたのかという解説を交えた問題形式にする形で今回のお話をご用意させていただきました。

問題→解答→解説の順に書いていきますので、問題を読んだ時点で一度答えを考えてみてくださる方が楽しめると思います。
ぜひ現役のサービスマンの方は、解答だけでなく、解説に書かれるだろう内容や、どうすればよかったのかまで考えてくださると良いのではないかと思います。

なお、前提として

・僕が以前にスタッフとして働いていた店
・高級店
(客単価ランチ5000円~、ディナー10000円~)

での出来事とします。

さて、ではウォーミングアップとして第一問。難易度★


ある20代女性とのディナー。コース料理はメインの肉料理まで終わり、サービススタッフが今日のデザートを説明しに来た。僕と彼女はそれぞれのデザートを伝え、コーヒーについても聞かれたので、彼女はカプチーノ、僕はコーヒーを頼んだ。

そのすぐ後、この店にデザートワインがあることを僕は思い出した。
連れの女性は20代前半で、あまりワインは飲んだことがないとのことだったので、普段飲むものよりも良いものを飲んでもらおうと10000円くらいの白ワインをボトルを開けていた。とても美味しく飲んでくれていたようだったので、せっかくだからと
「デザートワインっていう甘いワインもあるんだけど、デザートと一緒に飲んでみる?」
彼女は「飲みたいです!」と言い、僕はすぐさま手を上げてスタッフを呼び止めた。
「デザートワインをデザートと一緒に楽しみたいんだけど、何がありますか?」
「ご用意いたしますのでお待ち下さい」
スタッフは一度下がると、3種類のボトルを持ってきて僕らに一つ一つ説明した。
僕と彼女はそれぞれ別の一つずつを選んだ。そのスタッフがグラスを用意しに下がり、僕らのテーブルでワインを注いだ。その後すぐデザートが運ばれ、間もなくコーヒーとカプチーノが運ばれてきた。

問.このとき、僕は「なんてマニュアル化されたサービスなのだ」とがっかりした。それはあることをしてくれなかったことが原因なのだが、それは何か。

↓このあと解答!

◯解答

デザートワインを頼んだ際に、カフェをどのタイミングでお持ちするか聞くこと。

◯解説

カプチーノをそのタイミングで持ってきた場合、デザートだけでなくデザートワインがあるので間違いなくすぐには手をつけない。カプチーノは時間が立つと泡が崩れて美味しくなくなる。
それでもいいというお客様はいるが、料理を出す側としては美味しくなくなることを前提としてサービスするのはあり得ない。「デザートワインとデザートを一緒に楽しみたい」と伝えてもいるし、少なくとも美味しい状態のカプチーノを飲んでもらいたいという思いがあれば一言提供タイミングについて伺うべき。カフェを止める時間もゆうにあった。

そもそもカフェを聞いた段階で、デザートと同時でいいか聞くべきでもあるが、日本人は同時の方がいいという方が経験上わりと多いので今回はそこは不問とする。


一問目はどうでしたか?簡単でしたでしょうか。

では第2問。難易度★


とある日のランチ。その店はエレベーター前でスタッフが出迎えてくれる。昔、一緒に働いたことのあるスタッフがマネージャーになっていた。入り口で久しぶりの出会いを懐かしみながら挨拶を交わすと、マネージャー自ら、僕らを席に案内した。
ラストオーダーは13:30の店ではあったが、ランチにしては13:00からと、遅い時間の予約だった。席はゆったりしたソファー席と、窓際の眺めの良い席から選ぶことができるとマネージャーは告げ、僕らは窓際の席を選択した。
料理はドリンク込みのコースであり、苦手な食材の確認の後、フリードリンクから始まった。泡、白、赤、その他ビールやノンアルコールの中から選べるのだが彼女の誕生日ということもありスパークリングワインを注いでもらうことにした。
乾杯後、食事が始まる。前菜からとても美しい盛り付けで彼女は一つ一つ写真に撮りながら楽しんでいた。
前菜の途中で僕と彼女のグラスが空になった。スタッフがそれを見て彼女のグラスにスパークリングワインを注ぎ足した。僕は慌ててそれを止めた。

問.なぜ僕は慌てて、注ぐのを止めさせたのか。

↓このあと解答!

◯解答

他にも色々なドリンクが楽しめるのにスパークリングばかり注がれてしまってはその楽しみ方ができないから。

◯解説

レストランで飲み物をフリードリンクで提供している性質上、色々なものが飲みたいというのが通常の心理。実際にその店で僕が働いていたとき、多くの人が泡→白→赤→ジュース、と料理に合わせて楽しんでいた。
もちろん一つの飲み物で通す方もいたが、僕がその日泡だけで通したいという要素は見てとれなかったはず。誕生日だから泡だけ、という発想もないだろう。
僕であれば必ず飲み物を変えるか聞くし、単純に聞くだけでなく「お次は料理に合わせて白ワインをお持ちしましょうか?」と提案し、ドリンクも色々と楽しめたという満足感を狙いに行く。


ドリンク提供時の声のかけ方一つもサービスである、という想いがあったのでこのときからこの店のサービスに違和感を感じ始めていました。

では、第3問。難易度★★★


食事も終盤になり、デザートの説明にスタッフがやってきた。遅い入店だったのもあり、店内はゆっくりと食後のコーヒーを飲んでいたもう一組くらいしかおらず、ディナー用のセッティングも始まっていた。
今日のデザートは、皿盛り系のデザートが2種類と、焼き菓子のワゴンサービスから好きなものを選べるというもの。目の前にお菓子をたくさん並べられてお好きなものをどうぞ、という形式はなかなか非日常的なもので、僕はさりげなく彼女にそれを勧めた。
「じゃあ、私は焼き菓子ので」と彼女は言い、僕はアイスを使った皿盛りのデザートを選んだ。

しばらくするとワゴンに色とりどりの焼き菓子がたくさん載せられてやってきた。スタッフから一つ一つ丁寧に説明をされた焼き菓子を目の前に「迷っちゃうな…」と言う彼女。僕は「全部選びなよ、食べられなかったら僕が食べるからさ」と言い、全て盛ってもらうことに。普段はその場で盛ってもらうのだが、バースデーのデコレーションをお願いしていたので一度ワゴンを下げて盛り付けてもらうことになった。
まず僕のデザートが運ばれてきた。ワゴンのサービスの間に作っていたのだろうか。少し待っても彼女のデザートが来なかったので、せっかく美味しい状態で提供されたアイスが溶けてしまうのも申し訳ないと思い、僕は「お先にごめんね」と一口だけ食べた。
その後彼女のデザートがキレイにデコレーションされて運ばれた。それを運んだサービススタッフが満面の笑みで「おめでとうございます!」、彼女は「あら、かわいい」と微笑み、スタッフは「もしよろしければお二人でお写真撮りましょうか?」と彼女に聞いた。
「いえ、あ、大丈夫です」と彼女は答えた。僕があまり写真を好きでないのを察したのかもしれない。サービススタッフが下がると僕は彼女に「お誕生日おめでとう」と言い、笑顔の彼女はデザートの写真を撮っていた。

問.憤慨するレベルで僕がサービスに対して気に入らなかった点が3つある。それは何か。

↓このあと解答!

◯解答

①「誕生日おめでとう」を僕より先にスタッフが言っているということ。

②デザート提供から写真を撮るか聞くまでに間がなかったこと。

皿盛りのデザートを提供するタイミングがおかしいこと。

◯解説

①誕生日を祝う席というのは本来、ホストである僕が彼女を祝うために用意したもの。彼女と初対面のスタッフが祝いの言葉を先に述べるのはおかしい。ゲストを喜ばせる、ホストの意向を汲むことを考えた場合、まずは一度下がってホストがゲストにお祝いを述べるのを待つべきである。たとえば花束を渡す場合、スタッフが直接ゲストに渡すのがあり得ないのと同じ。

②上と重なるが写真が必要ならホストである僕が言う。勝手に聞くものではないし、よしんば親切心からだとしてもまずは2人の時間を大切にするべき。デザートの時間というのは食事のクライマックスでもあり、そこでプレゼントを渡したりする場合もある。そこにむやみにスタッフが間に入るべきではない。
これをされたことで僕は、写真を撮れば喜ぶんでしょう、というようなマニュアル化されたサービスを感じた。

③すでにかなり暇な時間帯で、デザートの提供タイミングはいくらでもコントロールできた。しかし先にアイスのデザートが運ばれてきて、そうこうしているうちに溶けてしまうのは予想ができる。ましてや写真を撮ろうという気があるのなら余計に時間がかかる。この点から皿盛りのデザートを美味しく食べてもらおうという気持ちが感じられない。
先に彼女のものを用意して一通り終わる頃に皿盛りのデザートを持ってくることもできた。もしくは固めに作っておいて同時に提供、というのもあったかもしれない。スタッフはディナーのセッティングをしてたのだから人手が足りなかったこともない。
どう考えても、先にアイス系の皿盛りを持ってくるという選択肢はあり得ない。


当日はこの時点でかなりイライラしていたのですけれど、実はこれに終わりませんでした。

さて第4問。第3問までの文章がヒントになっています。難易度★★~★★★


その後、コーヒーが運ばれ、食事も終わりを迎えようとしていた。僕がコーヒーにふた口くらい口をつけたあと、黒服(通常スタッフより上の立場。僕の知り合いのマネージャーとは別の人)が、「閉店時間になりますのでお会計をお願いできますでしょうか」と伝票を持ってきた。
確かに時間は閉店時間の15:00を5分ほど回っていた。僕はテーブルで会計をした。
会計後、僕がもうひと口コーヒーを飲んだあと、黒服がやってきた。
「申し訳ありませんが、閉店時間ですので、御退店をお願いできますでしょうか」と言ったので、僕は「わかりました」と席を立った。店内は僕らが最後の客で、マネージャーは電話予約の対応をしていた。
僕は憤りの気持ちを抱えながらエレベーターで黒服に見送られた。もう絶対この店には来るものかと思った。

問.僕が最後に憤った点を2点、具体的に挙げなさい。

↓このあと解答!

◯解答

①コーヒーをゆっくり飲む間もなく退店を促されたことに納得いく理由がないこと。

②黒服はマネージャーと僕が知り合いだと分かっているのに、電話対応を待たずに最後のお見送りをさせなかったこと。

◯解説

①まず、閉店時間を理由に退店を促すこと自体は悪いことではない。
問題なのはラストオーダーより30分前に入店しており、途中で時間の説明をされたり、料理のスピードを急かされたりすることもなかったことだ(また、僕らはそんなに食べるのが遅い方ではない。これはあくまで主観ではあるが)。
ならば客としては早い時間に入った場合と同じ過ごし方ができると思うのは当たり前ではないか。それなのにコーヒーをゆっくりと飲むこともできず機械的に閉店時間だからと退店を促されるのは納得がいかない。

また、これも正解にしてもいいと思うが、ゲストの目の前でテーブル会計をさせたのもやや納得がいかない。向こうは僕が同業者(サービスマン)であることはわかっている。少なくともマネージャーはその情報を黒服に伝えるべきである。
そういう人間が誕生日祝いで来店して、テーブル会計ではなくトイレなどに立つ振りをして会計をすると予測してくれていないのが不思議だった。僕にはそれを待つ間は感じられなかった。ゲストの目の前で強制的に支払いをさせられるのは気持ちのいいものではない。

②僕がマネージャーの立場なら黒服を呼び出して「なぜ3分待てなかった!?」説教するレベルの話。たとえば友達が来ていたのに知らないうちに帰すなんてことがありえるだろうか?最後に挨拶をしたいというのが心情ではないだろうか。客の僕は挨拶ができずに悲しかったです 。
正直のところ「僕はこのマネージャーにすごく嫌われていたのかもしれない、だから最後に挨拶をしてくれなかったのでは」とまで思った。それなら客として歓迎されていないわけだから金輪際店には行かないし、これが黒服のミスだったとしても自分の働いていた店の黒服がこのレベルだと思うととてもゲストをもてなすための店としてはもう使える店ではないと思った。
僕が本当に嫌われていて疎まれていた可能性もなくはないけれど、僕がこの店に行く理由がなくなったということには変わりなかった。



問題は以上です。
実はこれ以外にも細かい不満点はあったのですが、やや求めすぎかもしれないと思うものもあったので、省きました。

皆様はどのように感じられましたでしょうか。
単にお前が嫌われてたんじゃねえの?とか、求めすぎだ、という感想もあるかもしれません。
しかし、僕は現場にいたときはここに書いたくらいの内容は全て想定して動いていたつもりですし、それでも僕よりもっとサービスが上手な方はいました。それだけのプライドを持ってサービスという仕事に取り組んできました。

問題や解答によっては、店によってスタンスが違うというところもあったかもしれません。またこれは僕が働いていたその高級店に求めた内容であり、そうでない店に同じことを求めることはもちろんしません。

しかし今回の内容は「自分が働いていた店のサービスがここまでおちぶれてしまっていた」という点から、僕には決して譲れない出来事ばかりでした。帰り道、憤りと同時に残念さも感じていました。自分が働いた店でなければここまで思うことはなかったと思います。

かなり私的な思いが強い内容であり、読む方にとっては不快な思いをさせてしまったかもしれません。それでも僕にとってはサービスとは何か、を考えるきっかけでした。ぜひ皆様にとっても、サービスについてやってきたこと、これからできることを考えるきっかけになってくださればと願います。ではまた。

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