見出し画像

ラクして生きている

前に勤めていた会社でのこと。日系の会社にいたのだが、日本からの出張者があった。結構年配の男性であった。案内していてラクなタイプだった。以前ドイツに長く住んでいたというらしく、そういう意味では普通に外国の人と一緒にいるような感じだった。ランチか何かに行ったときのことである。私の年齢をかなり若く見積もってくれて、「だいたいあなたくらいの年齢の方は」といったときにその年齢が私の実年齢より10くらい下に見積もってくれた。あまりにおかしいので、別のところで種明かしをしたところ、「あらそー、外国で羽伸ばして生きてるからあんた若く見えるのねー。いいことよー。こっちいればラクできるもんねー顔が険しくならないわよー。日本帰ってごらんなさい。日本は女性が一番険しい顔してるからねえ。日本の女性は重荷を背負わされてへとへとよ。」とオネエ口調で言われた。

苦笑いするしかない感じだが、周りでそれを聞いていた人は「かなりひどいこと言ってるから、人事に言って注意してもらった方がいいんじゃない。」「あの人が失礼だからみんな険しい顔になるのよ」などと言ってくれたが、まあ、間違っていないと思って聞き流した。

正直、よく言われるセリフであると思われる。ラクしてるというか気楽という意味ではあたってる面があると思うので、「そうですねえ」としか言えない。ただ、「ラクしてる」という言葉はなんとも言えない。時と場合、人によってはそれを刺激と考えて、ある種人を感情的にさせる言葉なので相手をみないといけない言葉なのだろうと思う。

ラクというか、なんだろう、イギリス、特にロンドンはいろんな人種がいて、人がたくさんいるからみんな他人様に構ってられないということもあるし、いろんな人がいていろんな価値観が平行して走っているようなところなので、ほっておかれて生活をすることができる。人にとやかく言われることもあまりない。道でパンツ一丁で歩いていても、みんなまじまじとは見るかもしれないが、何も言わない。「そういう考え方の人が歩いている」程度だ。迷惑をかけていないならそれでいい、そういう主義でそういう考え方、健康法の人なのだろう、という程度だ。一目や世間様を気にしなくていいのだから、まずラク。

あと、イギリス人はいつも感じるのだが、「人に何かをとやかく言われる」ことを異常に嫌う人達である。人に自分のことをとやかくは言われたくない、だから、人と接するのも人にとやかく言われない程度、深い付き合いはあまりしない人達だ。(イギリス人のお友達を作るのは非常に難しい。)パブのおやじのパットが言っていたが、イギリス人が葬式の後にパブで精進落としみたいなのをするときは家族が集まってもせいぜい10名程度、アイルランド人になると、下手するとその晩はパブをキャンセルしないといけないくらい人が集まる、のだそうだ。

人にとやかく言われたくないから、EU離脱した説もあるくらい、人に何も言われたくないし、他人なんかどうでもいい人達である。困ってる人いれば助けるけど、他人に対する距離の置き方は、なんというか徹底して、距離を置くタイプの人が多いような気がする。

そんな中で「日本人」(得たいがしれない)というマイノリティで、イギリスで生きていくのは、「ラク」なのである。結婚しようがしていないが、男が好きであろうが女が好きであろうが、こどもがいようがいまいが、どうでもいい。まあ、だいたいマイノリティのアジア人なんかやつらの目には入っていないのだ、と思うことも非常に多い。

というわけで、ラクにふわふわ漂って生きることが可能だとは思う。

最近、日本のネットなどを見ていて思うのが、なんか「アラフォーの独身女性ががんばってアプリで婚活した話」とか「アラフォーだけどきれいなお姉さんの婚活奮闘記」みたいな記事やコミックエッセイなどがたくさんある。で、なんかやっぱりちょっと自嘲気味のエッセイで、読んでいる方も「こんなに世間知らずだから独身なんだよ」とか突っ込める感じのものが多いような気がする。だけども、それを読んだあとは、「そんなに年行った独身女性を世間様はみんなで笑いたいの?そういう需要がなきゃこんなにたくさん本やら記事がでないでしょ。」と思わざるを得ない。(こういうとらえ方はちょっとひねくれてるのでしょうか。)

(BBCのコメディドラマ「Miranda」という独身でかなり大柄で美人でもなけりゃブスでもない、普通のちょっと自意識過剰なアラフォー女性を主人公とした番組だが、このドラマがなんか日本の婚活ドラマなどに近い印象かしら。ただ、このミランダさん、いかにもいいところのお嬢さんというべきアクセント、もののたとえなどが結構教養がある人じゃないとわからないところがあったりして、「ただものではない」感があるので、あんまり悲壮感がないのですが。あと、まあ、そこそこのところでそこそこの男性が見つかることがドラマでも現実でも非常に多いような気がする。このドラマも確か近所のレストランのコックさんがお相手だったような気がする。なんとなく日常を過ごしていて縁があって、くっついてというのが多いような。職場で知り合った、いつもコーヒーを買ってる店でよく合う人だったとか。そういう意味で出会いや間口がそれなりにまだあるような気がする。)

あと、ものすごい多いなと思われるのが「旦那に不倫されました」とか「旦那がモラハラでした」「ワンオペ育児で子供を育てた話」「子供のアレルギーに理解のない姑と同居した話」とかそんな類のエッセイやコミックエッセイ。せっかく頑張って結婚した(独身の行き遅れとか言われないようになった)のに、今度は旦那に浮気されたりとか、モラハラされて苦労したりとか、家事育児に全く使えない旦那と子供の面倒をまとめてみたりとか、そんな話があちこちにあるのである。

(イギリスの場合、嫁姑の問題はあるにしろ、距離はあまり近くないし、結婚するときに挨拶に行ったきりという人も結構多い。あと、産みの母とは離婚していて新しいお父さんのパートナーだったりともともとの縁が薄かったりするので、姑が嫁をどうこう言うカルチャーもあまりないような気がする。逆に多いなと思うのが男性が嫁の親の悪口を言うパターン。娘と親が近いので、男性が何かやらかすと居場所がなくなるくらい追い詰めてくる母娘に参って別れる、という話が私の周りに多いかも。)

わたしが今見ている日本像や日本女性のことなんて、日本にいないからうわべだけなのだからなんとも言えないがこんなのを毎日見ていたら、本当に「日本の女性、大変だよ」と思わざるを得ない。だから、通りすがりに近い日本からの出張者の人に「あなたはラクしてるんだよ、恵まれているんだよ」と言われても何にもいい返せないのである。昔は女性は外へ働きに出る必要もなく、男性にも余裕があったからそれくらいのことは我慢したのだろうが、今はそれもないしな。(というかこういう考え方もおかしいよね。たまにこういう論調があるけど。何だからどうというよりは、自分で自分のことちゃんとやるという前提がないというのが問題だって話だが。)

イギリスの男だって、ヨーロッパの男だって、まあ不倫もすればモラハラもするだろうしセクハラだってするし、種だけまいて他に行くようなのもたくさんいるし、離婚しても養育費払わないのだって山ほどいるけど、なんだろう、日本ほど、女性にばっかりしわ寄せがくることはないと思っている。(行政が入ったりとかいろいろなところに分散されていくイメージがある。)

あと家事についてだが、イギリス人、人に何かをやってもらうことを極端に嫌がる人が多いイメージである。お金を払ってやってもらうのはいいが、ただの労働は嫌がる。前にお付き合いしていたイギリス人男性がわたしのためにバースディディナーを作ってくれたのだが、そのあとの皿洗いなどをやろうとしてえらい怒られたりしたことがある。「僕が作ったんだから、僕がやります、余計なことしないで。」と怒られたことがある。あと、洗濯ものがそのままになっているのをたたもうとして怒られたりしたこともあった。「余計なことしないで」。人に構われたりとやかく言われたくないから、そういう手出しも嫌がる人が多い。そのせいでシャツにしわがよったり、洗濯ものがたまって着るものがなくても自分の責任だから、それはそれでいいのである。家事をやりすぎて不機嫌になられるくらいなら、もう適当でいいし、ていうかやりすぎないのでほしいという男性が圧倒的な気がする。人と自分との線引きが日本よりかなり厳格なので、人に手を出されるのが嫌な人が多いような。


日本から離れて生活していて、親と話したり、人と話したりしていて「ラクに生きてるわね」とよく言われるのでちょっと思ったことを書いてみた。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?