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2022年春季東都大学野球1部・2部入替戦 中央大学×東洋大学 3回戦

ディス・イズ・ザ・デイ

スポーツで最もおもしろいと感じるのは、優勝が賭かった試合だ。その次に来るのが昇格・降格が賭かった試合だと考えている。
東都大学野球は4部まであるが、それぞれのカテゴリに自動昇格・降格がなく、上位カテゴリの最下位と下位カテゴリの優勝校が入替戦を戦って昇降格を決める。
今日観たのは1部最下位・中央大学と2部優勝・東洋大学との間で行われる入替戦。
1部と2部の差は顕著で、1部は神宮球場で全ての試合が行われるが、2部は逆に神宮で1試合もできない。まさに天国と地獄。
2015年秋には駒澤大学・今永と東洋大学・原が激突。ドラフト1位同士の投げ合いは歴史に残る入替戦だった。

先に2勝した方が来季は1部。そしてここまで1勝1敗。
この1試合で全てが決まる。野球人生を賭けた試合と言っても過言ではない。
まさに今日、この日。ディス・イズ・ザ・デイ。

西舘 勇陽

中央大学の先発は西舘(3年・花巻東)。高校時代から好投手と評判が高かった右腕だ。1学年上の兄も筑波大学で活躍している。
今季の中央大学は最下位と呼べるチームではない。リーグ戦で5勝、勝ち点2を挙げたにも関わらず、稀に見る混戦だったために同じ成績の大学が3校出てしまい、順位決定戦に巻き込まれた。

そして三つ巴の順位決定戦でも2勝2敗とイーブンの成績を収めたが、失点率の差で最下位となってしまった。
1部で断トツに弱かったわけではなく、限りなく4位に近い内容の最下位だったのだ。
西舘はチームのエースであり、防御率も1.91でリーグ2位。戦国東都を代表する投手で、来年のドラフト1位候補である。

細野 晴希

東洋大学の先発は細野(3年・東亜学園)。最速155kmの快速球を武器に活躍する、3年生ながら大学球界を代表する左腕だ。
細野に関しては先月上尾で観ているが、その際は疲れからかフォームに躍動感がなく、ピリッとしなかった。

ただ防御率は2.55の3勝0敗と、2部優勝には大きく貢献しており、上尾で観た時はたまたま疲れが溜まっていたり、調子が悪かったりしただけなのだと思う。
こちらも来年のドラフト1位候補、それどころか目玉候補である。

2日前に行われた第1戦でもこの2人は投げ合い、その試合は細野に軍配が上がった。互いのプライド、意地だけでなく、チームの命運、4年生の想い、全て背負った3年生エース同士、来年のドラフト1位候補同士のリマッチだ。

快投・力投

細野は何と言ってもキレのあるストレートがすばらしい。他に曲がりの大きいスライダーとスプリット。チェンジアップもあったか。
中1日でやや身体が重そうではあるものの、ストレートで打者を差しこめていた。
この日はカウントをとるスライダーが決まっていた。上尾で観た時は制球を乱して不利なカウントで勝負せざるを得なかったので、まるで別人のようだった。
タレント揃いの中央打線も攻略の糸口を掴めないほどの快投である。

西舘の持ち味は制球力。ストレート、スライダー、カーブ、スプリットをテンポよく投げ分けていく。
ストレートは特徴的で、まっすぐ来るボールもあれば、動いたり沈むボールもあるように見える。カットボール、ツーシームを交えていたのかもしれない。
この日は右打者の内角へのストレートが冴えていて、東洋の右打者は自分のバッティングができなかった。
東洋は初回に1番松本渉(4年・龍谷大平安)、3番石上泰(3年・徳島商)と、2人の左打者の長短打で先制。この1点は大きい。
だがそれ以降は東洋打線を寄せ付けない力投を見せた。

異変

快調に飛ばす細野と、力投を続ける西舘。ともにランナーをほとんど出さない緊迫の投手戦。
1-0で東洋リードのまま、試合は7回裏へ。
先に球が浮き始めたのは細野だった。
カウント球として有効だったスライダーが外れ出してくる。2日前に西舘より30球以上多く投げたのが響いたかもしれない。
連続四球を与え、ピンチを招いたが後続を経ちなんとかリードを保つ。
しかし限界に近づいていたのだろう、東洋は投手交代を決断。8回裏のマウンドには河北(4年・浦和学院)が立った。
河北はストレート、スライダー、シンカーと全ての球種がよく、中央打線を三者凡退に切り9回へと向かう。

劇的

1-0で東洋リードのまま、ついに9回裏まで来てしまった。
ただ、河北はプレッシャーがかかるマウンド。平常心を保つのが難しかったか。中央ベンチからの圧もものすごかった。
2番中前(3年・浦和学院)、3番森下(4年・東海大相模)に連続で四球を与えてしまい、無死一、二塁のチャンスをつくられて無念の降板。盛り上がる中央ベンチ。

3番手でマウンドに上がったのは島田(1年・木更津総合)。この場面で1年生を投入した東洋ベンチの大胆さ。よほど制球力がいいのか、ハートが強いタイプなのか。
打席には中央の4番北村(4年・近江)。北村は送りバントを敢行し、三塁側に高いバウンドのゴロが弾む。
投手の島田が捕って踏ん張りを利かせて一塁へ転送。が、その送球が逸れてしまう!
勢いそのまま二塁ランナーが生還して1-1の同点!土壇場で中央が同点に追いついた!
東洋は勝利目前で四球と失策で自滅してしまった印象。そうなると流れは中央。
なおも無死一、三塁で迎えるは5番石井(3年・作新学院)。石井は追い込まれながらもセンター前に運び、死闘に終止符を打った。

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試合後、中央の選手たちは喜びに沸き、東洋の選手たちはグラウンドに泣き崩れた。
明と暗のコントラストがあまりにも強烈で、感動的で、残酷だった。
忘れることのできない試合になった。

Most Valuable Player

西舘 勇陽
先制点を許したものの、その後は東洋打線に付け入る隙を与えず、9回を投げて被安打4、与四死球1の完投は立派の一言。
最速153kmのストレートはまっすぐ来たり、沈んだり動いたり。
なにより制球がよく、とくに内外角の投げ分けが冴えていた。



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