J2第31節 ヴァンフォーレ甲府vsFC琉球

前節栃木相手にハードな戦いを繰り広げてから中2日と厳しい日程でホームに琉球を迎える一戦。
昇格圏との差は12試合で勝ち点差13と絶望的な差がついてしまった。

一方の琉球は前節大宮に3-0と快勝を収めた。
順位こそ18位と下位に低迷しているが京都、大宮に連勝中と勢いがある。

前回対戦は琉球ホームで2-1と甲府が勝利を収めた。
直接対戦の成績は甲府の3戦全勝と相性がいい相手となる。

1.決定力

スタメンはこちら。

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甲府は前節から9人、前回対戦からは4人の変更となった。
注目は小林岩魚。
約2ヶ月ぶりの復帰となる一戦。
右のWBは怪我人も多く開幕から人材不足のポジション。
小林自身も離脱していた時間は長く、チャンスを多く得られるシーズンであったにも関わらず自らチャンスを逃してしまっていた。
今シーズンは残り試合も少なくなってきたが、この先の自分のキャリアのためにも大切な試合としたい。

一方の琉球は前節から2人、前回対戦から4人の変更となった。
注目は阿部拓馬。
2014年シーズン途中に甲府に加入し、1年半プレー。
その後、FC東京、韓国の蔚山現代、ベガルタ仙台を経て、今シーズンより琉球でプレーしている。
現在13ゴールを挙げ、得点ランキング3位につけている。
何でもできるオールラウンダーの阿部だが、チームとしても自由を与えている。

前節の栃木とは真逆のチームなだけにどのような一戦となるか注目となる。

立ち上がりから甲府が良い場面を作る。
まずは4分。

荒木の突破から最後はラファエル。
荒木からラファエルにパスが入る瞬間、中山が上原と鈴木を困らせるポジションを取っている。
それに対し、ラファエルがバックステップを踏みながら時間と場所を確保しシュートまで持っていった。

続いて5分。

まずは野澤のプレスバックから山本が奪い、DFラインの背後に落とすパス。
太田のシュートは阻まれてしまう。
立ち上がりから太田を捕まえきれない琉球。
DFラインと中盤の間に位置する太田を捕まえられていなかったが、CBとSBの間から裏を抜ける形で決定機を作った。

そして、7分。

山田のターンから太田が先ほどと同じく、CBとSBの間から抜け出したが、またもやカルバハルが立ちはだかる。
太田の裏抜けは充分通用しているだけに、フィニッシュの精度を高めたい。

各々の良さが噛み合いチャンスを続けて作るもゴールは割れず。
この時間に決まられなかったことが試合を難しくしてしまう。

試合後の沼田選手のコメントより。

『前半けっこうピンチになる場面が多く、それでもしっかり守れていたのできっ抗したゲームになりました。』

試合後の伊藤監督のコメントより。

『試合内容としては前半から琉球さんのボールポゼッションとコンビネーションというところで、我々は中を締めながらボランチの脇をやられないように試合に入りました。その中でしっかり中を締めながら守備が出来たと思います。攻撃のところもイニシアチブを取ってボールを動かせていましたが、最後のチャンスのところだけ足りなかったと思いました。前半はそういう印象でした。』

甲府はボールの保持時は山本が1列上がる形を取る。

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サイドで幅を取るのは両WBで、シャドーの2人はCB、SB、ボランチの間にポジションを取る。
琉球は442でブロックを敷く守り方。

一方の琉球のボール保持時。

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両サイドの選手が内に絞り、幅をSBの選手が取る。
阿部が自由に動き回り、ボールを引き出しながらゴール前に入っていく。

この形から琉球が最初のチャンスを迎える。

阿部がビルドアップに絡み、徐々にゴール前に入っていく。
そこへ市丸からロングボールが入り、池田、河合と繋ぎシュート。
フリーマンとなる阿部の特徴を活かしながら2列目の選手が絡んだ場面となった。

お互いにプレッシャーは激しく掛けない立ち上がりとなったが、徐々に甲府が強度を高めていく。
だが、前線からプレッシャーに行き出したことにより、中盤の背後にスペースが生まれ、そこに縦パスが入り出し琉球がボールを持つ時間が増え出す。

飲水タイムを経て、琉球も守備のプレッシャーを強めていく。
お互い守備の強度が高まったことにより、堅い試合となる。

直前に山本から中山へ楔のパスが入り、荒木から山田へと繋ぎシュートが打てそうな場面を作っていた。
山田がシュートを打てなかったことにより、小林のクロスに太田がヘディングで合わせた場面を作ったが、小林の左足からのクロスは可能性を感じさせた。
お互いにプレッシャーの強度を高めたことにより、中盤の背後、DFラインの前でボールを引き出すシーンが増え始める。

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甲府は前線3人で、相手DFライン4人を中央に留めるようなポジション取りをする。
それによりサイドへのスライドが遅れ、サイドからチャンスを多く作っていた。

一進一退の攻防が続く中、次のチャンスは琉球。

市丸から背後に抜け出した風間宏矢へ。
落としたボールに池田のシュートを岡西が防いだ。
市丸からのロングボールで作ったチャンスは2つ目。
フリーにすると決定的なボールが入ってくる。

アディショナルタイムに入ってすぐに甲府はいい形を作る。
中山が相手SBを引きつけ競り勝ち、背後抜け出た荒木へ。
そこから持ち運び時間を作り、最後は逆サイドの小林のシュート。
シュートの質を欠いたが良い形を作った。

試合後の小林のコメントより。

『逆サイドが空いていたので狙っていたが、ボールは枠に飛ばなかった。』

直後には琉球のチャンス。

阿部拓馬がクオリティの高さを見せたシュート。
岡西も落ちていて対応した。

序盤の決定機を甲府が決めきれなかったことで、結果的に前半は五分五分と言える内容となってしまった。

2.開花の時

後半の入りもどちらが優勢とも言えない立ち上がり。
琉球の阿部、甲府のラファエルにチャンスが訪れるもお互いに枠に飛ばせず。

54分の甲府のパスワークは見事。
小柳の縦パスを起点に太田と野澤のパス交換から最後は中山のシュート。
パス&ムーブで中央をこじ開けシュートまで繋げた。
琉球の守備が中を閉じるのが甘いとはいえ、この場面のように縦パスを積極的に狙い、中央を破る作業も必要となる。

後半最初の決定的なシュートは甲府。

山田のプレッシャーを合図に荒木、中山、ラファエルが連動し、中塩が縦パスをカット。
連動した守備からラファエルのパスに最後は太田。
ポストに当たるも8節水戸戦ではミドルシュートを決めているように太田にはミドルシュートもある。

58分についに待ちに待った瞬間が訪れる。

1度中盤のラインで受けた中山。
そこから中塩、荒木と繋ぐ間に背後へランニングする。

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中塩から荒木へのパスの瞬間、琉球は人数は足りている。
ゴール前の局面も数的優位は琉球。
中央でラファエルが相手CB2人を留めている。
荒木がサイドに張ることにより、SBを釣り出す。
それによりできたスペースに中山が侵入し、振り抜いたシュートが決まった。
前線3人で相手DFライン4人を留める場面は前半から見られたが、そこにWBが絡むことによりDFラインを広げた。
立ち位置の良さからできたスペースを活用した得点。

中山はルーキーイヤーから背番号7を背負い期待を集めるも、1年目は怪我もあり活躍できず。
2年目の今シーズン大きな成長を見せるも結果がついて来なかった。

試合後の中山選手のコメントより。

『プロになって1年目の去年はなかなか試合に絡めず、ケガもあってうまく試合にも入れなかった。2年目の今年は所々でチャンスをもらって、決め切れないところがあったけれど、今日は決められた良かった。』
『シュートを打たないと何も始まらないので、形はどうであれ決まって良かった。』
『ポジションはFWだし、結果にこだわりたい。今日は結果を残すことができたので良かった。』

試合後の伊藤監督のコメントより。

『1か月ぶりの試合になったということで、その1か月をしっかりとトレーニングをやってきて、積み上げてきたことがこの試合に出たと思います。積極性が足りないと思っていたので、今日は前半から積極性を出しており、後半そういう積極性で得点が取れたこと、本当に素晴らしかったと思います。この先が大事になってくるので、次の試合、またその次の試合で出場するときにどれだけ良いパフォーマンスを出せるか、それを継続できるかがすごく大事になってくると思います。単発で終わったり、5試合だけ良い試合をやって後はダメだったという事にならないように、しっかりと年間を通して良いパフォーマンスが出せるように積み上げが大事だと思います。それが今シーズン中山陸は出来ているので、これからもっと「チームを勝たせるプレー」をしてもらいたいと思います。』

出場する毎に成長を見せているが、結果だけが足りなかった。
ポジション争いのライバルは泉澤と攻撃陣で最も信頼されている選手なだけに厳しい相手だが、違った色を見せられる選手である。
この得点をきっかけに才能が開花するか。

3.我慢

直後に琉球は2人投入する。
鳥養と池田に代えて沼田と上原慎也を投入する。
クロスを上げる役、ターゲットマンになる選手と前線によりパワーを注入する。

一方の甲府は飲水タイム明けに小林と中山に代えて今津とドゥドゥを投入する。

試合後の伊藤監督のコメントより。

『怪我明けでまだまだ不安な材料はあったと思いますが、思い切ってやってくれたと思いますし、前半はカットインからのシュートでチャンスも作っていました。そういう意味では及第点かなと思います。まだまだコンディション面では90分の出場は難しいと思っていましたが、70分間プレー出来たことは次に繋がると思います。』

試合後の小林選手のコメントより。

『試合は楽しかったし、途中交代をしたが、与えられた仕事に集中して試合に勝てたことが良かった。』
『ケガをした箇所に対する心配はあったが、前半から後先考えずにプレーしていこうとした。』

復帰後の初戦としては充分な働きであった。
左足からのクロスでチャンスを演出し、走力を生かし、攻守に躍動した。
残り試合も少なくなってきたが、出場する機会はまだあるだろう。

琉球が高さのある上原を投入したのに対して今津を、カウンターから追加点を奪うためにドゥドゥを起用してきた。
これにより、中塩が左のWB、荒木を右のWBと新しい形を見せる。
小林が良いパフォーマンスを見せたが、右のWBは怪我人も多くなっているため、荒木が右でも戦力になると頼もしい。

甲府は試合をコントロールしながら時計の針を進める。

77分に上里、市丸に代えて小泉、風間宏希の投入を気に流れが徐々に琉球へ。
小泉、風間宏希を中心にボールを動かし、リズムを作る。

83分にラファエル、太田に代えて金園、松田を投入し、守備でカウンターでパワーがある選手を投入する。
しかし、効果的にカウンターが発動する場面は作れなかった。

琉球はパワープレー気味に上原慎也目掛けてクロスを増やすが、山本が立ちはだかる。

山本のクリアが短くなったところから、沼田のミドルシュート。
岡西は一歩も動けず、枠内に飛んでいたら決まっていただろう。
ポストに救われる。

88分には上原牧人に代えて田中を投入する。
その田中からチャンスを作る。

上原慎也の高さを生かすもゴールの上へ。

試合後の伊藤監督のコメントより。

『最後相手にボールを持たれて危ない場面もありましたけど、山本英臣を中心に体を張って守ってくれました。価値ある勝ち点3だったと思いますし、良いゲームだったと思います。琉球さんもすごく力のあるチームだと思っていますし、ボールを持たれた場面もありましたので、最後勝ち切ることが出来て良かったと思います。』
『クリーンシートで終われたこと、これは素晴らしいことだったと思います。今日は中2日でコンディションの部分で本当にきつい選手も中にはいたと思いますが、その中で結果を残してくれたことは素晴らしかったと思います。これはターニングポイントで、失点を0で抑えられたこと、しっかりゴールネットを揺らせたことはすごく大事なことでした。ただ欲を言えばセットプレーでもう1点、流れの中からもう1点、2-0、3-0という試合が出来ないと上に行くにはもの足りないと思います。より一層ゴールへの執着心と守備の硬さを継続してやっていかないといけないと思います。』

試合後の樋口監督のコメントより。

『僕らが攻撃的にやるならやっぱり1点、2点と追いついて、突き放すぐらいの試合をしたかったのが正直な感想です。』
『僕らがボールを動かすことで相手を押し込むという形がだいぶできていただけに、最後の攻撃の精度という部分もやっぱりもう少し上げないと点が取れないのかなと。特に甲府のように(守備時は)堅いブロックを敷いてくるチームに対して、結局最後までビッグチャンスまでは作らせてもらえなかった。そういう印象です。』

試合後の田中選手のコメントより。

『わりと五分のゲームだったと思います。僕らにもチャンスがありました。結局最終的には1点取られて甲府の堅い守備を崩せなかったというか、前回(第11節)のときと同じ感じで終わったという印象です。1点も取れずに終わったので、そこに関して僕らはまだまだ堅い守備を崩せるほどではなかったということだと思います。』

試合後の沼田選手のコメントより。

『最後のほうは自分たちで主導権を握るサッカーができたと思うので、そこは引き続きやっていかないといけないんですけれども、点が取れないところはやっぱりもうちょっと突き詰めていかないといけないところです。』

終盤は琉球が攻勢に出てチャンスを作り、甲府は我慢を強いられる展開も守りきった。

4.あとがき

立ち上がりに決定機を作りながら、決めきれなかったことが試合を難しくしてしまった。
終盤は勝ちきらなくてはいけないプレッシャーから後ろに重心が下がり過ぎてしまった。
ただ、この試合に課せられたタスクは勝ち点3を取ること。
反省点はあれどタスクは遂行した。
大幅なターンオーバーを行いながらも得た勝ち点3は価値のあるもの。
残り試合で戦力となる選手はたくさんいることを示した。
今節の勝ちをより意味のあるものにするために、次節以降も勝ち続けなくてはいけない。

MOM 山本英臣
今節話題の中心は中山陸であろう。
しかし、最も勝利に貢献したのは山本英臣だろう。
序盤は配球役として前線のタレントを活かし、終盤は最後の砦として君臨した。
琉球に攻められ続ける展開となったが、常に山本が立ちはだかった。
40歳を越えても進化し続けている。
攻守共に必要不可欠な存在だ。


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