J2第20節 ヴァンフォーレ甲府vs京都サンガF.C.

限定ユニフォームで迎える5連戦第3ラウンドの初戦は、ホームに京都を迎えての一戦となる。
現在の甲府は4位で昇格圏の2位長崎との差は勝ち点6となっている。
前回の5連戦では初戦に栃木に完敗を喫したが、その後首位、2位の北九州と長崎に連勝するなど4試合連続完封で、3勝1分1敗で終えた。
上り調子の中、今回の連戦では上との差をより縮めたい。

一方で京都は現在5位。
甲府のすぐ下につけている。
現在3連勝中とこちらも好調をキープしており、3試合連続で完封している。
ウタカ、曽根田と昨年まで在籍していた選手や黒木聖仁と以前在籍した選手も多くおり、甲府のアカデミー出身の川崎もいる。

直接対決の成績は7勝5分9敗。
ホームでは3勝2分5敗。
敗戦のほとんどは初昇格した年以前のもので、西京極で杉山新が退場して以降は大木監督に小瀬で完敗した以外は負けていない。
甲府の2連勝中で5戦負けなしとなっている。

今節行われる9月19日は伊藤彰監督の48歳の誕生日である。
伊藤監督に勝利という誕生日プレゼントを渡したい。

1.質的優位

スタメンはこちら。

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甲府は前節から8人を変更。
松田は今節の出場でJリーグ通算200試合出場となった。
注目は泉澤仁。
前節相手にペースを握られた要因にサイドの高い位置を取れなかったことにある。
前節は幅取り役にWBを使っていたが泉澤がいればサイドの高い位置を取れるだろう。
対面の飯田は攻撃に特徴がある選手なだけに飯田を自陣に釘付けにしたい。

一方の京都は前節から2人を変更。
注目は曽根田穣。
チームの中心、核はウタカであり昨シーズン甲府では20ゴールだったが、今シーズンは19試合を消化した段階で13ゴールを挙げている。
それでも曽根田を挙げたい。
びわこ成蹊スポーツ大学より加入して昨シーズンまで3年間甲府に在籍していた選手である。
1年目はリーグ戦での出場は無かったが去年、一昨年と曽根田の存在感は大きかった。
間で受ける上手さやドリブルには警戒したい。
小瀬凱旋の試合となるだけに注目となる。

甲府は立ち上がりから強度高く入る。
開始1分で中村がイエローカードをもらってしまったのはあまりにも早すぎたが、強度高くハイプレスを仕掛けていく姿勢を見せた。

一方の京都は好調と言われていた野田から荒木に変更したことからシステムの変更も考えられたが、そのまま野田の位置に荒木を起用してきた。

今節の甲府の可変はこの通り。

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まずは泉澤と松田で幅を取り、押し込んだ形になれば右サイドは藤田で幅を取り、松田がインサイドを取る。
そして甲府として狙いたいエリアはWBの背後と庄司の脇。

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だが、庄司の脇のスペースはなかなか使えなかった。

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甲府のビルドアップは相手の立ち位置を見て、優位性を持てる部分で勝負に行く形を取っている。
そのためブロックを敷かれ曽根田、金久保にこのエリアを埋められてしまう。

では甲府の優位性を持てる部分とはどこかと言えば左サイドの泉澤である。
J2屈指のドリブラー泉澤に飯田との1対1の状況を作り出すことが狙い。

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しかし、ここで厄介だったのは曽根田の存在。
スライドが速く完全に1対1の状況をなかなか作れない。
また、3バックのため右の森脇も近い位置でカバーできるため3人で対応される場面も見られた。

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そこで内田がフリーになるためここを活用したかったのだが、内田のキックの精度が上がらなかったのが誤算となる。

一方で京都は何でもできるウタカに自由を与える。

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ウタカに自由に動き回らせるため荒木が基本は最前線に張っている。
荒木が落ちてきた時には金久保や曽根田が飛び出していく。
また、京都はウタカ以外の選手で守る戦い方を選択していた。
ウタカのストロングを最大限活かすため守備の負担を減らしていた。
バイスという圧倒的な個の力を備えているからできることでは無いだろうか?

甲府は組織の中でいかに個の能力を発揮させるかを考え、京都は個の力を活かすことから組織作りをしていた。

2.供給源

試合前の新井選手のコメントより。
『(ウタカは)ボールが入れば個人で打開する能力は今もあるし、入ってしまうこともある。全体で気を使ってそこに供給させないこと。そうなればその後(ウタカが)どうなるかは去年一緒にプレーしているのである程度は分かる。無理目のボールも全体で圧を掛けると対策に繋がると思う』

ウタカにボールを入れさせないことがこの試合のテーマの1つであった。
その供給源として警戒しなくてはいけない存在としてバイスと庄司が挙がる。
前述のように開始1分で中村がイエローカードをもらったが、庄司に対して厳しく寄せたプレーであったように供給源となる2人には自由にやらせない意識は感じられた。

一方で、一瞬でも隙を与えるとこのような場面を作られてしまう。

庄司から出た場面だがバイスからも同じようなボールは出てくる。
ただ、試合を通してこの場面以外は供給源を断つことに成功し、ウタカをゴールから遠ざけることもできていた。

その中心はラファエルと松田の2人。
2度追い、3度追いを厭わず前線からプレスをかけ続けた。
攻撃面でもフリーランニングを繰り返し行なっており、献身性は見事である。
ラファエルに代わって投入された太田も同様のプレーを続け前線からのプレスの強度を保った。

試合後の伊藤監督のコメントより。
『前線のプレッシャーとラインコントロールは毎試合ごとに良くなっていると思います。庄司選手とヨルディバイス選手のところ、そこのところのボールの供給を断つというところ、そこのポジションへのプレッシャーもある程度できていたと思います。ラインがしっかりコントロールされていることで、ウタカ選手に対してや、相手の2列目の選手のランニングに対しての準備も出来ていました。前半1つ、ウタカ選手に裏を取られてシュートまで持っていかれた場面がありましたが、それ以降はやられることが無かったのは良かったと思います。』

3.静観

今節の試合の見方は二手に分かれるのではないだろうか?
引き締まった好ゲームと捉えるか、特段見るところの無かった凡戦と捉えるか。
分かれるポイントは2つ。
その1つ目は交代枠が今シーズン5枚ある中で甲府は1枚、京都は2枚しか使わなかったこと。

甲府側も京都側も早く選手交代をと臨んだ人もいたのではないだろうか?

試合後の伊藤監督のコメントより。
『バランスを取らなくてはいけないことと、次のゲームがあること、このゲームを落とせないこと、最低限の仕事をしなくてはいけないこと、選手を変えてバランスを崩してしまう恐れがあること、これらをゲームの中でしっかり考えました。その中で、勝ち点1を取るために、さらにはプラスアルファしてゴールをこじ開けるために考えた中での1回でした。もしかしたら「もっと変えれば良いのではないか」という声もあるかもしれないのですが、それは変えてみないとわからないですし、それ以上に相手のディフェンスラインの裏を取れていたので、彼らを信じて最後までやってもらいました。それは私の判断ですし、良かったと思います。』

試合後の實好監督のコメントより。
『スタートから勝点3を意識していましたが、時間の経過と試合の流れ、あとはお互いのバランスを見て、「動かないほうがいいかな」という思いがあり、今日の選手交代になりました。』

試合の流れやバランスを崩したく無かったと両監督が仰っているように、今節はそれだけ緊迫した試合であった。
リスクに対してリターンが大きければ選手交代に踏み切っていただろうが交代はリスクとお互いに感じた。
先に動いたのは京都であった。
57分に荒木、野田に代えて野田と福岡を投入した。
これは元々のプランにあった交代だったのではないか?
前節のスタメンに戻した形である。

甲府が動いたのは5分後。
ラファエルに代わり太田を投入する。
この狙いはハイラインの京都のDFラインの背後を太田に抜け出して欲しいからだ。

その後は前述のようにお互い交代はせず残りの30分近くを過ごすことになる。
甲府には宮崎とハーフナー・マイクと攻撃的なカードを京都には中川、谷内田と2列目のテクニシャンを残していた。
甲府は先に太田を投入していたことから宮崎、マイクを起用する場合は泉澤か松田を代えるしか無かったが守備面のリスクを考えてみても攻撃で得られるリターンは大きかったのとはいえないかもしれない。

一方に京都は中川、谷内田を起用する場合は曽根田に代えての起用しか無かったと思うが前述のように曽根田の守備面での貢献度を考えれば交代はできなかった。

選手交代というのは結果論であり、代えなかったことにより勝ち点1を守ったことという見方をすれば成功であり、勝ち点2を失ったことを考えれば失敗というだけのことである。
今節の見方としては勝ち点1を守ったと捉えるのが大事なのではないか。

4.コンパクト

2つ目はお互いにコンパクトさを90分保ち続けたことにある。
引き締まった好ゲームと捉える側はコンパクトに保ち、戦術上や技術的なミスはほとんど無かった試合であった。
一方で凡戦と捉える側からしたらゴール前の攻防が少なかったからこそ凡戦と思ったのではないか。
特にDFラインでボールを回している時間もあり、もっと前線に送って欲しいと思った方も多かったのではないか?

オープンな展開の方が面白いという見方も多いかもしれないが、当然リスクも大きい。
スペースが広大にある状況では個の能力を発揮しやすい。
すなわち京都側のがメリットが多くなる。
京都にはウタカという圧倒的な存在がおり、ウタカに自由にやらせないためにはオープンな展開は避けなくてはいけない。

コンパクトさを保てた要因は前述のハイプレスとハイラインが要因である。
前述の伊藤監督のコメントも参考にしていただきたい。

オープンな展開に持ち込まなくてもチームとしてスペースを作りだし決定的な場面は作れている。

いずれも共通しているのはサイドの高い位置で幅を取り、そこから相手D Fラインを押し下げるパスが出ている。
この形を維持したままゴール前の質を高め、ゴールに迫る回数を増やしたい。

試合後のヨルディ・バイス選手のコメントより。
『リスクを冒すことは非常に大事なことですし、今日はお互いにそのエネルギーがもう1つ欠けていた部分はあると思います。ですが、非常に説明しにくい感覚ですけど、お互いのチームが勝ちたいと思っている中で、「リスクをかけたいけど、かけられない」というシチュエーションが存在します。
「勝点3が必要だけど、勝点ゼロは良くない。この状況では勝点1を分け合わなくてはいけない」という感覚も今日に関してはあったと思います。ただ、1つ声を大にして言いたいのは、この4試合でわれわれは勝点10を取り、4試合続けてクリーンシートを達成しているということ。それは本当に大きな、ポジティブな部分。これをまたしっかりと続けていくということが、非常に大切だと思います。』

このコメントがこの試合を物語っている。
甲府に置き換えれば、この5試合で勝ち点11を取り、5試合続けてクリーンシート(無失点)を達成している。
チャンスも作れているだけにあとは決めきるところの質が上がればリスクを冒さずとも勝ち切れるチームになれる。

5.あとがき

伊藤監督の誕生日を勝利で祝えなかったことは残念である。
しかし、妥当な結果と言える。
非常に見応えもあり、あっという間の90分だった。
引き締まった好ゲームであったが、惜しむらくは14時キックオフ。
まだ残暑厳しい甲府盆地でこの時間のキックオフは非常に厳しい環境であった。
お互いにアクシデントが無くて良かったと思う。
また、18時あるいは19時キックオフであればより内容の良いゲームが見られたのでは無いかと思うと残念ではある。
お互い攻撃面でパワーが出しきれなかったことも暑さが影響していたのではないか。
J1に戻るために守備は安定してきただけに攻撃面で仕留めきれなかったことは課題であり、起爆剤が求められところではあるが、甲府の太陽の復活も近い。
起爆剤となる存在はまだ残っており今後も期待はできるだろう。

MOM 新井涼平
ウタカ封じを小柳、今津と共に見事に遂行。
試合を通してハイラインを敷き、コンパクトな陣形を保ち決定的な場面は作らせず。
攻撃面ではアンカーに上がる形では攻撃のハブ役や3バックの位置に留まる形では起点となっていた。



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