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J2第1節ジェフユナイテッド市原・千葉レビュー

いよいよ待ちに待ったJリーグの開幕。
開幕戦の相手はジェフ千葉。
アウェイ席が販売されず、開幕をスタジアムで迎えることができなかったが、昨シーズン昇格を断たれた地で幸先の良いスタートを切りたい。

1.スタメン

甲府は直前に泉澤が負傷したことで、開幕戦を欠場することとなった。
泉澤を欠く左シャドーには金井が1列上がり、左WBにはルーキーの関口が起用された。
特別指定で昨年2試合に出場しているが、ルーキーの開幕スタメンは昨年の中塩に続いて2年連続となる。
最もポジション争いが熾烈なボランチには野澤英之と中村のコンビが選ばれた。
GKには昨年飛躍した岡西が2年連続の開幕スタメンとなった。
ベンチには新加入の野津田やルーキーの鳥海が入った。

千葉は守護神の新井章太を欠き、鈴木椋大が先発となった。
CBに鈴木大輔、サイドには福満、岩崎、トップに大槻と4人の新戦力をスタメン起用。
松原、ブワニカ啓太と高卒ルーキーがベンチ入りした。

共にチーム最大の「武器」を欠いて迎える開幕戦。
ベストメンバーで戦えないことは残念ではあるが、代わって出場機会を得た選手にとっては大きなチャンスとなる。

2.ハイインテンシティ

甲府は立ち上がりから昨年との違いを見せる
パススピードとプレスの強度、連動性が増しチームとしての総合値を高めてきた。
前線のタレントに依存してきた長年の歴史が変わる雰囲気を漂わせる。
一方の千葉もプレス、球際の強度も高く肉弾戦が増える立ち上がりとなった。

甲府は外へのパスコースを切りながら、縦パスに対しては相手の受け手となる選手を捕まえることでロングボールを蹴らせメンデスの高さを活かし跳ね返していく。

ファーストチャンスは甲府。
13分に鈴木大輔がGKの鈴木椋大に下げたボールに対し有田がプレスを掛け、ボールを奪いシュートを放つも鈴木椋大に防がれる。

この場面、有田はパスを出した鈴木大輔へのリターンパスのコースを消しながらGKへプレスを掛けている。
それに連動し、金井が岡野を中村が熊谷をマークし、パスの受け手を捕まえている。
有田の頭を越すパスで鈴木大輔へ通されても三平がプレスに行ける距離におり、鈴木椋大にはパスコースが無くなっていた。
受け手を探す間に有田がスピードを上げ、ボールを奪い切りシュートへと繋げた。
昨シーズンは前線からのプレスが機能しない試合があったが、有田の加入は攻撃面だけでなく守備の基準点としても大きな補強となった。

このプレーの後から左右のWBを入れ替える。
サイドから斜めの縦パスを入れ、シャドーやボランチの選手が前向きにサポートする形を狙い、逆足のサイドに2人を置いていたと思われるが、15分ほどで入れ替えることなる。
高い強度のプレスに対し、ボールを保持できない中でサイドを入れ替え変化をつける。

立ち上がりはお互いにプレスも早く、強度の高い入りとなった。

3.ビルドアップ

次のチャンスは17分。

FKの流れから小柳が対角線のフィードで、大外でフリーとなった金井へ。
胸トラップからシュートを放つもゴールの外へ外れた。

千葉にとっての最初のチャンスは20分。
左サイドからのCKにキッカーは船山。
昨シーズンのフクアリでの一戦では直接決めているが、この場面はニアサイドで米倉に合わせた。
ゾーンで守る甲府に対し、ニアサイドに曲げて落とすボールを入れドンピシャで合うもシュートは岡西の正面。

前半も中盤に入り、徐々に千葉がプレス開始位置を下げ出したことで、甲府がボールを保持する時間が増えだす。

伊藤ヴァンフォーレの大きな特徴である可変はあまりせず、後方の数的優位を活かし、サイドへボールを運ぶ回数は増えるがその先へ前進するパスが相手に奪われてしまう。
意図的にサイドから斜めのボールを入れていくも合わない。
だが、チームとして狙いは共有できているだけに意識の共有と精度の向上が課題となる。

29分に甲府はアクセデントにより選手交代を行う。
金井に代えて野津田を投入する。
そのまま金井がいた左シャドーに入った。

36分には交代で入った野津田にビッグチャンス。

山本が相手DFを引きつけ、関口がダイレクトで逆サイドへ。
チームとして狙っていたサイドからの斜めのパスからチャンスを演出した。
米倉が荒木に食いついて空いたCBとSBの間で野津田がフリーで受け、左足を振るもポストに阻まれてしまう。
相手を引きつけ、逆サイドに展開しチャンスを演出する形は今後も見られるだろう。

39分にも良い形を見せる。

数的優位を活かし、ビルドアップからサイドへ運ぶ。
それに合わせ、ボランチが連動し動き出しサポートに行く中村と前線に飛び出す野澤と縦の関係を築く。
関口と中村のパス交換でDFを引きつけ、山本に時間とスペースを与える。
野澤が関口に食いついた安田と鈴木大輔の間のスペースに飛び出し、山本からロングボールが入るもパスが長くなってしまいチャンスとはならなかったものの連動した攻撃を見せた。

45分には小柳、岡西、メンデスで相手を食いつかせDFラインの背後に抜け出した有田へロングパスを送る。
有田のハンドを取られてしまうが、良い形を作った。
昨シーズンのフクアリでの一戦は小柳、今津、メンデスの3バックで臨みビルドアップで苦戦し敗れた。
だが、今節は小柳、メンデスにビルドアップで明らかな成長が見られた。
パススピードは増し、積極的に縦パスを狙う姿勢が見られた。
金井の決定機での小柳のロングパスとこの場面のメンデスの縦パスのように攻撃の起点となる役割を見せた。

このハンドでのFKから先制点が生まれる。
FKを小柳が跳ね返し、野津田がセカンドボールを拾う、
三平へと繋ぎ、一度DFラインへ戻す。
DFラインとGKでパスを繋ぎ、山本から中村、野澤へと繋ぐ。
野澤が大きく後方へトラップするのを合図に可変が始まる。
小柳がサイドに張り、野澤から山本、山本から小柳へと繋ぎ関口とワンツー。
小柳が縦パスを有田に付ける。
ハイライト動画はここから。

有田が中盤でのポストプレーから左サイドの荒木へ展開する。
荒木のクロスが中村に渡り、冷静に相手を交わしゴールを決めた。
有田のポストプレー、荒木のクロス、中村の落ち着きとシュート。
昨シーズンは3得点挙げている中村だが、プロ初の足での得点となった。
個々人の質もさることながら、荒木のクロスに対して4人がゴール前に入っていたことは見逃せない。
有田が左サイドに展開した瞬間に一気にスプリントしてゴール前に入っていった場面は迫力もあり、シーズンオフに鍛えてきた証明と言える得点となった。
伊藤監督にとっては就任3年目で初めての開幕戦の得点。
ビルドアップで相手を剥がし、連動して前進しクロスに対し、人数を掛けゴールを奪った。
伊藤監督の目指す形を体現したような得点となった。

試合後の伊藤彰監督のコメントより。

『速いサイドチェンジとクロスは狙っていたので、それができたことはよかった。』
『トレーニングでクロスにしっかり入っていくことをやっていたので、ゴール前に4枚入っていて素晴らしかった。』

試合後の荒木翔選手のコメントより。

『中が空いた。有田光希選手と三平和司選手がディフェンスラインを引っ張ってくれて空いているところを見つけることができた。ボールは少し浮いたけれど、中村亮太朗選手がうまく決めてくれた。』

試合後の尹晶煥監督のコメントより。

『全体的に中央のエリア、ボランチのエリアで、セカンドボール、球際、そういう部分がうまくいかなかったと思います。そこから相手のサイドチェンジが増えていました。そこでセカンドボールを拾えていたら攻撃の回数は増えていたと思います。結局そうできなかったことが失点の理由ではないかと。それが試合の流れを左右するので、そういう部分が大きかったと思います。』

徐々にビルドアップで相手を剥がし、連動した攻撃を見せることができた前半は終盤続けて良い形が出た中で先制して終えることができた。

一方の千葉は甲府の左サイドの裏を狙う意図は見えたものの、そこでメンデスの強さに跳ね返され時間が進む毎にプレスが弱まりセカンドボールの争いで勝てなくなると甲府にペースを握られる展開となった。
決定機もいくつか許す中で、甲府の決定力不足に助けられていたが、最後に失点してしまった。

試合後の尹晶煥監督のコメントより。

『相手の裏のスペースにボールを落として、敵陣に侵入してそこからスタートするという話もしました。ただ、そういう意識のタイミングをうまく合わせられなかったと思いますし、違うプレーがもっと出てこなければならなかったと思います。』

4.才能

千葉は後半の頭から船山と福満に代えてブワニカ啓太と末吉を投入する。
前半良い形を千葉は作れなかったが、新戦力2人に託す。

試合後の尹晶煥監督のコメントより。

『(福満)隆貴は「まだできる」という意欲を示していたし本人の意地もあったと思いますが、前半、少し足首を痛めていたので、無理をさせるより休ませようと考えました。タカ(船山)も一生懸命にやってくれていましたが、思ったようにできない場合もあります。(末吉)塁は素晴らしいスピードを持っていますし、相手の裏に侵入していく動きもある。突破からクロスという流れが必要でした。ブワニカは運動量がとても多く、ボールに関与できる選手です。今日みたいな試合では彼らのような選手が必要になってくると思いました。』

開始9秒でブワニカがいきなりシュートを放つ。
高卒ルーキーのデビュー戦ながらファーストプレーでいきなり魅せた。

ブワニカと末吉が投入されたことにより、千葉の攻撃陣に動きが出始める。
一方で甲府はピッチを広く使いながら、千葉のボランチの脇やSBの裏を突いていきジリジリとゴールに迫るがシュートまではいけない。

試合後のブワニカ啓太選手のコメントより。

『自分が入って点を取るイメージを持っていましたし、流れを変えなきゃいけないと思って入りました。』
『緊張はしましたけれど、1年目で初出場なので「怖いものはないな」と思って、思い切ってピッチに入りました。』

このコメントの通り、52分にブワニカが試合を動かす。

左サイドからの安田のクロスにブワニカが合わせ、同点に追いつく。
安田のクロスは質が高かったが、ブワニカの高さの優位性を活かした得点となった。

試合後のブワニカ啓太選手のコメントより。

『1回自分でクロスを上げて、ゴール前を通りすぎてしまって。でもミチくん(安田理大)が拾うのが見えたので、切り替えて中に入りました。そうしたら本当にいいボールが上がってきて、いつも練習しているヘディングで決めることができたので最高のゴールだったと思います。』

試合後の尹晶煥監督のコメントより。

『メンバーに入って、試合に出るということは、彼がジェフに入って努力してきた証だと思います。何かを吸収しようとする気持ちが常に出ているし、そういう姿勢をキャンプから示し続けたことが今日の結果につながったと思います。彼がどう化けるかは本人にかかっていると思います。』

試合後の伊藤彰監督のコメントより。

『プレシーズンでもクロスからの守備が課題だった。クロッサーに対してもう少しアプローチを掛けないといけない。いい状態で上げられると相手も狙っている。一つひとつ対応しないといけない。身体をつけるなど簡単にやらせないことが大事。』

試合後の荒木翔選手のコメントより。

『身長差があって仕方がないところがあるが、メンデスに任せてしまったところに反省点がある。』

最初のところでメンデスがクリアできていたら、三平がもう少し寄せていたら、逆サイドにボールが流れた時に荒木とメンデスのポジションを入れ替えていたら、荒木がブワニカに厳しく体を寄せ自由にヘディングさせていなかったら。
失点を許すということはいくつかの原因が考えられる。
今回の場面でもどれか一つクリアしていたら、防げたかもしれない。
伊藤監督のコメントを見るとプレシーズン中もクロス対応へは課題があったことが伺える。
だが、ボールがゴール前を横切り、再度ファーサイドにクロスが上がってきた場合の対応は難しいものである。
安田のクロスもブワニカのヘディングも見事であった。
千葉の質の高さを褒めるべきだろう。

千葉は甲府の3バックの脇で起点を作ることを狙うが、前半は大槻がメンデスにシャットアウトされ機能しなかった。
ブワニカがメンデスと五分で渡りあうことで千葉は前半と違い、前線で時間を作れるようになり、巻き返していく。

ブワニカのプレーエリアを見ていただければわかるが、中央でのプレーは多くない。
大槻も似たような傾向にあった。
後半に入り、攻められる時間が増えた甲府だが、決定的な場面や中央を破られた場面はほとんど無かった。
中央を堅く守ることができているだけに、前述したようにクロス対応を改善したい。

失点を境に甲府はボール保持時に山本が中盤に上がる形を増やしていく。

高卒ルーキーが千葉の流れを変えたのに対し、甲府は67分に大卒ルーキーに状況打破を託す。
有田に代えて鳥海を投入する。
三平が最前線に入り、左に鳥海、右に野津田の3トップに変更する。
有田にボールが入った時には安定したポストプレーから起点となっていたが、ボールが入る回数は少なかった。

攻撃面ではビルドアップが改善され、相手の最初のプレスを回避することはできていた。
問題は中盤から前へ前進を図る際にミスが多く出たこと。
それにより、最前線で起点となれる有田がいるにも関わらず、有田までボールを運べる機会が少なかった。

飲水タイム明けの71分に千葉は再び2枚代えを行い、逆転を狙う。
熊谷と大槻に代えて高橋と見木を投入する。

広い守備範囲でセカンドボール争いの要であった熊谷が交代することとなった。

敵陣でファールを貰い、FKはたびたび得るもゴールには迫れない甲府は83分に三平と野澤に代えて宮崎と山田を投入する。
有田の交代以降前線で時間は作れなくなったことで、中盤の守備を高め速い攻撃でゴールに迫ることを狙う。

お互いに大きな見せ場は無い中で、終盤に甲府が大きなチャンスを得る。
CKから小柳のシュートを岡野が防ぐが、ハンドの判定で甲府がPKを得る。
昨シーズンは一度しか無かったPKを開幕戦でいきなり獲得する。
キッカーは野津田も鈴木椋大が防ぐ。

PKを外すことができるのは、PKを蹴る勇気のある者だけだ

これは元イタリア代表のロベルト・バッジョの言葉である。
自ら志願して蹴った勇気は称えなくてはいけない。
それだけ大きな覚悟を持って甲府にやってきたことがわかる。
開幕戦では結果が出なかったが、この覚悟は報われるはずだ。
そして、野津田は外したわけではない。
止められたのである。
責められるべきではなく、止めた鈴木椋大を称賛するプレーであった。
鈴木椋大にとっては新井章太の負傷で得たチャンスを活かすことができた。

試合後の鈴木椋大選手のコメントより。

『まずはPKをストップすることが出来たことで一つ仕事ができたと思っています。ただ1失点目はもう少し自分としてできたと思うし、反省するべきところ。
全体を通しては、勝点1を取れたという意味では最低限の仕事はできたんじゃないかと思っています。』

開幕戦は可能性を示しながらも、千葉の新たな才能の前に欲しかった勝ち点3には届かなかった。

5.MOM

ブワニカ啓太
試合の流れを一変させた。
最初のプレーが全てだったのではないか。
投入後いきなりシュートを放つ積極性が得点に結びついた。
高さ、身体能力があり足元の技術も高く、得点に貪欲な選手。
今シーズン、大きな注目を集める存在となるかもしれない。
名前を覚えておいて損はない選手となるだろう。

6.あとがき

伊藤体制3年連続の開幕戦ドロー。
前半は良い形もいくつか見せ、先制にも成功し期待感を漂わせたが追いつかれ勝ち越すまでには至らず。
途中交代で入った選手が仕事をした千葉とスタートで出た選手が最大値だった甲府。
千葉とは大きな選手層の差を見せつけられた。
野津田は最初としては最悪な結果に終わってしまったが、プレー内容は良く、チャンスにも絡めていただけに気持ちを切り替えて次に向かって欲しい。
鳥海はデビュー戦で悪い流れの中での投入であり、難しい状況であったが試合に入りきれなかった。
だが、光るプレーも見せた。
出場機会の少なかった宮崎と山田も含め、若手が成長することで選手層は厚くなる。

悔しい引き分けに終わってしまったが、Jリーグがある日常が帰ってきた。
勝ちきれなかったが、悲観する内容ではなかった。
開幕戦は勝てないものと割り切って大宮戦へ気持ちを切り替えていきましょう。
Unite for the Next


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