J2第29節 ヴァンフォーレ甲府vsFC町田ゼルビア

前節群馬に敗れた甲府は今節ホームに町田を迎える。
上位相手に連勝したことが無駄になってしまう敗戦となったが、引き摺らず切り替えたい。

一方の町田は3試合連続完封中。
10月に入り1勝3分1敗と簡単には負けないチーム。
順位は14位に留まっているが、前節は首位で12連勝中だった福岡の連勝を引き分けながら止めた力のあるチーム。
3試合連続で同じメンバー、25試合以上先発した選手が7人とメンバーを固定して戦う傾向にある。
ちなみに甲府は1人もおらず、25試合以上の出場も岡西1人と甲府とは対照的なチーム。

リーグ戦での直接対戦の成績は2勝4分1敗と甲府が優位に立っている。
ホームでの成績は1勝1分1敗と五分五分となっている。

1.完璧な前半

スタメンはこちら。

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甲府は前節から7人、前回対戦からは2人変更となった。
注目は泉澤仁。
武田と共に5試合連続の先発となる。
攻撃は泉澤への依存度が高まっており、前節は完全に封じ込まれ得点は取れなかった。
泉澤を抑えられれば打開できない現状だが、厳しいマークを掻い潜り得点に繋がるプレーに期待したい。

町田は前節から1人、前回対戦から3人変更となった。
注目は酒井隆介。
開幕から全試合スタメンで出場を続けてきた深津が出場停止の今節。
前節まで3試合連続で右のSBとしてスタメン出場していた酒井がCBに入り、右SBには開幕からスタメン出場を続けるも酒井にポジションを取られてしまった小田が入った。

開幕戦が遠い昔のように感じるが、開幕からメンバーを固定し、積み上げてきた町田とターンオーバーを積極的に行い、開幕とはやることも大きく変わった甲府。

立ち上がりペースを掴んだのは甲府。
町田が前から激しくプレッシャーをかけては来ないので、落ち着いてボールを動かす。
町田はシンプルに前線に長いボールを入れる。

試合後の伊藤監督のコメントより。

『前半から自分たちがイニシアチブを取りながら、先制点を取りに行こうというアグレッシブな姿勢を選手たちが見せてくれました。 』

試合後のポポビッチ監督のコメントより。

『私が非常に腹立たしいのは、開始からゲームに入れない選手が何人かいたことです。』

アグレッシブに主導権を握ろうと入った甲府と試合に入れなかった選手がいた町田。
開始9分で試合が動く。

武田からの見事なサイドチェンジからピッチを広く使っての得点。
左で優位性は作れるだけに右のWBが高い位置を取れれば得点を取れる可能性は高まる。
甲府にとっては理想的な得点となった。

試合後の松田選手のコメントより。

『ちょっとマイナス気味のボールでしたが、練習でも得意としている形でうまく合わせることができて良かったです。長い間点を取れていなかったし、移籍してホームで初ゴールを決めることができて良かった。』

試合後の伊藤監督のコメントより。

『我々がやろうとしているところ、攻撃に厚みを持たすことやサイドからの攻撃、さらにいま中央のところでの攻撃を取り組んでいる最中ですので、これらのバランスが出来てくると、もっとイニシアチブが取れると思います。』

試合後のポポビッチ監督のコメントより。

『我々の試合の入りが悪かったですし、何でもない場面で失点をしてしまったことで流れが完全に向こうに行ってしまった前半でした。』

試合後の小田選手のコメントより。

『縦も中も仕掛けられる選手で、どっちを警戒すれば良いのか難しかったです。前半は中にカットインされて、得点に繋がるクロスを上げられた場面は反省しなければいけません』

町田から見たら何でもない失点のようだが、甲府にとっては良い形からの得点。
この先制点がコメントにもあるように甲府優勢の流れを加速させた。

今節は前線から規制が掛かり町田は蹴るしか無いあるいは、縦に楔のパスを入れても狙いどころがはっきりしているのでインターセプトを狙えた。
それにより甲府がボールを保持する時間が増え、甲府のペースで試合を進めることができた。

試合後の伊藤監督のコメントより。

『前線でのプレッシャーの掛かり具合というところが、群馬戦の時に掛けられない場面が多かったので、今回の前線の守備は良くなってきたと思います。』

今節はボール保持の形がいくつか見られた。

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山本起用時は山本をアンカーに上げる通常通りの形。

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3バックを維持したまま藤田と泉澤がサイドで幅を取る形も見せた。

町田は守備時には山本の位置に応じて2トップが縦関係か横関係か変化し、守ることをしていた。

今節は泉澤がインサイドを取る場面も多々見られた。

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これまで泉澤は基本的にタッチライン際にポジションを取り、幅を取っていたが、前節群馬に2人で挟み込まれ、封じ込まれたことが影響してか意図的に泉澤をインサイドに置くことにより捕まえられないような立ち位置を取らせた。

試合後のポポビッチ監督のコメントより。

『給水タイムまで恥ずかしいプレー、今何をしているのか分からないようなプレーをしている選手が何人かいました。』

飲水タイムを経て、町田の守備が変わる。
プレッシャーの強度が上がる。
前線の選手がスイッチを入れ、中盤の選手が連動しボールを奪いに行く守備ができるようになる。

だが、甲府はその町田のプレッシャーを逆手に取る。

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前への圧力を高めたことにより、今度は背後が空くことに。
それを山本が相手が前にプレッシャーをかけてくる矢印を裏返す配球で逆手に取る。

そんな中、セットプレーから決定機を作る。

藤田からの右CKは甲府にとっては大きな武器。
18節の長崎戦以降アシストは無いものの、藤田のCKはほとんどシュートまで持っていけている。

試合後の伊藤監督のコメントより。

『セットプレーで何回か得点を取れるチャンスがあり、もうあと1~2点プラスアルファで取れると思うので、ここをスタッフたちとも作り上げていきたいなと思います。』

ただ、伊藤監督のコメントのように得点を取りきるまでは至らず。

試合後の奥山選手のコメントより。

『前半の戦いぶりがもったいなかったです。試合の入りで失点をしましたし、自分たちの形をほとんど作れなかった前半となりました。』

試合の入りは甲府がアクションを起こし、飲水タイム後は町田が起こすアクションに対し、リアクションで試合の主導権を握った。
前半は町田にシュートを1本も打たせず完璧な内容で終えた。

2.優位性

ハーフタイムで甲府は1人、町田は3人のを交代する。

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甲府は藤田に代えて小柳がそのまま右のWB。
町田は中島、岡田がサイドに入り、ステファンが2トップの一角で平戸がボランチに下がった。

ハーフタイムの両監督のコメントはこちら。

後半立ち上がり最初のチャンスは町田。
FKからリスタート早く始め、岡田のクロスに佐野が合わせた。
岡西がセーブしたが、前半シュートを打てなかった町田は後半良い入りができた。

続いてのチャンスは甲府。

ドゥドゥがプレッシャーをかけたことにより、酒井は前線に蹴り出すことしかできず。
それを回収した中塩から相手DFラインの背後へ抜け出したドゥドゥへ。
最後は松田のシュートという形。

続いては町田のチャンス。

平戸のCKから最後はステファン。
J2トップクラスのキックの質を誇る平戸がいるため、町田相手にセットプレーを与えるのは危険。

試合後のポポビッチ監督のコメントより。

『後半に関してはアグレッシブさを取り戻して、前半は受け身になっていた分も、後半は主導権を握ってプレーできました。後半はボールを持っている時も、ボールを持っていない時も、前半と比べてアグレッシブなプレーが増えました。』

試合後の奥山選手のコメントより。

『後半はチーム全体で前から行こうという意識を強めて、多少無理をしてでも行くぐらいの気持ちで戦う中で、後半は前半よりはチャンスを作ることができたと思います。』

後半に入り町田にも良い場面が出始めた要因の1つとして平戸がボランチに下がったことによりボールの供給源ができたことも大きい。
次節ボランチで佐野と共に開幕から全試合スタメン出場を続けてきた高江が累積警告により出場停止となるが、平戸のボランチは可能性を感じさせた。

試合後の奥山選手のコメントより。

『前半のシュートがゼロでもあったので、前への意識を強めようという中で、裏へ落とすボールやクサビのボールなど、良いところを見てくれていました。周りもパスが出てくるぞ、と走り出していました。そういった部分の信頼関係もあるので、思い切って前に出て行くプレーが増えました』

一方で試合の主導権を握るのは相変わらず甲府。
53分のドゥドゥがオフサイドになった場面は町田のプレッシャーを逆手に取って裏返した形。
岡西まで安藤がプレッシャーをかけたが、中盤とDFラインの間にいた松田、小柳、松田と繋ぎDFラインの背後へ抜け出たドゥドゥを使った。

61分に甲府に追加点が生まれる。

荒木のプロ初ゴール!!

試合後の荒木選手のコメントより。

『「入っているな」というか、大学時代にゴールを決めて以来の公式戦でのゴールなので喜び方を忘れていました(笑)。みんなに促されるままに輪の中に入っていきました。チャンスだと思ってあそこのスペースに入っていってゴールにつなげることができました。』

スペースを作り出し、攻略していった得点。
ドゥドゥの裏抜けまで見ていこう。

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まず、中塩がボールを持っている局面から。
今津には安藤、山本にはステファン、武田には中島が近くにいるが中塩はフリー。
時間とスペースがあるためドリブルで前進する。

荒木はまず、平戸、酒井、小田の3人の間に立ち3人の守備者を困らせるポジションを取っていた。
そこから平戸の脇に降りてきて楔のパスを受ける。

泉澤はサイドで幅を取り、相手DFラインを広げる役割。
荒木が中間ポジションを取ることにより泉澤にスペースを与え、小田がスライドするのを遅らせた。

小田が遅れて泉澤にプレッシャーをかけるも効果は無く、ドゥドゥが小田の空けたスペースに抜け出した。

最後はドゥドゥが背後に抜け出して空けたスペースに荒木が走り込みゴールを決めた。

数的優位を作り前進し、位置取りの良さで相手を困らせ、ドゥドゥの能力が生きる場面を作り出し得点に繋げた。
スペースを作り出し、攻略していく。
伊藤監督の目指す形が出た得点ではないだろうか。

3.コントロール

追加点を決めた後も落ち着いて相手を見て試合をコントロールしていく甲府。

試合後の伊藤監督のコメントより。

『実際に前半に得点が取れて、また後半にも追加点を奪えた状況の中で、少し相手にボールを持たれた場面はありましたけど、ゲームをしっかりコントロールしつつ、ゲームを締められたことは良かったと思います。』

今節上手く試合を進められた要因は自分達がやるべきことに集中できたことにある。
前節は自分達から試合を壊してしまいコントロール出来なかった反省を生かせた。

試合後の伊藤監督のコメントより。

『今日は「落ち着く」というところを1つのテーマとしてやっていました。どんなことがあろうと、1-0で勝っていようが0-1で負けていようがしっかり落ち着いて我々のサッカーをやる。 これを90分間続けてそれをしっかり勝ちに繋げること。焦って自分たちのプレーを見失わないように、そういうところでファールになったりとかイエローカードでゲームを崩さないように自分たちがしっかりとプレーすること。そこにしっかりとメンタルの部分と、統率取ってプレーするということは今回のゲーム前にも伝えたことなので、それを体現できたこと、良い形で得点を取れたこと、最後しっかり締められたことは良かったと思います。 』

3点目を決めて試合を終わらせたい甲府。

この場面もまず武田が高い位置を取ることにより小田にスライドできない状況を作らせる。
武田とドゥドゥの斜めのランニングによってDFがカバーに行けない状況を作り、松田がCBとSBの間にポジションを取り泉澤のクロスに合わせた。
ポジショニングで相手を困らせ、スペースを突いていく。
この場面も狙いとしている攻撃ができた。

ボールを動かしながら、のらりくらりと時間を進める甲府。
逃げ切りを図り、90分に野澤に代えて新井を投入するが直後に失点してしまう。

結果的に直前に投入した新井のオウンゴールとなったが不運としか言えない。
最初のクリアミスはいただけないが、そのボールが手に当たりゴールになってしまうのは不運でしかない。
新井を責めるより質の高いボールを入れた町田を褒めるべきである。

試合後の小田選手のコメントより。

『練習通りの形で良いボールが入ってきました。狙っていた形を表現できて、得点という形に繋がって良かったです』

2ー0とリードし、完璧に試合をコントロールしていたがこの失点で試合が難しくなってしまうも結果的に守りきり、2試合ぶりの勝利を手に入れた。

試合後の伊藤監督のコメントより。

『2-1というスコアでしたけど途中までは落ち着いて試合を指揮することが出来ましたし、今日はすごく良いゲームだったと思います。』
『最後失点をしてしまいましたが、それが無ければパーフェクトなゲームだったと思いますし、欲を言えばもう少し高い位置でボールを握りながら3点目を取りに行かなければならないかなと思います。全体的に攻守ともにすごくバランスが良いゲームになったと思いますし、町田さんのコンビネーションや裏への抜け出しも、選手たちは慌てることなく最後までしっかり対応し戦えたかなと思います。ただやはり、危ない場面も作られており、前線のプレスが甘くなるとそこを突かれて深いところまで入れられた状況もあったので、その辺のバランスや行けない時にしっかり中を締めながらプレッシャーを掛けられるように、その辺を見直していけたらと思います。』

終始試合をコントロールし、試合を進めていただけに3点目が取れ、無失点で終えていれば文句のつけようがない完璧な試合だった。
だが、課題を残しながら勝ちきって連戦を終えられたことは残りの試合に繋がる。

4.あとがき

最後危なくなったが久しぶりに完勝と言える内容。
群馬戦で失われたアグレッシブさを取り戻し、試合開始から終始試合をコントロールした。
4度目の5連戦は3勝2敗と悪くはないが、勝ち点を失った印象の連戦。
5連戦最後にチームとしてやるべきことをきちんとこなせば一定の成果は残せることを示せた。
次節まで1週間空くが、ゆっくり休んでまたコツコツと上のチームを追っていこう!
ナイスゲーム!!

MOM 荒木翔
アグレッシブさを体現した。
立ち上がりから積極的にボールを奪いに行く姿勢を見せた。
攻撃面では泉澤と共に左サイドを活性化させた。
アグレッシブに走り続けたご褒美と言えるプロ初ゴール。
愚直に泥臭く走る。
前節群馬に見せつけられた姿勢を今節は荒木が体現した。


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