第36節 京都サンガF.C.vsヴァンフォーレ甲府

前節磐田に勝ちきれず昇格圏との差を詰めるチャンスを逃してしまった甲府。
今節はアウェイで京都との一戦となる。
1試合少なく暫定で6位に位置しており、昇格圏との差は勝ち点差13。
勝つしかない状況だが、現在は6戦負け無しで4勝2分と結果はついてきている。
あとは引き分けた栃木、磐田との試合のように相手の土俵で戦わず自分たちがやるべきことをこなせるか。

一方の京都は前節首位徳島に勝ち、連敗を3で止めた。
11月に入り、3勝3敗と勝ち負けがはっきりとしている。
現在8位で昇格圏との勝ち点差も19と今節にも昇格が絶たれる可能性のある一戦。

お互いに勝つしかない一戦となる。

1.積み重ね

スタメンはこちら。

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甲府は前節から7人、前回対戦からは5人変更となった。
注目は中村亮太朗。
6試合ぶりの復帰となるが、チームはその間負けなし。
ボランチは武田が絶対的な存在として君臨し、野澤と山田の存在感が高まってきた。
中村は怪我前は武田のパートナーの座を掴みかけていた。
怪我明けでコンディション面の不安もあるかと思うが、存在感を示せるか注目となる。
また、ベンチには橋爪が今シーズン初めて入った。
怪我で苦しいシーズンとなっているが、シーズン最終盤で復帰した。

京都は前節と同じメンバー、前回対戦からは6人変更となった。
注目はピーター・ウタカ。
昨シーズン甲府に在籍していた選手。
エースとしてチームを引っ張り昇格プレーオフに導いた。
今シーズンはここまで21得点を挙げ、得点ランキングトップに立っている。
京都の絶対的エースとして君臨しているが、怖さは甲府もわかっている。

甲府がボールを持つ時間が長い立ち上がりとなる。
ボールを持つ選手に対し、距離感良くボールを動かす。
選手間の距離が良いため、セカンドボールも回収でき、甲府がボールを保持する時間が長くなる。

最初にチャンスを作ったのは甲府。

武田の縦パスを起点に中村、中山、松田とコンビネーションから中央を突破し、中村が抜け出すもGKの清水が防ぐ。
怪我もあり久しぶりの出場となった中村だが、早速持ち味を発揮する。
その流れで得たCKから再びチャンスを作る。

キッカーは中山陸。
京都はCKに対してマンツーマンとゾーンディフェンスを併用して守る。
ニアにウタカ、中央にバイスがストーン役として構える。
甲府としてはこの2人がいるところは避けたい。
中山のキックはウタカ、バイスを超え、メンデスへ。
メンデスの折り返しから中村が合わせるも、清水が防いだ。
飯田が中村のマークに付いていたが、ニアに飛び込む中村を離してしまった。

甲府はボール保持時に山本が中盤に上がる形を取る。

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甲府はボールを持つ選手に対し、三角形、菱形を形成し武田を中心にボールを保持しながら京都のシャドーの背後で相手に捕まらない立ち位置を取り前進を試みる。
また、山本は背後を消す守備を得意とするウタカに消されないように少しズレた立ち位置を取る。

試合後の實好監督のコメントより。

『マッチアップする中で、立ち位置のところでは少し向こうに良い立ち位置を取られたかなということはすごく感じていました。』

メンデスは途中加入ということもあるのか、ビルドアップ時に立ち位置を取るのが遅れる場面や距離感が近い場面が見られたが、武田が助けることで大きな穴とはならず。

お互いにチャンスらしいチャンスは無いまま時間は進むも、京都が前半終了間際にやっとチャンスを作る。

本多の楔のパスを起点にウタカが仙頭とのワンツーからゴール方向へと向かう。
仙頭へのラストパスは甲府が防ぐも、こぼれ球に福岡。
フリーだっただけに枠に飛ばさなくてはいけなかった。

前半は終了間際に危ない場面は作られるも、安定して試合を運んだ。
チームとして積み上げてきた立ち位置やボール保持は目に見えて質は高くなってきた。

2.報われる時

後半から甲府は前線の配置を、京都は荒木に代えて曽根田を投入する。

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甲府はラファエルを最前線に松田が右、中山が左のシャドーに入る形に変更する。
京都は荒木のいた位置にそのまま曽根田が入った。

背後へのランニングでバイスを釣り出すことが松田を最前線に起用した狙いかと思うが、あまり効果的な場面を作り出すことができなかった。

試合後のラファエル選手のコメントより。

『前半はシャドーのポジションでしたが、今までもあのポジションはいろいろなチームで経験してきています。監督が求めていたことは、前半、よくできていたと思います。後半は1トップに替わって、力がシャドーになりましたけど、それは監督の作戦。』

試合後の伊藤監督のコメントより。

『後半はラファエルを頂点にしてサイドから仕掛けようとしていた。』

後半からラファエルを最前線に入れ、中央に起点を作り松田にサイドの活性化を期待した配置の変更となった。

京都は後半に入り選手交代を行っただけでなく、實好監督は守備面でテコ入れを行う。

試合後の實好監督のコメントより。

『ハーフタイムに、守備のところの埋める場所を少し意識をさせて後半に入りました。仙頭(啓矢)の背中のところなんですけど、そこに侵入されないようなポジションをとったことによって(相手に)ボールは動かされたかなと思います。でも、目の前で動かされている感じだったので、それは耐える時間として、向こうも前がかりに人をかけてきていてカウンターのチャンスも出てきそうだったので、割り切りながら進めていました。』

一方で甲府はボールを動かすだけでなく、背後へのランニングが増え、徐々に京都ゴールに近づいていく。

64分にやっとラファエルが報われる時が訪れる。

CKの起点は右サイドでの崩しから。
松田が右サイドの小林に預け、仙頭と冨田の間を抜けていく。
パスを受けた小林はサポートに来た山本へ預ける。
山本はダイレクトで背後に抜け出した松田へ浮き玉のパスを出し、松田のクロスをバイスがクリアしてCKを得た。
京都がボールウォッチャーとなり、松田を離したとはいえ右サイドでの崩しはシンプルながらも綺麗に崩し、背後を突いた。

CKを蹴るのは中山。
中山のキックはウタカの前に走り込んだ松田が合わせ、後ろに逸らす。
背後に飛び込んできた今津がバイスを引きつけ、ラファエルをマークしていた冨田はボールウォッチャーとなりラファエルをフリーにしてしまった。

CKを獲得した場面も、CKも複数選手が連動して絡み、チームで奪った見事な得点であった。

試合後のラファエル選手のコメントより。

『セットプレーではだいたい自分がニアに入るんですけど、あの場面だけ(松田)力とコミュニケーションをとって場所を入れ替えていました。ニアで力が触って自分のところにこぼれてきたおいしいボールで、あとは押し込むだけでした。』

ピッチ内で話し合う中で形を変化させたことにより、得点が生まれた。

献身的な守備に、起点になるポストプレーでチームを支えてきたラファエル。
得点だけが取れていなかったが、第11節の琉球戦以来の得点となった。
ストライカーとして評価を上げるには得点を多く取ることが最短となるが、現代サッカーにおいて求められる役割は得点だけではない。
ラファエルの活躍は充分なものであったが、得点は本人も取りたかったはず。
コツコツとチームを支える姿勢がやっと得点という結果となって報われた。

3.一瞬の隙

得点直後から作戦ボードを動かし、作戦を練る甲府。
一方の京都ベンチは祈るように見つめる實好監督。

お互いに70分に選手交代を行う。
甲府は中山と中村に代えて宮崎と荒木を投入。
京都は安藤と福岡に代えて上夷と宮吉を投入する。

宮崎は7試合ぶりの復帰となる。
泉澤が負傷中だが、ドリブラーである宮崎の復帰に期待したい。
荒木は中村のいたボランチにそのまま入った。

上夷は安藤のいた位置に、宮吉はウタカと並び2トップに入り、曽根田と仙頭がその背後に並ぶ形に変更した。

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選手交代が最初に効果を発揮したのは甲府。
宮崎がファーストプレーで存在感を見せる。
自陣のハーフウェイライン付近でボールを受けるとドリブルでバイスに向かっていく。
そのままバイスを引き連れ、敵陣ペナルティエリア付近まで持ち込み右サイドの小林へ。
バイスを引っ張り出すことに成功し、エリア内では松田とラファエルが待ち構える状況を作り出す。
だが、小林はクロスを上げきれず荒木への横パスを選択する。
荒木が仙頭と庄司を引きつけ左サイドの内田へサイドを変える。
この時中ではラファエルがフリー、松田もマークしていた本多の背後に回り込みマークを外すことに成功していた。
しかし、内田の選択はシュート。
枠内を捉えるシュートであれば、ラファエルも松田もこぼれ球を狙っていたが枠外へ。
バイスを引っ張り出しながら効果的では無い攻撃に終わってしまった。

いい形を作りながらも得点に繋げられないと相手にチャンスはやってきてしまう。

ウタカに一瞬の隙を与えてしまった。
前線からのプレッシングでボールを奪いながら、横パスを奪われカウンターを浴びてしまった。
伊藤監督はアラートという言葉を使うが、この場面ではアラートさが欠けていたと言わざるを得ない。
陣形がバラけている時には失った時のために守備での備えをしておかなくてはいけない。
直前のスローイングで相手ボールの判定となり、抗議をしてプレーに戻るのが遅れていたため、パスの受け手となったラファエルは立ち位置を取るのに遅れてしまっていた。
この場面は陣形を整えるためにバックパスという選択を持っても良かった。
リードしている場面であり、急ぐ必要も無かったため隙を自ら作ってしまった。
隙を与えてしまったことは事実だが、その一瞬の隙を逃さず決めきるウタカの得点力はさすがである。
これでウタカの得点は22得点目。
2位に7得点差をつける圧倒的な得点力を発揮している。
得点後古巣甲府に敬意を表し、派手なゴールパフォーマンスをしなかったウタカの人間性も称えたい。

試合後のウタカ選手のコメントより。

『自分は常にハングリーでありたいと思っていると共に、常に謙虚な姿勢でありたいと心がけています。1シーズンでこれだけ点を取れたら満足というのではなく、これからもできる限り多くのゴールを狙っていきたいですし、自分のゴールでチームに貢献したいと思っています。』

試合後の伊藤監督のコメントより。

『90分間の中で1本でも2本でもチャンスを作れる選手。アラートにゲームを遂行していたが不用意なボールロストでやられたのは悔しい。ただ、一つのミスをクローズアップすることはしたくない。チームの責任。あとは僕の判断が悪かったということ。』

同点に追いつかれた甲府は小林とラファエルに代えて小柳と金園を投入する。

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勝つしか無い甲府はロングスローの流れからチャンスを作る。

ロングスローで上がり、残っていたメンデスへ内田からクロスが入る。
ヘディングは当たらなかったが、金園の前にこぼれたボールは清水に防がれた。

お互い勝ちたい一心でオープンな展開に移行していく。

試合後の庄司選手のコメントより。

『試合終盤にオープンな展開になりましたが、それも互いに勝ちたい気持ちが出たため。本来はオープンな展開にならない方が良いと思いますし、リーグ序盤戦なら違った展開になったかもしれませんが、今日はこれがベストな戦い方だったと思います。』

甲府は小柳がミドルシュートを放ちゴールに迫るも決まらず。
直後には内田に代えてハーフナー・マイクを投入する。
13試合ぶりの出場となった。
金園と共にターゲットマンとしての起用となったが、内田を代えたことでクロスを上げる選手がいなくなってしまった。

オープンな展開をより好んだの京都。
仙頭に代えて投入した谷内田がチャンスを作るもシュートは甲府DFがブロックする。

すると終盤に京都にビッグチャンスが訪れる。

FKをクリアした京都がセカンドボールを拾い、庄司からウタカへ。
決定的な場面も河田が防いだ。

試合後の庄司選手のコメントより。

『(ラストプレーになったピーター・ウタカ選手への縦パスについて)ウタさんがああいうふうに動くのは普段の練習でわかっていたので、「頼む!」という気持ちでそこに合わせました。ウタさんも自分のパスにしっかり反応して、決定的なシーンにしてくれました。最後にああいうシーンをつくることができて良かったと思います。』

ここで試合終了となった。
試合後倒れ込む選手たちを見てもお互いに全力を尽くし、戦った一戦は引き分けに終わった。

試合後のラファエル選手のコメントより。

『試合全体ではチームで良いプレーをしていたと思いますし、チャンスもわれわれのほうが多かったです。あとは追加点を決めることと試合を落ち着かせることが、われわれに足りなかったところ。(引き分けは)残念な結果になってしまいました。』

試合後のウタカ選手のコメントより。

『お互いに決勝ゴールを取るチャンスがありましたが、双方のゴールキーパーのファインセーブなどもあり、白熱したゲームになったと思います。』

試合後の安藤選手のコメントより。

『後半は少しオープンな展開になりましたが、チャンスをひとつ決めることができましたし、終盤には逆転をするチャンスもありました。前へ向かうマインドが強くなったことや、最後まで諦めない姿勢を見せることができたことだけを切り取れば、ポジティブな一面もあったゲームだったと思います。』

試合後のスタッツはこちら。

シュート数は同数も枠内シュートは倍以上放ち、クロス数も多く、パスも150本近く上回った。
パスも自陣で回すだけでなく、相手陣深くまで侵入し、アタッキングサードでのプレー数、敵陣30m以内でのプレー数も大きく上回っている。
今シーズン積み上げてきたものを発揮した一戦であったが一瞬の隙をウタカが逃さなかった。

4.あとがき

今シーズンを象徴するような試合だった。
内容では勝るも追加点を取れず、勝ちきれなかった。
9連勝を目指した中で最初の2試合を勝ちきれず。
今節も2位福岡、3位長崎が勝ち点を伸ばせなかったため差を詰めるチャンスであったが、今節も逃してしまった。
いい試合が結果に繋がらない課題は変わらず残る。
その課題をいかに解消していくか残りの試合に期待したい。
試合後の姿を見たら、可能性が低くなろうとも応援しなくてはいけない。
選手は全力を尽くしているも相手がいるスポーツ。
簡単に勝てる試合などないが、それでも残り7試合勝つしかない!

MOM 清水圭介
3度の決定機を阻止した。
最初の決定機で止めていなければ甲府の一方的な試合になっていた可能性もある。
失点を許した場面もシュートは止めていた。
ゴールラインを割ったかどうかは非常に際どく、中継映像では判断ができなかった。
終盤の金園のシュートも止めていなければ勝ち点は得られなかったかもしれない。

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