J2第27節 徳島ヴォルティスvsヴァンフォーレ甲府

前節8試合ぶりに勝利を掴んだ甲府。
複数得点も8試合ぶりと長いトンネルを抜けるきっかけの1戦としたい。

一方の徳島は10試合負け無し中。
福岡のように大型連勝は無いものの、今シーズン最も安定しているチームと言える。

前回対戦は甲府ホームで1対1で引き分けに終わった。
対戦成績は甲府の13勝4分4敗であり、徳島ホームでは8勝2分1敗となっている。
J1昇格プレーオフ、ルヴァンカップを含め8試合アウェイでは負けていない。
過去の成績は圧倒しているが今節はどうなるか。

昨年J1昇格を阻まれた地で、今年はJ1昇格に向け飛躍のきっかけとなる1戦としたい。

1.リベンジの時

スタメンはこちら。

画像1

甲府は前節から8人、前回対戦から3人変更となった。
注目は中塩。
前回対戦時PKを与えてしまった。
最も悔しさを味わった選手。
今節も前回同様押し込まれることが予想されるが、中塩が守備でチームを助ける働きに期待したい。

徳島は前節から2人、前回対戦から4人変更となった。
注目は上福元直人。
前回対戦時は好セーブで最少失点に抑えた。
ボールを持つ時間が多いことが予想されるが、攻撃面でも足下の技術、正確なフィードを活かし貢献できるGKである。

昇格プレーオフと主審まで同じというリベンジするために用意された舞台。
立ち上がりから甲府はドゥドゥを中心に前からプレッシャーをかけリズムを掴み、ボールを握る。

そのプレッシャーが機能し、最初にチャンスを作ったのは甲府。

ドゥドゥのファーストプレスに松田、藤田が連動し、相手のミスを誘ったが最後は上福元に阻まれた。
前節のレビューではドゥドゥの前線からの規制が緩いと述べたが、今節は自分の背中を消しながらプレッシャーの強度も高くこなしていた。
この場面で見逃せないのが松田の動き。
この試合のキーポイントの1つだが、徹底して岩尾へのパスコースを消しながらスプリントしている。
ドゥドゥに主に託されたタスクだが、岩尾にはいい形で持たせない狙い。

甲府のボール保持時。

画像2

山本がアンカーに上がり、泉澤をサイドに張らせる。
右サイドは藤田が積極的に高い位置を取る。

徳島のボール保持時。

画像3

両サイドがボランチの脇にポジションを取り、SBが高い位置を取る形が多かった。

開始10分間は甲府のペースだったが、上福元に流れを変えられてしまう。
接触でプレーが止まったところで時間を使い、一呼吸置いた。
したたかさ、ゲームコントロールの上手さが垣間見えた場面である。

直後に徳島も惜しい場面を作る。
この場面起点となる左サイドへのパスは岩尾であったが、少しでも時間を与えると危険なパスが出てくる。
一方で岩尾ばかりに警戒していると小西から決定的なパスが出てきてしまう。

シュートがなかなか増えない展開の中、次の決定機は甲府。

またも上福元に阻まれる。

この場面の起点となったのは中塩のパスから。
中塩から泉澤へのパスで泉澤が1対1の場面を作る形が何度か見られた。
なぜ一番警戒しなくてはいけない泉澤をフリーにさせてくれるのか。

画像4

前線からプレッシャーをかけに行った場合は人を捕まえに行く時もあったが、セットして守る時にはゾーンで守る。
ゾーンで守る時の優先順位は
①ボールの位置
②味方の位置
③相手の位置
となる。
すなわち泉澤が危険だから泉澤を見ておこうというマークしようとはならない。
だがインサイドに荒木がいなければ、全体的に泉澤側にスライドできるため甲府側が意図して泉澤をフリーにさせている。

一見何故泉澤をフリーにさせるのかと思いがちだが、荒木や内田がインサイドに走りこむのには理由がある。

一方で徳島側の見立ては違っていた。
試合後の岸本選手のコメントより。

『クロスが上手い選手なので絶対に上げさせないとか、1対1では絶対に負けないようにしようと、試合中も杉森選手と話をしていました。力を合わせて抑えることは出来ていたと思います』

泉澤のところからチャンスを作っていたように感じるが、徳島としては抑えていたという認識だったようだ。

2.荒れるきっかけ

この試合を語る上で外せないポイントは2つ。
1つ目から見ていこう。

問題点はタイミングと副審。
焦点は河田が触ったのか、甲府の選手に当たってジエゴのところへこぼれたのか。
甲府の抗議により判定が覆ったように見えたタイミングは問題と言える。
得点が認められた場合に主審はセンターのマークを指す。
副審はフラッグをあげてセンターを指しながら、ハーフウェーラインまで走る。
主審のジェスチャーは確認できなかったが、副審は走り出していたため得点を認めていたことになる。
副審の判断としては甲府の選手が触ったとの判断だが、怪しい場合はその場に留まり主審とコミュニケーションを取らなくてはいけなかった。
この副審のアクションが主審の判断を遅らせたとも言える。

甲府にとっては救われた場面だが、スッキリとはしない場面。
だが、デザインされた徳島のセットプレーは見事であった。

3.チームの進化

前半のポゼッション率は五分五分。
パス数、シュート数も徳島を上回った。
前回対戦時はポゼッション率3割、シュート数は10本近く差をつけられ、パス数は半分以下で400本以上少なかったことを考えるとチームが成長していることがわかる。
試合後のリカルドロドリゲス監督のコメントより。

『今日は精彩を欠いてしまった時間帯がありました。精彩というより、我々が大事にしているつなぎの部分で上手くいかなかったと表現した方が良いかもしれません。今日は前線を2トップにしましたが、彼らの働きはすごく良く、相手にとって危険なところで積極的にプレーしてくれたと思います。一方でつなぐという部分は彼らの特徴ではなく、チームとして目指したところと少しずれが生じてしまったかもしれません。』

ロドリゲス監督のコメントにもあるようにボールを握るところでの不満が伺える。
徳島相手に主導権を握り、押しながら試合を進められたことは大きな成長と言える。
しかし、スコアは0-0。
チャンスがありながらリードできなかったことは課題だが、伸び代と言える。

4.諦めない

徳島はまず、人の配置を変え、流れを変えようとする。

画像5

後半開始からボランチの位置関係を変更した。
しかし、後半も甲府の決定機から始まる。

前線からのプレッシャーが機能し、作った決定機だったが前半同様決めきれず。
甲府としては押し気味に試合を進めるも決めきれない嫌な流れ。

徳島は渡井、鈴木の投入で流れを引き寄せる。

画像6

2トップから1トップに渡井をトップ下に置く形に変更する。
また、本来ボランチの鈴木を右サイドで起用。

試合後のリカルドロドリゲス監督のコメントより。

『途中で渡井選手や鈴木選手を入れたのは、足元でつないでいきながら試合を落ち着かせようという狙いからです。決して2トップの働きが良いとか悪いということではありません。その交代は狙い通りに作用したと思います。』

早速渡井が決定機を作る。

最後シュートを放ったのも鈴木と投入した2人がチャンスを作る。
後半からボール保持時の立ち位置も変更してきた。

画像7

画像8

ジエゴをインサイドに入れる形に変更。
また、状況に応じて小西がポジションを変える。
そして渡井に自由を与え、ボールを引き出すことによりボールを保持する時間を増やす。
一方でボールを保持する時間は増えたが、甲府にとってはカウンターのためのスペースを与えてもらうことになる。

画像9

本来ジエゴがいるスペースが空くことになる。
61分、65分と続けてこのスペースに甲府は侵入する。

渡井、鈴木を投入し流れを変えた徳島だが、甲府は宮崎と金園の投入で試合を決める。

起点は宮崎の縦パスから。
上で述べたジエゴが空けたスペースを活かしカウンターを沈めた。
このスペースを活用できると宮崎を投入した采配は見事であった。

宮崎の縦パス、松田のクロス、ドゥドゥのシュートと全て完璧だったが、見逃せないのが金園のランニング。
ニアサイドに走り込むことにより相手を引きつけ、ドゥドゥのためにスペースを与えた。
一度ファーサイドに膨らむ動きを見せたことにより、松田からのクロスのタイミングに合わせることができ相手は付いて行かざるを得なかった。
直線的にニアに走り込んでいたらタイミングは合わないためオフサイドになる。
そのためDFは付いていかず背後に走り込んでくるドゥドゥだけ警戒すればよかった。
前節のラファエルもそうだが、FWは得点を取るだけでなく味方を活かすことも仕事となる。

また、前回対戦時は徳島が相手GKからのカウンターでPKを獲得し得点を挙げたが、今節は甲府が似たような形から。
一瞬の隙で勝負が決まる緊迫した対戦である。

試合後の岩尾選手のコメントより。

『ラストパスを少し狙い過ぎたというか、一撃必殺みたいに大ぶりなパンチが多かったように思います。』

甲府は逆に一撃必殺で仕留めることに成功した。

試合後のドゥドゥ選手のコメントより。

『まず、「このゲームは勝たなければいけない」というふうに全員が意識していました。この試合に勝たなければ徳島や福岡など上位のチームに追いつくのが難しくなる中で、最後までどんな状況になっても勝たなければいけないという気持ちで臨んでいました。この連勝で勢いに乗ってきた感じもしますが、まだまだ何も状況は変わっていないので、次に向けて準備していきたいです。』
『多くのサポーターは来年も甲府はJ2のイメージを持っている思う。私はまだJ1のチャンスがあると思っている。例え1%の可能性だとしても私は戦う。サポーターには同じ(諦めない、信じる)イメージを持ってJ1昇格のために戦ってほしい。サポーターと一つになりたい。だから私はユニフォームのエンブレムを掴んで”ヴァンフォーレが私の人生”だと伝えました』

まだまだ何も状況は変わっていないが希望は微かに見えた。
ドゥドゥを信じ、チームを信じる。
一丸となって諦めてはいけない。

5.主役

お互いに審判に振り回された試合であったが、2つ目のポイントは終盤に訪れる。

前半にもらった1枚目は妥当な判定だろう。
前回対戦時も垣田を引っ張りPKを与えていただけに残念であった。
問題点は退場となった2枚目。

ファールからわずか27秒で遅延行為で退場ではセットプレーのほとんどが遅延行為となってしまう。
また、遅延行為により2枚目だが、イエローカード提示後にレッドカードを出していないことを見るに1枚出していたことを忘れていた可能性すらある。
昨年のアラーノ退場場面と見比べていただきたい。

この場面ではイエローカードの直後にレッドカードを提示している。

試合を通して一貫しない判定が多く、お互いに良い試合をしていただけに審判が主役となってしまった事は残念であった。

だが、この場面甲府側に落ち度は無かったのか。
カードを貰っていない選手に蹴らせることも必要だった。
試合の進め方としての課題となる。

試合後のリカルドロドリゲス監督のコメントより。

『我々としてはそこにずっと目を向けていても、何も生まれるものはありません。勿論悔しさと大きなダメージはありましたが、切り替えて自分たちが出来ることをやっていくしかありませんでした。』

これは上述のオフサイド判定に向けたコメントであるが、中塩の退場にも当てはまる。
この退場を中塩にとって成長の糧として欲しい。

この退場により徳島が押し込む展開となり決定機も迎える。

崩しもシュートも見事。
数ミリの差でポストが救った。

試合後の河田選手のコメントより。

『ポストに当たった場面であり、GKと1対1になった場面であり、チャンスはありました。FWで90分出場してチャンスもしっかり作ってもらって、それを外してしまっているので今日は責任を感じるところが大きいです。』

試合後の杉森選手のコメントより。

『メンタル的に複雑な中断がありましたが、切り替えてやるしかありませんでした。僕たちにもチャンスがあったので、それを決めていれば試合結果は変わっていたと思います。』

リカルドロドリゲス監督のコメントより。

『90分を通して見ると互いに3~4本の決定機があり、それを決めた方が勝つという展開になっていたと思います。甲府にはゴールが生まれ、我々はポストに嫌われた惜しい場面もあり、決定機にゴールを奪えず勝利には至りませんでした』

試合後の岩尾選手のコメントより。

『試合を通して自分たちがやりたいこと、目指すスタイルやクオリティについては、負けましたし課題もありますが、そんなに下を向く内容ではなかったと思います。10試合負けていませんでしたが、残り試合を含めて無敗でいけるとは思っていません。どこかでこういうことがあるので、個人やチームがこの結果をどう受け止めるのかが大切だと思います』

これまで甲府がこのようなコメントをしてきた。
いい内容で勝てたことは大きな収穫である。
一方で審判が主役となってしまったことで後味の悪い試合となってしまったことが残念である。

6.あとがき

せっかくの好ゲームが荒れてしまったことは残念でならない。
前節が安定したレフェリングだっただけに、より審判に左右された試合という印象となってしまった。
お互いにモヤモヤする試合ではあるだろうが、甲府にとっては大きな勝ち点3。
徳島相手にボールを持つ時間も増え、前回対戦からの成長も見られた。
着実に成長はしている中で結果も付いてきた。
昇格に向け後がない状態には変わりはないが、昨年J1昇格を絶たれた地で巻き返しのきっかけとしたい。
大型連勝へと繋げたいが、まず大事なのは次の試合。
一丸となり1戦、1戦積み上げていきたい。

MOM ドゥドゥ
まだまだコンディションが上がりきっていない感じはあるが、決定力という部分で違いは見せた。
守備面でも相手のキーマンである岩尾へのパスコースを消しながら貢献した。
「ヴァンフォーレは私の人生」
「私はまだJ1のチャンスがあると思っている。例え1%の可能性だとしても私は戦う。サポーターには同じ(諦めない、信じる)イメージを持ってJ1昇格のために戦ってほしい。サポーターと一つになりたい。」
諦めてはいけないことを教えてくれた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?