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J2第2節 大宮アルディージャ戦 レビュー

開幕戦で千葉に引き分け、迎える第2節の相手は大宮アルディージャ。
大宮に在籍していた選手、スタッフが甲府に多くいることから意識するチーム。
伊藤監督就任後は負けなしで現在3連勝と好相性の相手となる。

1.スタメン

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甲府は前節から2人を変更。
新井がメンデスに代わって左のCBに、泉澤が金井に代わって左シャドーに入った。
キャプテン新井は古巣相手に今シーズン初出場。
泉澤は開幕直前のテストマッチで負傷し、全治4週間と発表されてからたった5日でのスタメン起用。
怪我をした日からは2週間経過しているが、それでも早期の復帰となった。
ベンチにはGK小泉が前節から変わって入った。
また、大宮アカデミー出身の浦上、山田にとってはプロとして初めてのNACK5スタジアムでの試合となる。

大宮も前節から2人を変更。
黒川が右サイドに、ハスキッチが2トップの一角での起用。
前節2トップの一角で先発した奥抜が今節は左サイドで先発となった。
前節同点ゴールを挙げた高卒ルーキーの柴山はベンチスタート。
また、新加入の矢島が今シーズン初めてベンチに入った。

2.アイソレーション

立ち上がりはお互いにシンプルに入る。
甲府は有田をターゲットに起点を作り、大宮は中野の背後への飛び出しを活かしていく。
甲府はピッチを横に広く使う狙いを持ち、右には関口が左には泉澤が幅を取る。
大宮は黒川と奥抜が幅を取り、中野が深さを取ることで甲府の守備陣を広げる。

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大山がビルドアップの際にDFラインに下がり、中野が裏へ抜け、両サイドが外に張ることで空洞化させた中盤にハスキッチが浮く形で起点となることを狙う。
序盤は何度か中野に裏へ抜け出される場面を作られるも、千葉戦とは異なりハイプレスを仕掛けないことで大宮が狙いとしているDFラインの背後や中盤の空洞化が大宮のやり方に慣れてくると共に起こりにくくなっていく。

今シーズンの甲府は昨シーズンまでよりもビルドアップにこだわりを持って行っており、ボールの前進がスムーズとなっている。
象徴的な場面が11分のゴールキックの場面。
前節は左利きのメンデスをCBに起用していたため、見られなかったが左利きであるGKの岡西を左サイド寄りに配置し新井をボランチと同じ高さへと上げていた。

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左利きを左サイドに配置することでスムーズに縦に付けられ、ピッチを広く使いやすくなる。
結果的には距離感の問題もあり、前線へ蹴り出すことになり失ってしまう。
この局面で前進できるようになるとボールを保持できる時間は増えていくだろう。

最初の決定機は甲府。

小柳から対角線の長いボールを受けた泉澤が内側へボールを持ち出し、再度対角線へクロス。
三平がフリーで飛び込むもヘディングは枠の外へ。
決定的な形を作ったが、泉澤がいるとこのような形は多く見られるだろう。
また、前節にも見られたが小柳の対角線の長いボールは武器となる。

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442でコンパクトに守り大外を捨てる大宮の守りに対し、甲府は右サイドやDFラインで大宮のブロックを引きつけ、左サイドで孤立させている泉澤へ展開しチャンスを作っていく。
大宮としては泉澤を意識し、人数を掛けたいが甲府の左サイドへスライドすると右サイドから縦に前進されてしまうため、まずは近い位置から消さざるを得ない。
対面の馬渡が泉澤に早めに食いつくと、空けたSBとCBの間へ荒木が飛び込んでくるため行きたくても行けない。
また、黒川が前に残ることが多く馬渡が泉澤と荒木2人を見なくてはいけない場面が見られた。
この際、荒木のポジションが肝となっている。
馬渡、西村、松本を惑わす。
中村を含め数的には同数であるのだが、ポジショニングで相手を惑わすことで最大の武器である泉澤に一対一で仕掛ける時間とスペースを与える。
馬渡が泉澤に食いつくと空いた裏へ飛び出し、黒川が泉澤に対応すれば「ホール」で受けてポゼッションの中継点となる。
松本が対応すればその背後で有田や中村がパスを受けられるスペースが生まれる。
甲府の左サイドの泉澤と荒木の関係性が良く、目立たなかったが大宮の左サイドでも同じような現象は起きていた。
攻撃で意図的に中盤を空洞化させているが、前線から規制が掛けられないことと両サイドのプレスバックの負担が大きくボランチの脇やSBの前にスペースを与えることなった。
大宮の守備のウィークポイントに対し、甲府のストロングポイントが噛み合う展開となる。

飲水タイムを経て、黒川のプレスバックの意識が増す。
その分、新井のところで時間が作れるようになり、ボールを運びながら前進を試みる。
また、荒木の「ホール」へのランニングが効果的になっていく。
29分には右サイドから左サイドへボールが動き、「ホール」で受けようとした荒木に馬渡が食いついたことで新井のスルーパスが泉澤に渡ったところから中村がシュートを放ちCKを獲得した。

このCKから甲府が先制する。

CKからキャプテンの一発!
昨年6年ぶりのゴールを決めたが、今シーズンは古巣相手に2節でいきなりの得点。
昨年キャプテンに就任しながら苦しんだ新井だが、2021シーズンは幸先の良いスタートとなった。
CKからアシストした荒木は2試合連続でのアシスト。
半年しか甲府に貢献していないと残留を決めた中で迎えたシーズンは完全に中心選手となっている。

試合後の新井涼平選手のコメントより。

『準備段階で周りの選手を生かすダミーとして準備していたが、役割が終わったあとでも生きる方法があるので周りの選手のあとに入っていった。そこで当てられたことに意味がある。』
『もう12年くらい前の話でもあるのでそこまで古巣感はないですが、大宮の育成組織でプレーをさせてもらい、トップに昇格させてもらった恩があるので、違うチームでしっかりプレーしている姿を見せることができて良かった。』

大宮は柴山選手が開幕戦で途中出場から得点を挙げたが、新井選手も大宮ユースから昇格し開幕スタメンに抜擢されていた。
長い年月を経て、甲府のキャプテンとして迎えた一戦で古巣相手に初の恩返し弾となった。

試合後の伊藤監督のコメントより。

『キャプテンとしてチームをまとめてキャンプからコンディションを整えてやってくれました。ケガで開幕戦は間に合わなかったが、今節はボールを回すところもやってくれた。山本選手、小柳選手と共にDFラインをコントロールできたことはよかった。』

得点後には「ゆりかごダンス」を行っていたが、クラブからは発表は無いが河田に子供が産まれたようである。
嬉しいニュースを得点で祝えて良かった。

得点に繋がったCK獲得も泉澤がサイドで孤立する形から。
泉澤がサイドで孤立することで相手SBと一対一の局面を多く作り出しチャンスを作っていた。
前節には見られなかった形であり、泉澤にしか現状は任せられない。
宮崎や鳥海もドリブラーであり、彼らが成長を見せることで今節のように無理をして泉澤を起用することは減らせる。
前半は泉澤のアイソレーションの形からチャンスを作り、存在の大きさを感じさせ、圧倒した展開を作れた。

3.試合巧者

大宮は後半頭からハスキッチに代えて高卒ルーキーの柴山を投入する。
前節流れを変えた形へと変更する。

試合後の岩瀬健監督のコメントより。

『前半については攻撃の部分で相手のスペースを突く狙いは出ていたと思います。ただ、その後にアクションがあったりスピードを増すような状況があれば、得点に繋げることができたのかなと思います。一方で守備では後手に回る時間が多く、そこはハーフタイムに選手たちとシェアをしました。』

開幕戦同様に相手の背後を突いていく攻撃を再三見せていたが、岩瀬監督のコメントを見る限り相手の背後をシンプルに狙うことは大宮の今シーズンの狙いとなる。
問題は守備の部分。
中野とハスキッチの2トップは甲府のビルドアップに対し、規制を掛けられていなかった。

大宮は後半に入り、奥抜と柴山が積極的に仕掛けていくことでリズムを掴む。
また、前半苦労したビルドアップの形も変更する。

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大山を下げる形で行っていたビルドアップを足元の上手いGKの上田を組み込むことで、中盤の数的不利を解消しセカンドボールの争いで後手を踏むないようになる。
また、上田はフィードも正確なため一発で背後を突くパスからチャンスを作る。
甲府は前半に先制して以降は523で守っていた形から541でブロックを構える守り方へ変更していた。

50分には後半から出場した柴山が魅せる。

ドリブル突破から2人を交わし、エリア内に侵入。
最後のシュートは枠を捉えないも、個人で打開し大宮に勢いを与える。
前節、得点を決められたブワニカ啓太同様に高卒ルーキーだが物怖じせず積極的に仕掛けていく姿勢は見事。

60分にはお互いに選手交代を行う。
甲府は泉澤と有田に代えて野津田と山田を投入する。
泉澤は怪我明けながら存在感を見せ、大宮守備陣を困らせた。
有田は空中戦でも地上戦でも起点となり体を張り続けた。
野津田は前節の悔しさを、山田は育ててくれた大宮との初対戦となり気持ちが入る。
一方、リズムは掴むも甲府にいなされ始めた大宮は一気に3人を投入する。
大山、中野、櫛引に代えて石川、矢島、山越を入れた。
お互いの布陣は以下の通りとなった。

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試合後の伊藤彰監督のコメントより。

『強行で泉澤仁自身がこのゲームに懸けている想いと…ケガを早く治して戻って来てくれた。2~3日前に復帰したばかりだけどコンディションを整えながらやってくれた。前半から狙いを出してくれていたし、苦しい時間帯にタメを作ってくれた。カットインからのシュートを増やせればアシストやゴールは増えていくと思う。』

全治4週間との発表があり、当面は泉澤を欠いて戦わざるを得ないと思ったがまさかの復帰で大きな存在感を示しチームを牽引した。

試合後の岩瀬健監督のコメントより。

『3選手の同時交代については、相手のロングボールに対する守備の部分で、コシがいることで相手の一番最初の攻撃を弾きたい。また、空いているスペースに人が立つことで攻撃の時間を増やしたいという意図でした。』

前半から有田が空中戦、地上戦共に大宮守備陣に対し優位に立ち起点となっていたが大宮はそこへのケアを行う。
同時に有田も交代となったので、岩瀬監督の狙いを伊藤監督が阻む。
この交代で甲府は大きな可変は見せず、WBの立ち位置で変化をつける。

67分にはカウンターから甲府がチャンスを掴む。

前節の水戸戦で大宮が失点した形に似ている場面。
中央から縦に行きたいところでパスを受けた選手が孤立し、ボールを失う。
すぐに奪い返しに行くもボールホルダーへの寄せが甘くDFラインが晒される形となり、甲府は数的優位を作る。
野津田のトラップが外に流れてしまったことでシュートは決定的なものとはならなかった。
山本のインターセプトは見事であり、そこからの連動したカウンターも形としては良かっただけに決め切りたかったところ。

試合をコントロールして時間を進める甲府だが、前節奪えなかった追加点を奪う。

CKから野津田のニアサイドへのボールを小柳がすらし、最後は野澤が詰める。
加入2年目の野澤にとって甲府での初ゴール。
昨シーズンから追加点が取れず勝ちきれなかった中、前節でも同じ課題が露呈したが2戦目で成長した姿を見せた。
試合をコントロールし、セットプレーで得点を重ねる試合巧者ぶりを発揮する。

試合後の岩瀬健監督のコメントより。

『甲府はセットプレーでの得点が多いこともわかっていましたし準備もしていましたが、結果的にそれを上回られて自分たちが負けてしまったのですごく悔しいです。そもそもどうしてコーナーキックになったかも突き詰める観点ではあると思うので、そこを含めて京都戦では修正していきたいと思います』

先制点のCKは甲府の狙いと大宮の守備の特徴から奪った形だが、追加点のCKは直前のCKの流れから関口が上手く相手DFに当てて奪った形。
大宮に問題があったというよりは甲府が上手く得たCKだったのではないか。

失点直後に大宮は渡部に代えて翁長を投入する。
直後に今度は大宮がCKからチャンスを作る。

ショートコーナーから目先を変え、中で2人フリーとなるも被ってしまいこぼれ球に松本が反応するも枠を捉えず。

82分には甲府が良い守備を見せる。

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一度矢島にペナルティエリアまで侵入されるもサイドへ追い出し、連動してプレスを掛けることでボールを下げさせる。
そこへ三平がプレスを掛け、甲府から見て左サイドへと誘導する。
荒木が連動してプレスを掛け、後ろ向きで受けた馬渡が苦し紛れに黒川へとパスを出すが新井と荒木で挟み込みボールを奪った。

87分には野澤に代えて鳥海が投入される。
鳥海はそのまま野澤のいた右のシャドーに入った。
終始ゲームをコントロールしていたのは野澤の存在が大きかった。
セカンドボールの回収やゲームメイクでチームを落ち着かせ、貴重な追加点も奪いチームに貢献した。

追加点を奪い、リードを広げた甲府だが攻め手を緩めない。

前半の決定機の場面もだが、三平の動き出しからマークを外す動きは秀逸である。
今シーズンはビルドアップが改善されたように感じるが、有田含め前線の選手の動き出しがわかりやすいことも大きな要因となっている。

92分に三平に代わって宮崎を投入する。
前半はホールで起点となり、後半は最前線にも入りハードワークで貢献した。
交代の際も勝っているにも関わらず、ダッシュで戻ってきたり有田が接触で倒れた際は意識があるかいち早く確認したりとプレー以外でもチームのために働いていた。

最後に大宮に決定機が訪れる。

甲府としてはクロス対応に難があった中で、人は揃えていながらも質の高いボールがWB目掛けて入れられると今後も危険な場面は出てくるだろう。
甲府としては前節もクロスから失点し、前半にもフリーでヘディングを許すなどクロス対応への課題はまだ残りそうである。

終始、試合をコントロールしながら時間を進め、終盤は大宮の細かなテクニックでゴールに迫られるも集中した守備で完封勝利を挙げた。

試合後の伊藤彰監督のコメントより。

『ボールを動かしながら攻撃ができたのでゲームコントロールができている。2-0になって押し込まれるところがあったが、持たせたところはある。最後まで集中してゲームコントロールができた。』

試合後の新井涼平選手のコメントより。

『今季は特に勝つことに執着してやっていこうということを掲げている。2-0という結果は良い勝ち方ですが、2-1、3-2でも勝てればどういう内容でもいい。今日は良い内容がある中で勝てたことが良かった。』

伊藤監督3年目のシーズンであり、J1からの降格が無かった中で迎えるシーズン。
昇格に向けて大きなチャンスであるが、チームとしても結果を求めているシーズンであることが新井のコメントからも窺える。
千葉戦に続き、内容面でも充分なものを示している。

4.MOM

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野澤英之
ボランチで先発し、前半から持ち味のゲームコントロールを発揮した。
今節光ったのは球際の激しさとセカンドボールの回収。
中村とのコンビで堅く締め、中央を破られる場面は作らせなかった。
後半途中からはシャドーに入り、パスを引き出し試合をコントロールした。
そして、セットプレーから加入後初ゴールを挙げ、試合を決める大きな追加点となった。

5.あとがき

完勝と言える内容となった。
伊藤監督にとってはまたも古巣大宮を倒すこととなった。
前節は内容が良いながらも勝ちきれなかったが、今節は試合をコントロールしセットプレー2発で勝ち切る強者のような戦いぶりで今シーズン初勝利を挙げた。
今節は分析の勝利と言っても良いのではないかと思う。
大宮の守備の構造的な欠陥を徹底的に前半は突き、後半はリードしていたこともあり無理はせず淡々と試合を進めた。
ピッチに立った選手たちの活躍はもちろんだが、スタッフの力も大きかった勝利。
得点後の場面を見てもチームが一つにまとまっていることを感じさせられた。
次節のホーム開幕戦を最高の形で迎えることができた。

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