J2第40節 ヴァンフォーレ甲府vs松本山雅FC
第10回甲信ダービー。
今シーズンの対戦は松本ホームで1対1と引き分けに終わったが、それ以前の対戦は6連敗。
現在7試合勝ち無しとなっている。
通算の対戦成績は2勝2分5敗となっており、2勝はいずれも甲府のホームで挙げている。
甲府は前々節の敗戦で昇格は叶わなかったが、前節愛媛に勝ち来シーズンに繋がる戦いを見せた。
8年ぶりの甲信ダービーを制し、より逞しくなった姿を見せたい。
一方の松本はJ1から降格してきたシーズンながら16位と低迷。
しかし、9月に柴田監督が就任後は7勝7分4敗と勝ち点を増やしている。
10位以内のチームには一度も負けていないことは見事である。
お互いに前回対戦とは様変わりしているが、今節こそは甲信ダービーを制したい。
1.コンディション
スタメンはこちら。
甲府は前節から7人、前回対戦からは3人の変更となった。
注目は武田将平。
今シーズン甲府を支え続けた武田。
最終節がレンタル元の岡山との対戦なので「山梨中銀スタジアム」ラストマッチとなる。
来年も甲府で活躍する姿を見たいが一端は見納めとなるだけに、武田のプレーを目に焼き付けたい。
松本は前節から2人、前回対戦からは7人の変更となった。
注目は佐藤和弘。
昨シーズンまで甲府でプレーしていた選手。
大分へと移籍し、今シーズンはJ1での活躍を期待したがシーズン途中にJ2へ。
移籍先が松本とは誰もが驚いた移籍となった。
立ち上がりはコイントスで風上を取った松本が押し込む展開で始まる。
風上で押し込まれたこともあるが、選手のコンディションも明らかな差があった。
甲府は前節アウェイで愛媛と戦い中3日で、7試合連続での試合。
一方の松本はホームでの試合から中6日での一戦。
試合後の伊藤監督のコメントより。
『コンディションの部分であったりとか、中3日で出場しなければならない選手もいますので、やはり疲労度というのは少し影響があったのかなと思います。ただ、回避するためにターンオーバーを使ってゲームに望んでいるのでそれを言い訳にはできないと思います。』
伊藤監督は言い訳にはできないと語っているが、コンディションの差は明確であった。
甲府は新井をアンカーに上げ、ビルドアップし前進することを狙うが、コンディションに優れている松本の前線からの圧力に上手く前進できない。
試合後の伊藤監督のコメントより。
『松本さんのプレッシャーの強さと速さに戸惑いがありました。まずはプレッシャーをはがす力をつけなければなりません。これは1つの目標であると思います。』
『プレッシャーを受けるポジショニング、パススピード、クオリティ、ファーストコントロール、ポジショニングを取る速さとかは、絶対上げていかなければならない。今日の前半はそこを目標にし、アンカーを作りながらプレッシャーに来るのを足を止めたりポジショニングを変えたりすることが出来なかったので、そこは残念でした。』
試合後の新井選手のコメントより。
『用意した立ち位置がある中で、松本も甲府の試合を見て対策をしてきた。それに対して変化させながら攻略していくことに時間が掛かってうまくいかなかった。』
風下でもあるため、足元で繋いで前進して行きたかったが立ち上がりから松本の勢いに圧され、狙っていることができない甲府。
だが、伊藤監督のコメントにある通り、松本のプレッシャーを剥がしていくだけのものは出せなかった。
特に立ち位置を取る速さやパススピードは欠けていた。
立ち位置に関しては伊藤監督から再三指示が飛んでいたが、疲労も重なりピッチ上の選手たちの判断は鈍ってしまった。
だが、課題を与え挑戦していくことは昇格が無くなったからできることである。
一方の松本は甲府のプレッシャーを回避しながら、ゴールに迫る。
足が重いことからプレッシャーに行くも躱され、ゴール前に迫られる苦しい展開が続く。
試合をコントロールされ続けるも、飲水タイムで立て直すきっかけを掴みたかったが飲水タイム直前に先制を許してしまう。
試合後のセルジーニョ選手のコメントより。
『あのようなアングルのときは常にゴールを狙っています。相手GKの動きがよく見えて、1歩左に動いたのでシュートを打つと決めました。一瞬の判断でしたが、決まって良かったです』
試合後の岡西選手のコメントより。
『何でも対応できるように準備はしていました。(シュートは)最初は正面に来ると思っていたけど、曲がってきてキャッチに行くと危ないと思って、はじきに行きました。』
セルジーニョのコメントから、岡西は左にステップを切りクロスに備えた。
それに対し、セルジーニョがシュートを選択する。
岡西のコメントからも、急激に変化したことが窺える。
キャッチに行く判断を途中で身体に当てて、弾くことを選択したが弾ききれずゴールの中へ。
様々な駆け引きの中から生まれたゴールで単純に岡西のミスによって生まれたゴールではない。
飲水タイムまで何もさせてもらえなかった甲府。
ビルドアップ時の立ち位置を変更する。
試合後の伊藤監督のコメントより。
『相手のオーガナイズの逆を取ることが前半から少しずつ出来ていましたけど、やはりボールを動かす勇気という部分、ポゼッションをするチームとしてはしっかりそこをやっていかなければいけない思います。』
『途中から3バックに変えて「ボールを引き出す」「相手のプレッシャーを引き出しながらも背中を取る」ということが出来ていたので、私が言う前者のところでボールを動かせる力を作っていきたいというところです。』
試合後の新井選手のコメントより。
『武田 将平選手との関係が多くなるので、どういう立ち位置にするのか話をしていました。いろいろな立ち位置でやっているので、一番適切なものを選んで応用して対応できたと思います。』
相手の2トップに対し、3バックで数的優位を作りながら、2トップの背後ないしは間でアンカーに入った武田を経由し前進を狙う。
だが、後方に人数を増やすことでドゥドゥがより孤立してしまう。
甲府は自らチャンスを作ることができない中、松本のミスから30分にやっと最初のシュートを放つ。
一方の松本はセルジーニョが脅威となる。
セルジーニョは主に小柳や橋爪周辺にポジションを取り、起点となりカットインからゴールに向かう。
甲府のビルドアップを松本がはめ込み、シュートに持ち込んだ場面。
この場面は受け手となる選手が誰もポジションを取れていない。
強風のため難しいのかもしれなかったが、立ち位置を取れていない時にはボールを捨てる勇気も必要となる。
受け手となった中山は身体の向きが悪かった。
完全に相手DFに対して背を向けているため、中山が取れる選択肢はバックパスか身体を当てキープすること。
下げることは防がれていたためキープするしかなかったが中山はターンをしようとし、失ってしまった。
半身で受けることが出来ていればターンもでき、中塩のパスが中山の左方向へのパスであれば武田へのパスの選択肢もあった。
数センチ単位の誤差であるがビルドアップ時の数センチのズレは最終的にシュート局面での大きなズレに繋がる。
パス一つとっても精度を上げていかなくてはいけない。
またも松本のミスから甲府に決定機。
前半最大のチャンスはプレッシャーからミスを誘うことで生まれた。
中山がプレッシャーをかけ、二度追いする。
その時、パスコースを消しながら追うことで遅れてきた内田と共にボールホルダーの鈴木のミスを誘った。
ドゥドゥといえばミドルレンジからのシュートの印象はあるが今シーズンはなかなかゴールに繋がらない。
鹿島戦や柏戦のようなゴールをまた見たいところである。
前半は松本のミスが無ければシュートも打てない厳しい前半戦となった。
天候と身体的なコンディションで松本が圧倒的な優位を見せた前半となった。
2.変化
後半の頭から甲府は橋爪と中山に代えて荒木と野澤を投入する。
これにより前線の立ち位置が変化する。
また、ボランチを左右入れ替える。
松本も選手交代をする。
大野と久保田に代え浦田と杉本を投入する。
甲府としては高い位置を取る鈴木の裏をドゥドゥで突くことを狙う。
前半大野がカードをもらっていたことも理由として挙げられるだろうが、松本もテコ入れする。
また、松田を最前線に置くことで背後へのランニングで相手DFラインを押し下げ、佐藤の周辺のスペースを狙う。
試合後の常田選手のコメントより。
『後半の入りはよくなかったです。』
後半の立ち上がりは甲府がアグレッシブな入りをする。
プレッシャーの強度を高めたことでペースを掴む。
後方でのビルドアップに対し、松本は数的同数で守る。
セルジーニョが最前線で構え、阪野がアンカーの武田を見る。
杉本と塚川は背後のケアのため少し低い位置を取る。
それにより出来たギャップを活かし、プレッシャーを受けていない小柳の縦パスを起点にセカンドボールを拾いシュートに繋げた。
試合後の伊藤監督のコメントより。
『厳しいところにボールを入れられるようになってきたこと。アンカーの脇のところにボールが入ってきたというのは押し返せた要素かなと思います。サイドのところでしっかり起点を作れた中で、くさびが入っていたり、そういうところで勇気をもってボールを動かすことは出来ていたで、後半は良かったと思います。』
試合後の佐藤選手のコメントより。
『武田(将平)選手を中心にボールを回してきていて、自分の周りにすごく人がいました。味方に締めさせて外に行かせるようにしたかったが、相手が中に入ってくる回数が多くて勢い付かれました』
後半に入り、松本の圧力が落ちたこともあるが勇気を持ちボールを持てるようになったことで松本のアンカー周辺にボールを入れ込むことができるようになる。
だが、松本DFの前でボールは回せるが背後を突く形は多くは作ることはできず。
試合後の伊藤監督のコメントより。
『裏を突くことは指示に入っていましたし、そのタイミングが少しずれていたのかなと思います。ボールの受け手と出してのタイミングがずれていたので、ボール保持者のところで顔を前向きに出来た時の裏のランニングに対してのフィード、例えばそれが長かったのかとかそこは選手の判断だと思います。しかし、それをやろうというところはチームのベーシックとしてありますので、ランニングしないでボールが出てこなかったらそれは良くないことであって、ランニングしてるけどボールが出てこなかったというのはお互いのタイミング、あとはボール保持者がどうやってそこに勇気を持って正確にボールを出せるかというのが1つの問題ですので、そういうところを反省して振り返っていくべきところだと思います。』
相手DFラインの背後を突く狙いで松田を最前線に持ってきたかと思うが、効果は出ずにドゥドゥを最前線に戻す。
ボール保持時には松田がドゥドゥに近い位置を取り、2トップ気味に構える。
試合後の伊藤監督のコメントより。
『3-4-3のボランチの立ち位置を変えたりとか、左のワイドに松田を入れていたので、松田をドゥドゥの近くにしました。右も少し形を変えながら制圧していこうというところはあったので、しっかりとそこでプレッシャーをかけられていました。右の荒木が途中から出てインスイングでカットインからの数的優位を作っていたところも意図するところだったので、そういう意味では選手たちは良くやってくれていたと思います。』
これに対し、松本は飲水タイム明けに阪野に代え山本を投入しシステムを変更する。
試合後の柴田監督のコメントより。
『少し破綻をきたした時間もあったんですが、こちらも少しシステムを変えて、また戻したんですけど試合前からボールにプレッシャーをかけるということを確認して入っているので、そこの部分は意識してできたと思います。』
システム変更により守備をより強固なものにしようとする松本に対し、甲府も手を打つ。
79分に中村に代えて太田を投入する。
試合後の伊藤監督のコメントより。
『相手が3-4-3に変えた時もボランチの間に野澤を立たせて相手をロックしながら逆のホールを開かせていくというのも出来ていた』
伊藤監督の言うロックとは何か。
野澤が松本ボランチの間に立つことで相手が動けない状況を作る。
これを「ロック」と呼んでいる。
間に立たれることで松田や太田にスライドできないためボールとは逆サイドのホールが開く。
両監督が変化を加え、試合を動かしにかかる。
3.来シーズンへ繋げていくために
変化をいくつも加えゴールに迫る甲府。
ブロックを引いて守り切ろうとする松本。
松本が引くことで甲府が攻勢に出る。
試合後の柴田監督のコメントより。
『ボールに対しての行き方について、完全に奪いに行くのか限定だけでいいのかの判断ですね。奪いに行くことは共通意識を持てているんですが、ブロックを引いて守ることについては辿り着いていないというか、あまり得意じゃないんですよね。ここはトレーニングが必要ですが、時期的に改めてトレーニングできない事情もあります。いずれにしてもボールに対しては行けていましたが、それによる歪みが出てきたことも事実です』
攻勢に出ながらも決定機を作れずにいた甲府は松本にビッグチャンスを許す。
杉本がタメを作り、最後は走り込んだ山本がシュートを放つも岡西が止めた。
87分には中塩に代えて宮崎を投入する。
これにより4バックになり、前線はドゥドゥと太田が並び2トップとなる。
攻勢を続けるも得点を奪えずタイムアップとなった。
試合後の伊藤監督のコメントより。
『松本さんの素晴らしい「ファイトする強さ」というのを身に染みて感じましたし、松本さんから見れば勝利に値するゲームだったと思います。』
今節の松本はダービーとは何たるかを示した。
ダービーに必要なのは勝つことだけ。
積み上げてきたものを示すことは出来たが、闘うことに関しては今節の松本が上手であった。
中3日で7連戦目と厳しい日程でのダービーは難しい一戦となった。
試合後の伊藤監督のコメントより。
『最後はゴール前でその「壁をぶち破るクオリティ」と「足を振る勇気」と「ゴールを揺らす力と気持ち」というのを培っていかないといけないと思います。』
今シーズンを象徴する一戦となってしまった。
強度の高い相手に飲み込まれ、大きなチャンスを作れず敗れてしまう。
だが、今節は後半に入り、立て直すことには成功した。
足りなかったのは得点。
相手のDFラインの背後を取った場面もいくつかあり、崩した場面もあった。
伊藤監督のコメントの通りの課題は残ったが、土台を作れたことで来シーズンは得点を奪うことにフォーカスし強化していけるのではないか。
敗れたことで課題は浮き彫りになった一戦だが、悲観するばかりでなく収穫もあった。
4.あとがき
残念ながら厳しい試合となってしまった。
甲信ダービーはまたしても勝利を飾ることが出来なかった。
8年もの長い期間勝てていない。
来年こそは勝利を収め、昇格に繋げたい。
MOM セルジーニョ
得点もさることながら、常に前線で起点になり続けた。
佐藤と共に甲府のプレッシャーからの逃げ道となった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?