刑裁起案の手引

刑裁の起案の訓練には、実際の刑事事件の判決を読み込むのがいいわけですが、裁判官によって良し悪しが分かれるのが辛いところ。

かといって、最高裁は事実認定を扱わないし…というところだが、こと刑事事件については、最高裁でもお手本的な事実認定を示すことがないわけではないので、参考になる。


例えば、飯塚事件の「再審請求棄却決定に対する即時抗告棄却決定に対する特別抗告事件」の最一決R3.4.21。

まさに修習生の起案ばりに簡潔に確定審の認定構造を整理してくれている。(結論の是非はともかく)

整理しよう。


①<【S1らの目撃供述によれば,】本件犯行に犯人が使用したと疑われる>車両は,M1製の紺色ワゴンで,後輪がダブルタイヤであり,リアウインドウにフィルムが貼ってあるなどの特徴を有しており,<犯人は被害者両名の失踪場所等に土地鑑を有する者である{と推測される}>ところ,
事件本人は<前記車両と特徴を同じくする>事件本人車を所有し,かつ,前記失踪場所等に土地鑑を有する


被害者両名の着衣から発見され,<被害者両名が犯人使用車両に乗せられた機会に付着したと認められる>繊維片は,
→<事件本人車と同型のW>に使用されている座席シートの繊維片である{可能性が高い}


事件本人車の後部座席シートからⅤ1と同じ血液型(ABO式。以下同じ。)であるz1型の血痕と人の尿痕が検出されているところ,
被害者両名ともに<殺害された時に生じたと認められる>失禁と出血があり,
→事件本人が犯人であるとすれば,前記血痕及び尿痕の付着を合理的に説明できる


④【警察庁科学警察研究所(以下「科警研」という。)が実施した血液型鑑定及びDNA型鑑定によれば,】V2の遺体付近にあった木の枝に付着していた血痕並びに被害者両名の膣内容物及び膣周辺付着物の中に,<犯人に由来すると認められる>血痕ないし血液が混在しており,仮に犯人が1人であるとした場合には,その犯人の血液型はz2型,MCT118型はm1-m5型であり,
⇔いずれも<事件本人の型>と一致している


事件本人は,本件当時,亀頭包皮炎に罹患しており,外部からの刺激により亀頭から容易に出血する状態にあったから,
→事件本人が犯人であるとすれば,被害者両名の膣内容物等に犯人に由来すると認められる血液等が混在していたことを合理的に説明できる


被害者両名が失踪した時間帯及び失踪場所は,
事件本人が申立人を通勤先に事件本人車で送った後,事件本人方に帰る途中の時間帯及び通路に当たっていた{可能性があり},他方で,事件本人にアリバイが成立しないことなどが認められる


ちなみに最高裁は、「犯人と事件本人のMCT118型鑑定が一致したことを除いたその余の情況事実を総合した場合であっても,事件本人が犯人であることについて合理的な疑いを超えた高度の立証がされており,新証拠はいずれも確定判決の認定に合理的な疑いを生じさせるものではないという原々決定の判断を是認した原決定の判断は,正当である。」としているので、④のDNA型鑑定の結果を除いても、犯人性の立証はされている、とみるのが刑裁起案のスタンダードといわざるを得ない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?