探偵ゲヱム

街外れの喫茶店で、憧れの名探偵に会うことが出来た。偶然だ。
時折新聞の地方欄にまで載るような活躍をしていて、その記事をスクラップしたノートをいつもかばんに忍ばせているほど憧れていた探偵だ。

声をかけると意外なほど気さくに応じてくれた。思わず矢継ぎ早に質問をしてしまう。彼は暇をつぶすように、けれど決して嫌な顔をせずに俺の質問に答えてくれた。ひとつひとつ、彼の身なりのように丁寧に。

「基本的には人やモノ探しが仕事の中心さ。あとは浮気調査。僕は至って普通の探偵だよ」
「やっぱり、殺人事件の依頼なんかもあるんですか?!」
「…流石にそういったモノは中々ね。それに、僕は人の死体なんて見たくないよ」
「…人じゃなきゃいいんですか?」
「…」

俄然、彼の視線が冷たさを帯びる。そりゃそうだ。思わず口にしてしまったが、失言だ。けれど彼は、眼を細めながらこう答えた。

「…いいところに気付くね。君には素質があるかもしれない」

その時、カウンターの向こうから叫び声が。店主が休憩から戻ると売上金や権利書等の入った金庫が事務所から盗まれていたのだという。

なんて偶然だ。探偵の出番じゃないか。

騒ぎが大きくなると、彼は、やれやれしょうがない、と言いたげな顔をした。さっきまでとはまた違う視線。名探偵の推理が生で見られるのか…!

「ねえ、君」
不意に探偵が声をかけてきた。あまりに突然だったのでだいぶ素っ頓狂な返事をしたかも知れない。
「探偵に憧れているだろう?僕、否、探偵という仕事に」
その通りだ…通りすがりの名探偵に質問を投げかけるくらいには…。
「…どうだい」

探偵ゲヱムをしやうじゃないか


探偵が二人。事件がひとつ。どちらが先に解決するか。彼はそれを「ゲヱム」と呼んだ。


数ヶ月後。
俺は名探偵の右腕として……否……相棒……それも違う……好敵手……?そんな大それたものじゃない。とにかく、もう一人の名探偵として、名を馳せることになる。


【続く】

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