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家事を頑張る父とベタ褒めする娘

先日両親が遊びにきたときのこと。

家族で出かける日の朝,母はいつもに増して慌ただしくしている。
実家の家事は母が一手にになっており,更に結構こだわりが強い。絶対にこうしたいと決めたらどんなに時間がなくてもやろうとする所がある。私がいるときはできるだけ母の負担を減らせるよう,分担していたが,そういうとき父は早々に準備を終えるとぽやんと待っているのがお決まりだった。

母がその姿を見て,ちょっとは手伝ってよとキーっとなるのが我が家の日常だったのだが,今回はいつもと違ったのだ。

話はその数時間前に遡る。
使ったら使いっぱなしだといつも怒られていた父が,顔を洗ったあと,誰も見ていないのに洗面台に飛び散った水滴をティッシュで拭いていた。その姿が目に入った瞬間持っていたスマホを落としそうになるくらい驚いた。
そんなことできたの!?と父に対しての言葉としてはふさわしくないが,本当に心から驚いたのと嬉しかった。

更に驚くことは続く。
朝食後,母がいつものごとくバタバタし始めた。私もどうしても片付けないといけない仕事があったので父に「もしよかったらお皿洗ってくれる?」と頼んでみた。するといつもなら見向きもしない父が「いいよ」と,すっと立ち上がったのだ。

これは本当にいつもの父だろうか,と耳を疑いつつ洗剤の場所と付け方を教えてあげる。すると不慣れな手つきではあるが,全てのお皿を綺麗に洗ってくれた。こんなことは今までになかったので,本当に驚きつつ「すごい!すごいね。こんなに上手にできるんだね。本当に助かった,ありがとう。いや,でも本当にすごい」と半分語彙を失いながらベタ褒めした。

若い男性であれば家事をするのが当たり前と言う人も多いかもしれないが,父の世代は家事は女がして当たり前という人がまだまだ多い。特に私の生まれ育った地域はその色が強い場所だった。法事の際に,男性を立たせると怒られることも珍しくなかった。

父だって数年前まではゴミ捨てすらまともにできなかった人だ。私が家にいた頃は,父が率先して家のことをやっている姿はおそらく一度も見たことがない。

それがいつのまにか,お皿洗いができたり,洗面台を綺麗にしようという意識が芽生えていたことが私は本当に嬉しかった。あまりに嬉しかったので,母が誉めすぎじゃない?と言うほどその日は口をひらけば父を誉めた。

後日母から電話で,「お父さん,ゆらに褒められたのがよっぽど嬉しかったみたいで,家でも自分でできることは自分でするって張り切ってるのよ」と言っていた。それはまぁなんと素晴らしいことか。別にもっと家事をさせようと思って誉めたわけではないが,父にとっても嬉しい出来事であったならよかったなと思う。

今までしてこなかったことをするって,年齢を重ねれば重ねるほど難しい。特に父の中では,男が家事なんてと思う気持ちも少なからず残っていたはずだ。けれど,両親揃って年齢を重ねて,特にうちは母のほうが年齢が上なので,父なりに母を助けたいという気持ちが芽生えたのではないかと思う。
その気遣いや優しさも含めて嬉しかった。

お皿洗いなんて,最初のうちはお皿が割れさえしなければセーフだし,洗濯だって服が破れなければ完璧だ。やっているうちに自分なりの工夫が出てくるものなので,やり方を教えてあげたらあとは信頼して任せるだけだと思っている。おかげで不器用だと思っていた父が意外と繊細な仕事をすることもわかり,それもまた新鮮だった。

元々仲の良い両親だったが,今後も2人で支え合いながら過ごしてくれそうで,離れて暮らす娘としては心からホッとしている。




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