ある女の子の天使うさぎ表紙

「ある女の子の天使うさぎ」おんなのこと天使うさぎたち86

ある女の子のうさぎが天使うさぎになりました。
すぐにうさぎの天国へ行かずに、しばらく世界中を飛び回っていました。

「やあ!やっと見つけた。僕は平蔵という名前で、新しい天使うさぎたちの先生をやっているんだ。さあ、一緒に勉強しよう!あ、名前はなんて言うの?」
女の子の天使うさぎのところへ、平蔵が飛んできて、話しかけました。
「・・・ナンパ?」
と女の子の天使うさぎは冷たく言い残して、呆然としている平蔵を放置して行ってしまいました。

「待って!あたしたち天使うさぎなの。あなたと同じ仲間よ。」
慌ててばにーが飛んできて、なだめました。
「仲間?なにそれ。知らないよ。」
女の子の天使うさぎは、やっぱり関心がなさそうに行ってしまいました。

寝坊していたぷーくんが、聞きつけて新太、一太とともに来ました。
「元気だね。僕はぷーくん。この中で一番長生きしたうさぎだったんだ。みんなから年寄り扱いされるけど、天使うさぎに時間は関係ないからね。」
「僕は一太。本と研究が好き。君の考え方はなかなか興味深い。」
「僕は新太というんだ。特に得意なものはないよ。仲良くしようよ。」

女の子の天使うさぎは、順番に言いました。
「年寄りじゃん。それで、シミだらけで老眼鏡をかけてるんだ。」
「本?研究?ガリ勉じゃん。」
「あらた、か。顔を洗って出直して来な。」
ショックを受けているみんな(特にぷーくん)を見捨てて、女の子の天使うさぎは言ってしまいました。

「ちょい待ち。あんさん、関西のもんやろ。いや、言わんでも分かるて。うちらのところへ来いや。」
「うちらは、みにとまろ。こっちの大きいのがはなちゃんゆうて、うちらの漫才の師匠ですわ。」
「さあ、行こか!ほんで、女の子同士でおもろい暮らししようや。」
はなちゃん、みにとまろがやってきました。

「うっわ、ダッサ。『うちら』て。お笑いて。ひくわー。」
女の子の天使うさぎが冷たく答えると、はなちゃんたちはすべった芸人のようにしょんぼりしました。

「さっきから見ておれば。無礼であろう。まず名乗ってはどうだ。」
うさちゃんが、しろちゃんを連れて来ました。
「なんだ、さっきの老眼鏡の子供か。」
「こ、子供ではない!われは、最初の天使うさぎであるぞ!」
「まあまあ、うさちゃん。このとっちゃん坊やはうさちゃん。あたしはしろちゃんよ。」
「と、とっちゃん。。。」
うさちゃんを取りなしたしろちゃんに対して、女の子の天使うさぎは言いました。
「あっそ。まあ、あんたのきれいな赤い目と『とっちゃん坊や』に免じて、言う必要もないけど、あたしは『ひなた』。ま、これっきりだから名前を知っても意味ないでしょ。」
ひなたちゃんはその場を去りました。

「ふっふっふっふ。。。」
どこからか、不気味と言えなくもない笑い声が聞こえてきました。
ひなたちゃんは知らん顔しています。
「ふっふっふっふ!」
ひなたちゃんは知らん顔しています。
「ふっふっふっふってば!」
「ああもう、さっきからうるさいな。何か用?」
そこには、ブラックぷーくんがいました。
「ぜいぜい。。。我輩はブラックぷーくん。ひなたとやら、ぷーくんどもと馴れ合わぬとは、見どころがあるではないか。」
「あっそ。ありがと。じゃあ。」

ひなたちゃんが行こうとすると、ブラックぷーくんが慌てて呼びかけました。
「待て待て!我輩とともに世界征服しようではないか!」
「はあ?意味わかんないんですけど。」
「いや、だから世界を征服して、おもしろおかしく」
「だからー。世界を征服してどうするの。征服した後、あんた世界中の動物の面倒見られるの。世界中の自然を守ることができるの。世界中の争いを解決できるの。全部責任持てるの。何も考えてないの。天使なの。」
ひなたちゃんが次から次へと言うと、ブラックぷーくんは冷や汗を流して言いました。
「こ、これは。。。いやまあ、我輩も天使と言えなくもないが。。。ある意味、さくらちゃんと同じくらい手強いやつだな。。。」
「ふーん。さくらちゃんね。まともなやつもいるんだ。よろしく伝えておいて。」
ひなたちゃんは行ってしまいました。

「ひなた。」
しばらくすると、ひなたちゃんを呼ぶ声がしました。

ひなたちゃんは、さくらちゃんを見つけました。
「うわっ。大きな羽。他のやつと色も違うし。あんたがさくらちゃん?」
「そう。ブラックぷーくんから聞いた。」
「へえ。あの黒いの、案外律儀なんだ。何か用?」
「みんな悲しんでいた。」
「は?」
「特にぷーくん。」
「ああ、老眼鏡ね。」

「はなちゃん達も立ち直れない。」
「あたしの知ったことじゃないよ。何だよ。あたしを責めるの?」
「ううん。ただ知りたいの。」
「何を。」
「何でひとりがいいの。」
「別に。ずっとひとりだったから、ひとりの方が気楽なんだ。」
「でも、みんな優しい。」
「どうでもいい。」
「だから、みんな悲しんでいるの。」
「ああ、もう!うるさいな!はいはい、悪かったよ。これでいいんだろ?じゃあ、あんたも消えな!」
「ひなた、悲しい?」
「ああ、悲しいね。あんたに色々ああだこうだ訊かれて!」
「わかった。」
「え?」

「さくらがいると、ひなたが悲しむの。」
さくらちゃんの大きな羽が、枯れ葉のように落ち始めました。
「さくらが消えると、ひなたが喜ぶの。」
ますます羽が落ちていきました。
「だから、さくら、消えるの。」
とうとう羽がなくなってしまいました。
そして、さくらちゃんは落ちました。高い空から。
ひなたちゃんは、しばらく呆然としていました。

「待たんかい!こらあああっ!」


ひなたちゃんは、大声で叫んで必死に落ちていくさくらちゃんを追いかけました。

「間に合った。」
ブラックぷーくんが、何とかさくらちゃんを受け止めていました。
「ふう。。。」
ひなたちゃんは、ほっとしています。
そしてさくらちゃんに向かって言いました。
「あんた、何考えてんの!ほんとに消えるやつがあるか!」

「さくらちゃんは冗談が通じないから」
「さくらちゃんは純粋だからなあ」
「さくらちゃんは真面目だし」
いつの間にか、ぷーくん達、天使うさぎがやってきて口々に言いました。
「うわ!びっくりした。」

ひなたちゃんが、さくらちゃんを見ると、涙が出ているようです。
「お、おいおい、泣くこたないだろ!びっくりしたのはこっちだよ!」
さくらちゃんは、震えはじめました。
そしてとうとう、お腹を押さえて。。。

「「「さくらちゃんが笑ってる!」」」
ぷーくん達はびっくりしました。
「ご、ごめんなさい。。。ひなたのさっきの大声に、さくら、びっくりして。。。何だか嬉しくなって。。。」
さくらちゃんは、涙を流しながら笑っています。

「な、なんだ、笑ってるのか。びっくりしたのはこっちなんだ!簡単に消えるな!」
ひなたちゃんがとうとう大声を出して、さくらちゃんも素直に謝りました。
「ごめんなさい。さくら、もう簡単に消えない。」
ぷーくんたちは、ひそひそ話しています。
「案外、優しいじゃないか。」
「冷たそうな言い方をしていたけど。」
「あれか?ツンツンしているように見えるけど、実は。。。」
「ちゃうわい!」
ひなたちゃんは、また大声を出しました。

はなちゃんたちは、聞き逃しませんでした。
「ちゃうわいゆうたな。」
「それに、なかなかええツッコミちゃう?」
「これは有望やで。」
「ああもう!ちょっと、そこの黒!」
ひなたちゃんは、いたたまれなくなって、ブラックぷーくんに呼びかけました。
「へ?」
「へ?じゃない!あんた、世界征服するんだろ!手伝ってやるから行くぞ。それからさくら。。。ちゃんも来い!」
ひなたちゃんは、強引にブラックぷーくんとさくらちゃんを引っ張って行きました。

ぷーくん達は見送っていました。
「大丈夫かしら?」
「さくらちゃんがいるから、大丈夫じゃない?」
「ま、そのうち何とかなるさ。」
「いやあ、キレキャラとして、うちらに欲しいわあ。」
「僕らには時間が無限にあるから、大丈夫だよ。」


あとがき

女の子の天使うさぎのモデルは、2012年7月から昨年9月24日に天に召されるまで実家で暮らしていた、うさぎのひなたちゃんです。実在の人物とは全く関係ありません。