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絵本を出版し損ねたお話

冒頭から恐縮ですが、これは愚痴でも後悔でもありません。ひょっとしたら誰かのご参考になるかも知れないと思い、自分の体験を綴っておこうと思った次第です。私には、絵本を出版するかもしれない機会が何回かあり、結果として全て実現しませんでした。

私自身の仕事については、人様のお役に立つ内容ではあるものの、広言できない性質のものなので伏せておきます。ただ、その仕事の関係で、数多くの出版社の社長、取締役の知己を得たことがありました。

あの業界の方々は、結構Facebookを多用されており、私も多数繋がりを得ました。その当時、Facebookでは娘のために描いている絵本を毎日投稿しておりました。その絵本が某超大手出版社の役員に気に入られ、出版しないか、と編集の方をご紹介いただきました。

絵本のファイルをお送りし、取材、インタビューを受け、「読者」である娘もインタビューを受けました。

数カ月後に送られてきた書物は、男性向け雑誌でした。特集は「イクメン」(苦笑)で、その中で私も掲載されていました。内容としては、こんな仕事をしている人が殺人的多忙(本当はそのようなことはありません)の中、娘のために絵本を描き続けている「美談」で、絵本はほんの少し載っている程度でした。

その後、特にフォローもありませんし、もちろん絵本が出版されることはありませんでした。

次に、やはり仕事の関係で、メディア関連のフィクサー的な方と知り合いになりました。その方は、ある素人漫画家を発掘し、あるポータルサイトでの連載から始め、その後出版させた実績があります。そのマンガは、タイトルを聞けば多くの方が知っているものです。

そのフィクサー氏が、私に目をつけ、やはりWEB掲載、あるいはいきなり出版という話をしてくださいました。そして実際に、中堅どころの出版社の編集長をご紹介いただき、担当がつきました。

その担当のご意見としては、「絵本単体ではなく、父から娘に送るメッセージの体裁の本にした方が読者層にマッチする」というものでした。そして当時40作近くだった絵本の一つ一つに対して、娘に伝えたいメッセージを短文で書くように、と言われました。正直、それほどメッセージ性を考えているものばかりではなかったので、無理やりひねり出して、担当へお送りしました。

2〜3回やり取りした後、ぱったり連絡が来なくなりました。私も仕事の方が忙しくなっていたので、放置していたところ、急にメールが来ました。内容は、「仕事に疲れたので一旦退職して旅に出る」というようなものでした。当然、出版のお話はそれきりです。

さて、以前も投稿したように、私の息子の方は生涯一歳児よりも知能が向上しない、重度の知的障害です。そのため、私の死ぬ目的は、私の死後、息子が行政の負担を最小限にして天寿を全うできるだけの資産を何とか残すこと、とばっちりを受けて精神的負担を受けているであろう娘に精一杯の喜びを残すことで、絵本もそのために描き始めたものです。

普通の仕事では、そんな資産を残すことなんかできません。なまじ出版のお声がけがあったため、絵本で何とか資産を残せないかと、片っ端からコンクールへ送っては落選しました。やはり仕事で知己を得た、某大企業の会長から、その大企業が主催するコンクールへ応募しなさい、と言われましたが、これはもちろんお断りしました。

最終的には、原稿を送りつけることもやり、殆どは無視されたのですが、ある良心的な編集者から、なぜダメなのかというメールをいただきました。特に差し支えない内容なので、固有名詞を除いて原文のまま転載します。

2015年7月7日 9:47 ●:
●さま
こんにちは、●の●と申します。
作品を送っていただきありがとうございます。
お子様のために創作を続けられているとのこと、すばらしいと思います。
一方で、出版となると読者は顔も知らない子どもたちです。
その子どもたちに、よろこびを与えることが絵本作家の仕事です。
例えば、漢字の使用や、言葉の選び方、見開きいっぱいに流し込まれた文章をみて誰のための絵本か、という点で考えてみてください。
画力についても、力不足です。
絵本の場合、圧倒的なデッサン力が必須というわけではありませんが「物語る絵」を描くためには、やはり技術は不可欠です。
そして展開も同じ。「おもしろい」が子どもの目線で語られないと伝わりません。
まずは、何十年も子どもに愛されてきたロングセラー絵本を手にとってそこに何が描いてあり、なぜおもしろいのかを知って欲しいです。
引き続き、絵本づくりを楽しんでいただけたらうれしいです。

やっと気が付きました。

そうか、私の絵本は、私自身の仕事とのギャップ、娘という読者そして、薄々感じていたのですが、知的障害者である息子という組み合わせで、初めて世間の関心を得るかもしれない、という内容だったのか。

吹っ切れました。

このメールの2ヶ月後に、放置していたnoteに絵本を投稿し出して、たくさんの素敵な作品と、たくさんの素敵な方々との出会い、自分ひとりでは絶対にやらなかったであろう体験がありました。なかでも、絵本に情感が籠もった声をあてていただき、素晴らしい音楽をBGMにお借りした動画は、娘が大喜びしてくれました。

私の場合、娘や、まして息子を「売る」という選択肢はありません。それがなければ売れない絵本ならば、売るという気持ちを捨てて、あくまでも収入は、世間が私に期待している仕事で得るのが筋だという当たり前のことにようやく辿り着いたところです。

noteでは、投稿者としてはあくまでも観ていただく、一緒に遊んでいただくという姿勢で、逆に応援したい方々には金銭的な意味も含めてサポートさせていただければ、というポジションが最適でしょう。3月に一度失業していることもあって収入は決して多くないのですけど、息子のために5年半以上、接待も会食も友人飲みも仕事飲みも全て断って、一日たりとも家族以外の方と夕食を摂ったことがなく、酒は元々飲む習慣がなく、物欲は極端に少ないので、自分の自由になるお金は、自分の価値観で使うだけの「気持ち」の余裕も出来ましたし。

85作目を描き終えて、さて、次のネタは、と考え始めた宵に。

AngelRabbits