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ベンチャーキャピタル(VC)がスタートアップへの投資を決める基準とは

ベンチャーキャピタル(VC)JAFCOでスタートアップ支援を手掛けている西中です。

前回は、「VCの視点から考える「スタートアップ」と「ベンチャー」の違いとは」というタイトルで、VCの目線から見たスタートアップの実態についてお話させて頂きました。

ご存知の方もいるかもしれませんが、VCである当社は「新事業の創造にコミットし、ともに未来を切り開く」をミッションに掲げ、これまでに革新的な製品やサービスの数々を起業家の方々とともに生み出していくプロセスに貢献して参りました。

そのミッションを達成すべく、スタートアップの成長段階や状況に合った出資を行っているわけですが、「そもそもVCはどういった基準で投資先を決めているのか?」がよく分からないというお声をしばしば頂きます。

そこで今回は、VCが投資先を決める際に重視しているポイントについて、私の経験からお話していこうと思います。

スタートアップの採用支援の場でもよくお伝えしていることなのですが、転職先選びは「人生の時間の投資」だと私は考えています。VCが投資先の企業を決める際の目線をお伝えすることで、皆さんが今後のキャリアを考える際の参考になれば幸いです。

スタートアップの成長フェーズに応じた投資

スタートアップへの出資といっても、実は各社の成長フェーズによって実態は大きく異なります。スタートアップの成長フェーズは以下の通り、4段階に分類されます。


  1. シード:プロダクトを開発し、市場へと適合させていく(PMF)段階

  2. アーリー:さらなる成長を見越して、利益と提供品質を両立できる事業戦略を確立する段階

  3. ミドル(エクスパンション):マーケティングや営業に資金を投下し、アップセルのための機能拡充や顧客層の拡大を目指す段階

  4. レイター:上場に向けて組織体制を整えていく段階

事業戦略が明確になっているミドルやレイター段階のスタートアップでないとVCから出資を受けるのは難しいのではないか、と思われている方もいるようですが、実際のところ、シードやアーリー段階のスタートアップにも多数の投資が行われています。

以上のような背景を前提とした上で、私たちが投資先を決める際にどんなポイントを見ているのか、詳しく説明していこうと思います。

投資先を決める際に重視する3つのポイント

一般的にVCが投資先を決める際には、大きく分けて以下の3点を重視しています。

➀市場性=マーケットは存在するのか
②ビジネスモデル=どうやって利益を生むのか
③経営陣=「誰」がやるのか

それぞれのポイントについて、私の個人的な見解を踏まえながら詳しく解説していきます。

「市場性」と「ビジネスモデル」

3つのポイントのうち、①「市場性」と②「ビジネスモデル」には密接な関係があります。なぜなら、事業計画を立てる際の一般的な流れとして


  • そもそも市場が存在しているか

  • 市場規模はどの程度を見込めるのか

  • 将来的な伸びしろはあるのか

という観点から「市場性」を仮説・検証した後で


  • 想定される市場にはどんな競合がいるのか

  • 競合に勝つためにはどんなアプローチが有効なのか

  • 外部から資金調達をすることで、どのように事業拡大させていくのか

という議論を重ねながら「ビジネスモデル」を作り上げていくからです。

スタートアップの「市場性」や「ビジネスモデル」を検討する場合、数学の公式のようにはっきりした”正解”はありません。

たとえば新型コロナウイルスの感染拡大のような事象がひとたび起これば、市場には予期しようがない変化が起こります。ビジネスモデルについても、事前にどれだけ綿密に計画を立てても、思うように進まないことがほとんどです。

だからこそ、新たなビジネスモデルや商品・サービスに対して出来る限りの情報収集を行い、かつ仮説に基づいた検証を、自分たちが納得のいく限り行っているかという点を私たちは大事にしています

たとえば、「ある新サービスは、Aという課題を唯一解決できる」という仮説を立てたとしましょう。その場合、以下のような論点をいくつも多角的に出しながら、収集したデータをもとに仮説を検証していく必要があります。


  • そもそもAという課題を解決したい人はどのくらいの規模で存在しているのか

  • Aという課題を仮に解決できたとして、本当にお金が支払われるのか

  • その場合、金額がいくらであれば支払われるのか

特にシード期の場合、検証用のデータを定量的に用意するのが難しいケースが多々あります。しかしながら、第三者からの納得を得やすい定量的なアプローチのデータがなくても、自分たちが確信を持って事業を進められるように、仮説を検証する方法は無数にあります。

投資を検討する過程の中で、私たちが大切にしているのは、仮説検証のための「行動」です。つまり、理論に基づく仮説だけで終わることなく、考えられる手を全て試したうえで、検証ポイントについて議論し尽くしているかどうかを見ています。

自分の事業と日々全力で向き合い、どうすればより事業を成長させられるのかを真剣に考えているスタートアップの経営者の場合、VCの担当者が初見で気づくような論点であれば既に考え尽くしているというケースがほとんどです。

そういった意味では、市場性とビジネスモデルについて議論を重ねつつ、VCが重視するポイント③の「経営陣」に関しても一緒に見ているといえるでしょう。


「経営陣」:その新規事業を「誰」がやるのか

3つ目のポイントは「経営陣」、つまりその新規事業をやるのは「誰」なのか、という点です。特にシードやアーリー段階の企業に出資する場合、この「『誰』がやるのかという点が重要な要素であることは疑いようがありません。

シードやアーリー段階に限らず、スタートアップへの出資を検討する際には、経営者や経営チームの方々の事業にかける思いを深い部分まで必ず教えて頂くようにしています。これまでの生き方や大事にしている価値観、そして人生の岐路で選んできた選択など伺い、「なぜこの事業をやるのか」という原点を深掘りしていくのです。

どうして私たちが「『誰』がやるのか」という部分にそこまで重きを置くのか、具体的な例を出しながら、その理由をくわしく述べていきたいと思います。

「共感」を大切に、経営者や経営チームの思いと向き合う

➀「市場性」と②「ビジネスモデル」のところでも少しお話ししましたが、スタートアップの事業は計画通りに進まないケースがほとんどです。特にシードフェーズに描いたビジネスモデルや事業プランなどは、大幅な変更が加わることも珍しくありません。

そのため、思いがけない壁にぶつかるたびに、経営者や経営チームは戦術レベルだけではなく、戦略レベルでしばしば大きな決断を迫られることになります。

VCが出資を行う場合、10年というファンドの運用期間をもとに、投資先の企業の成長を上場までの長期視点で見ています。もちろん上場した後も乗り越えなくてはならない課題はたくさんあるわけですから、スタートアップの経営者にとっては10年よりもさらに先を見据えて、長い目で事業に取り組む必要があります。

だからこそ、私たちが出資を検討する際には、10年先も事業を続けていくだけの原動力が経営陣にあるかどうかという点を大切にしています。要するに、経営者や経営チームが想定通りにいかない状況に陥ったとき、つまり、困難な局面であっても事業を継続したいといった原動力を経営者や経営チームが持っているのかどうかということです。

これだけだと分かりにくいと思うので、具体例を一つあげてみましょう。

事業領域に対する情熱があふれている経営者の一例

JAFCOが出資している宇宙ベンチャー「株式会社アストロスケールホールディングス」は、経営者の岡田光信さんが子どもの頃に抱いていた宇宙への憧れが事業の原動力になっているケースです。

岡田さんの経歴を少しお話すると、彼はもともと東京大学農学部の出身で、そのまま同大学の大学院で農学を研究する予定でした。ところが、大学院に進学を果たした年にちょうど阪神淡路大震災が起こりました。「被災地のために、何かできることはないか」と考えた岡田さんは、国の予算を扱う仕事について復興に貢献したいと考えるようになったそうです。

その目的を果たすべく、東大大学院を中退した後は、大蔵省へ入省。 その後、アメリカへのMBA留学中に大蔵省を退職し、さらにマッキンゼー・アンド・カンパニーで経験を積んだ後、ベンチャー企業のCFOとして上場を果たしたり、ITベンチャーを起業したりといったキャリアを歩んできた岡田さんですが、 ちょうど40歳を迎えるタイミングである思いがよぎるようになったといいます。

「自分がしたかったことは何なのか?」「これから人生で何をしていきたいのか?」

 そんな自問自答をしている中、偶然、高校1年のときに参加したNASAのスペースキャンプで宇宙飛行士の毛利衛さんからもらった手紙を見つけたそうです。子どもの頃から大好きだった宇宙への情熱が蘇った岡田さんは、その後、宇宙関連の学会に積極的に参加していくことになります。

そんな中で、たまたま参加した学会で岡田さんの目に留まったのがさかんに議論されていた宇宙ゴミ(スベースデブリ)の問題です。

宇宙ゴミというのは、運用を終えた人工衛星や、故障した人工衛星、打ち上げロケットから切り離された上段部分など、軌道上に存在している不要物です。現在1億個を超える宇宙ゴミが存在するといわれており、そのまま放置しておくと、将来的に人類が宇宙空間で活動できなくなる可能性が高いといわれています。

非常に重大な社会課題であるにもかかわらず、当時宇宙ゴミに対するソリューションを提示している人は誰もいませんでした。「なら、自分がその課題に挑もう」と決意した岡田さんが、人生をかけて立ち上げたのが新会社「アストロスケール」です。

宇宙ゴミ回収のビジネスモデルは、数年先までは売上の見通しが立たないことは明らかでした。それでも、岡田さんの持つ並々ならぬ熱量と行動が担当者の心を動かし、最終的に出資に至ったのです。

失敗したとしても一緒にやりたいと思える相手と共に歩む

私個人の考えにはなりますが、VCが投資検討する際には、究極を言うと担当者として「たとえこのビジネスが失敗したとしても、目の前の経営者と一緒にやっていきたい」と思えるかどうかが決め手になると思っています。

もちろん市場性やビジネスモデルについてはしっかり確認しますが、どれだけ検証されつくした事業計画でも何かしらの想定外は起こるものです。

私たちVCは、出資先の経営者と長期視点で関わっていけるのが強みだと考えています。だからこそ、「その経営者の想いや価値観に共感できるかどうか」という部分は特にロジック以上に重要な要素だと感じます。


最後に

「失敗したとしても、一緒にやりたい相手だと思えるかどうか」

この視点は、転職先選びでも重要なポイントだと考えています。特に、スタートアップをキャリアの選択肢に入れている場合、市場性やビジネスモデルだけを理由に転職先を決めると、後から「こんなはずじゃなかった」と後悔する可能性もあります。

スタートアップは変化の速度が速いため、入社前に思い描いているキャリアパスとはズレが生じることも多々あります。それでも「この人たちと一緒にやりたい」と思えるなら、どんな想定外の事態が起きても自らの経験値に変えていけるでしょう。

私たちが「『誰』がやるのか」の部分で確認しているような、経営者の生き方や価値観、事業への思いなどを事前にリサーチしておくと、転職時のミスマッチを減らすことができます。

スタートアップの理念や価値観をきちんと理解した上で、入社してくれる人材が増えていくのは、私たちVCからしても喜ばしいことです。以前私のnoteでも触れた内容なのですが、自分でリサーチしたという前提のもと、意思決定の最終段階であればそのスタートアップに出資しているVCから話を聞くのも有効な手法でしょう。

今回の内容がスタートアップへの転職を検討している皆さんの一助となれば幸いです。


(この内容は、CPASSに寄稿した内容と同様の内容になります。)
https://cpass-net.jp/posts/OnU6Bssu


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