令和4年予備試験論文民法

設問1.
(1)まず本件では、請負契約であるが民法559条により売買契約の規定が請負契約にも、準用される。そして、本件ではAがBに無断で使った塗料βの方が塗料αよりもより品質がよく、客観的な価値は高い。しかし、契約は当事者双方の意思表示の合致であるから、本件では塗料αを当事者間の意思で契約の内容とした以上、特別な事情のない限り民法562条1項の「契約の内容に適合しないもの」に当たる。そして、少なくとも本件では、BがAに対して塗料αによる再塗装を求めるという「履行の追完の催告」をしたにも関わらず履行がないのであるから民法563条1項により代金減額請求をすることができる。
(2)今度はAの方から、塗料αによる再塗装を行う旨申し入れを行ったにもかかわらず、Bはこれを拒絶してAに対して、これに代わる再塗装に要する費用の損害賠償請求している。かかるBの請求が認められるか。      ア.思うに民法562条1項の追完請求権は権利であって義務ではないし、現に文言も「できる」と記述されている。                              しかし、権利の行使も信義に従い誠実に行わなければならないものであり(民法1条2項)、権利の濫用も許されない(民法1条3項)。また、現に民法562条1項但書にも権利であるのに、権利者だけでなく義務者のことも配慮しなければならない趣旨が現れているのである。そうであれば、これらにより義務者が追完を申し入れているのに、特別な事情もないのに一方的に拒絶してこれに代わる追完の費用を損害賠償として請求することは許されないものと解する。          本件でも何も特別な事情もないのに追完に代わる損害賠償を損害しているので、かかるBの請求は認められない。

設問2.                      (1).Fは、乙不動産について取得事項を援用することが出来るか。以下、検討する。   (2).まず、本件乙不動産はDがCから使用貸借契約に基づいて引渡しを受けたものである。そして、Dが死亡することによって、その子であるFは、本件乙不動産の対する占有を承継する(民法896条)。もっとも、相続による占有は包括承継であるから、このままでは他主占有のままであり、民法162条1項による「所有の意思」があるとは認められない。     しかし、185条により他主占有から自主占有に占有の性質が代わり、転換したと言える場合には、その時点から20年経過することによって民法162条1項により本件乙不動産の所有権を時効取得することができる。      本件では、少なくともFがEに対して登記を移すように言って、登記を移してもらった時点で「その占有者が、自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示し」ているようにも思える。             しかしながら、Eは直接占有を移したCではなく、Cから相続を受けた子であり、詳しい事情も知らなかった。おまけに、Fから乙不動産はDがCから贈与を受けたものである旨を聞いて誤信していた。かかる場合にも、「その占有者が、自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示し」たと言えるか。 ア.思うに、民法185条が占有の性質を転換させることに、同条で規定されている要件を要するとした趣旨は権利者のその占有が変わりうることを感知させて権利行使をする機会を確保させることにある。             もっとも、一方で占有させた者の相続人の知不知により占有の転換が左右されてしまうとなると時効制度の安定をあまりにも害する。そこで、占有させた者の相続人の知不知には左右されないものと解する。        イ.本件では、前述のように少なくともFがEに対して登記を移すように言って、登記を移してもらった時点で「その占有者が、自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示し」たに当たる。           (3)よって、令和9年4月1日の時点で他主占有から占有の性質が自主占有に変わり、現在令和29年4月15日なのであるから、民法162条1項によりFはEに対して本件乙不動産について取得時効を援用することができる。    以上


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