見出し画像

弁当が心配している

私は朝食を食べなくなった。
朝食は悪いもの、そう思うようになったからだ。


きっかけは上司の「朝ごはんはアメリカの陰謀だ」という話。
洋食のパンを買ってもらうために、不要な朝食というシステムを作り出し、日本にパンを広めたというのだ。

何をいきなり言い出すのかと思えば、ユーチューバーがそんなことを発信していたそうだ。
そのユーチューバーは凄いから色々勉強になると言われたが、私は適当に返事をしてその場を流した。

最初は全然信じてなかったし、朝食を抜き始めた上司は、明らかに前よりイライラするようになっていた。だから朝食ってやっぱり大事だなあと、その時はむしろ朝食愛を深めていった。

私も朝ごはんを寝坊などでやむを得ず抜いた日はとにかく元気が出ない。それだけで気分が悪いぐらいだった。
私は朝食のおかげでほとんど寝坊せずに毎日起きれているのだと思っていた。

自分にとって最も良い朝食は何なのか。

その答えを定年退職までに出すのが人生最大のテーマと思えるぐらい自分にとって朝食は大事な存在だった。

そんなある日、結局上司に進められているうちにハマり、自己啓発系のユーチューブを見ることが日常になり始めた頃。

その界隈のトップユーチューバー2人が
「朝食はいらない」
と言っているのをほぼ同時に見つけた。

おそらくこのうち1人を見て、上司は朝食をやめたのだろうと思った。
上司の陰謀論は全く響かなかったが、
その洗練された言い回しと、PREP法を巧みに使った理論的な話に私は迷わず飛びついた。

完全に常識を覆されたのである。

メリットは主に
・食費節約 
・時間短縮 
・ダイエット 

そして何よりオートファジーという若返り物質の生成を促すという点に私は惹かれた。

食費も月5000円~1万円ぐらいの節約になるし、
時間も何を食べるか考える時間も含めれば、朝の慌ただしい時間の短縮効果は大きい。

朝ごはんを抜いたほうが、太るという説もあるが、そもそも夜ご飯食べたらあとは大抵ゆっくり過ごして眠るだけだ。いったいそのカロリーはいつ消費するというのか。朝でしょ。
なのに何でまた朝でカロリーを摂取する必要があるというのか。1食多いのだ。昔の人も2食だった。朝から晩まで農作業をするような人たちがだ。どうしてこんなに便利で楽をできる現代人のほうが多く食べないといけないというのか。

そして何よりオートファジーが凄かった。
簡単にいうと自らの細胞を更新していく仕組みのことで、長時間(約10時間ぐらいから徐々に効果が上がる)食事をとらないことで活性化されていくそうだ。

睡眠時間も含んで良いので朝食をとらないことでその時間を生み出すことが一般的なやり方だ。

ざっくりもたらされる効果として
・体重減少
・疲労回復
・免疫効果UP
・肌ツヤ、シワたるみ改善
・ガン抑制
・胃腸内環境正常化
などがあるようだ。万能すぎるぜオートファジー。

私たちは何かしらを口に入れことで健康を作ろうとしているが、食べないことで生まれる健康もあるのだ。私はその逆転の発送にも魅了された。

とにかくそう思い始めたら、朝食の全てが悪に思えてきた。この興奮を伝えずにはいられなかった。

そして最初に言うとなればもちろん妻だ。

すぐにいいねと言ってくれるとは思ってなかった。
なぜなら妻も朝食愛に溢れていて、2日として同じメニューは出てこない。

さっそく朝食を抜こうと思うと言った私に不満げな妻。私は何とか説得しようと
「砂糖に加えて米や小麦粉も実は体に悪いんだって。白い粉状のものは全て麻薬なんだよ。」
と加えた。

完全にいらぬ情報の足し算だった。

私は自分が口下手で、説明も上手にできない一般人だということも忘れていた。

妻は「じゃあもう何も作らないから」とその時は完全に機嫌を損ねてしまった。

私はとにかくやってみないと気が済まない。

その思い付きのせいでしょっちゅう妻を戸惑わせている。
でも家族のためにやってくれているのならとなんだかんだで大体のことは認めてくれていた。

だから「無理はしないでね」と朝食を食べないこともすぐ受け入れてくれた。

今は1歳と2歳の、大変な時期の2人の子どもの世話もしているのに、家はいつもきれい。料理も名前も分からないような料理が時々あるくらい、バリエーションも豊富で美味しい。家事育児の辛さなど存在しないと錯覚させるような我が家の太陽だ。

おかげで私は遠慮なく自分のやりたいことに集中できる。

さっそく朝食抜きの生活を始めてみると、まず朝の時間にすごくゆとりができるように感じ、執筆活動も捗った。やはり朝食を食べることを考えなくていいということが、集中力も増やしている。

確かにその後のお昼までの時間はつらくて、最初のうちは我慢できずにお菓子などを食べてしまっていた。でも慣れてくると昼まで何も食べずとも全然苦痛じゃなくなっていった。

毎日鏡を見ては顔つきも若返っていってるような気がした。

そんな生活を初めて3か月頃、ふといつも妻が作って渡してくれるお昼の弁当を食べながら思った。

今までの弁当箱の中身は、左右に半分ごはん、半分おかずだったはず。
それがいつの間にか上におかず、下がごはんになっている。

単に米を炊きすぎたのかもしれないと思った。だが振り返ってみると、明らかに最近ごはんの量が多くなっていて、弁当の重量感も増している。

そして私はようやく気づいた。妻が朝食を食べない私を心配して米の量を増やしていると。

確かに応援してくれてはいるのだろう。でも弁当の中身からその新しい習慣を心配していることが伝わってきた。

炭水化物より、オートファジーより、何より大事なものがその弁当には入っていた。


こんなに米一粒一粒を味わったのはいつぶりだろう。

誰もいない職場の事務所で一人美味しい美味しいと、それだけを何度も何度も繰り返していた。

私はとにかくやってみないと気が済まない。

今日はスーパーで甘いデザートを買って驚かそう。
そして美味しいパンを選ぼう。
妻と私が明日の朝食べる用に。

#創作大賞2023

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?