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Mリーグ戦国時代~2022秋の陣

昨日投稿した「問い 今萩原聖人を応援しない理由はありますか?」にはじめてのサポートをいただきました。(ありがとうございました)ということもあり、昨年作成した「Mリーグ2021を時代劇風に振り返る」の続編を作成しました。よろしければ、ご覧ください。


時は令和四年神無月

陸奥藩の君主寿人公より命を受けた忍びの女朱里紗。その姿は町人に姿を変え、越後の城下町の裏道にあった。

女は気配を消し、夜の越後の裏道を城に向かっていた。狙いは侑未姫が本拠とする越後の城および城下町の偵察であった。

ひっそり静まった夜更けの町人街

人の気配は無い

気配を消して歩を進める朱里紗の前方にすっと立ちはだかる一人の男があった

「どちらへ行かれるのかな」

そう言うと、男は刀のつばに手をかけた。

男は越後藩の旗本、近藤誠一

そう。温泉に行ってばかりの昼行燈と呼ばれるこの男だが、夜は切れ者の一面を見せる


一歩後ずさるくノ一朱里紗

近藤は間合いを詰め、朱里紗を追い詰める

近藤の眼鏡が心なしか光った


時は南一の時を知らせる

近藤は刀を振りかぶる

萬子四・七の形。そして立直の形を取る。

必勝の体勢

振り下ろせばこのくノ一は切られ、越後の地に散るだけだ。

朱里紗は足に忍ばせた短剣に手を伸ばし、己の背後に忍び持つ


「あれは地獄の西の形」

遠巻きにその様子見ていた旅人の浩翔公がつぶやく


自在型の四・七の形に対して地獄の西の術は明かにくノ一に分が悪い



ニャーーーーー!!

遠くで猫が鳴いた気配があった


・・・

その時だ


近藤の剣が振り下ろされた


くノ一の上着の袖の一部が切られはらりと舞った


紙一重で近藤の剣をかわしたくノ一

そこにできた一瞬の間隙をくノ一は見逃さなかった

緩やかに弧を描く短剣はくノ一とともに近藤の背後へ


がくりと膝をつく近藤


朱里紗の短剣は旗本の左足を切りかすめた


「あの不利な状況からよく反撃に転じたものだ・・」


浩翔公がつぶやく


そしてゆっくり立ち上がる旗本


「もう容赦はせん」


近藤の剣が再びくノ一を追い詰める

右に左に近藤の剣がくノ一の脇をかすめる


町を流れる川の渕まで追いつめられたくノ一が、両の足を開いて構えなおした。

朱里紗は魔法陣を張る

その形は少し変わっている。

魔法陣には4つの文字が連続で並んでいるようにも見えた


「あれはどこかで・・」


浩翔公も記憶にないほど珍しい形だ


魔力を蓄えた朱里紗は狙いをすまし短剣を旗本に放つ


・・・

どさっ


旗本は崩れ落ちた


「四暗刻・・の術」


・・


「いや、あれは!」


くノ一が放ったのは、四連刻の術であった


「お主、何者だ?」


倒れた旗本の目がくノ一に向いた


「・・・」


にわかに人が集まりつつあったことに気付いた朱里紗は、気配をさっと消し、町人の人波の中に消えていった。


・・・


「どうした びすこ?」

城の窓から城下町を見下ろしていた侑未の飼い猫が不穏な鳴き声を出したことで、侑未姫はふと城下町に目を向けた


「姫!」


しばらくして、侑未のもとには内侍である東城の姿があった


「どうした りお」


「町でちょっとした騒ぎがあったそうで、どうやら近藤が切られたようです。その、命に別状はないようですが」


・・・

「そうか」


侑未姫はビスコを抱き上げ、城の外に目をやった


「旗本のことが心配ではないのですか?」


りおが問うた


「近藤のことは心配していない」


・・

「きっと何らかの情報を得たはずよ」


「・・わかりました。では、失礼します」


りおはその場を立ち去った。







「いや~今日も調子がいいねぇ~」

男の刀、いや、口の方も絶好調だった


播磨の町人であり侍である園田の姿がそこにあった

対峙しているのは相模国の若武者本田


本田は機会をうかがっていた

園田には昨年、何度もやられている


本田は呼吸を整えた

今本田は断么九・七対子・銅鑼銅鑼の型という一撃必殺の大技を繰り出そうとしている

だが相模国の伝統である立直の形は出さずに機会をうかがう


じりじりと間合いが詰まる両者


「そっちが来ないならこっちからいくよ~」

今年の園田はのっていた。心身ともに気合がみなぎっている


園田は辺7萬・立直の形に構えた


先制で立直の型で構えれば本田は反撃はしてこない

それが園田の第一感だ

昨年何度もこの流れで本田に圧をかけて勝利をもぎ取っていた


この戦いの中、やおら静かに目をつぶる本田


・・


そして、眼をかっと見開いた


「立直」


筒四単騎の型で本田も振りかぶった


園田が驚きの顔を見せる

本田が剣を降ろさず、向かってきたのだ


しかしながら、本田の剣は空を切り成就せず、園田も同様に不発に終わる


園田は剣を鞘に納めた


「どうやら、決着は次になりそうだな」


園田はそういうと踵を返して戦いの場を後にした。


相模国に戻った本田は頭である萩原不在の間を仕切る瀬戸熊に園田との一件を話した


「ほう、引かなかったんだな」


瀬戸熊が問う


「えぇ」

 ・・

「もう負けたくないっすからね」


本田は答えた


「そうか」


「怖いっすよ、ただ・・降りたら勝てないっすから」


朴訥な男だ


・・


「負けてもいいさ」


瀬戸熊はそう言った


「えっ?」


意外そうな表情を見せる本田


「ただ・・」


・・

・・


「倒れるときは前のめりでな」


・・・


本田は静かに頷いた







「舐めんじゃねぇ!!」

相模国の頭萩原だが、その姿はやはり戦の場にあった

やはり播磨国の浪人村上、越後国の女サムライ茅森、信濃国の仕えであり女剣士の紗佳が戦っていた。


時が南の二の刻を告げた時だ

茅森が銅鑼四の槓子の形を見せ、3人の顔が一瞬にして曇る


そして、茅森は必勝の立直の形を見せる

後ずさる播磨の村上に信濃の紗佳姫


そんな中、この男は後ろに引かずにこう言った


「舐めんじゃねぇ」


二筒を叩き切って立直の形を取ったのだ

この形が成就するのは相手の中を捉えた時だけだ


危険極まりないが、萩原は気概を見せた


簡単には引けねぇ


萩原は相模雷電国の領主として圧倒的支持を得る男

戦の場において大事なのは勝つことだが、戦ってのはそれだけじゃねぇ


だが、勝負は一瞬でついた

オンナ侍茅森は一撃で三者に大ダメージを与えた。その威力は六千に相当する一撃だった


その戦いをものかげから見ていた町娘かよがつぶやいた


天才すぎる


天才

確かに越後ではそう評判をとるオンナ侍。与えるダメージはいつも大きい。


一方、萩原は敗れた

しかし、その戦う姿を支える領民の支持はまったく揺らぐものではなかった。






「わぁ~はっはっはっ!!!!」

特大の薙刀を振り回して暴れまわるのは甲斐の風林火山国、松ヶ瀬だ。

松ヶ瀬はその豪快さとは裏腹に繊細ないくら飯を作って城内でふるまい、風林火山国の士気を高めているらしい。

特に国の軍師勝又には焼き飯の上にいくらをのせるという豪快な逸品を献上したとの話だ。


それはさておき、

対峙するのは新たに海賊団に加入した剣士鈴木優であった

松ヶ瀬が薙刀を大上段に構え立直の形を見せる中、

優が筒五を切り捨てて、すらりと剣を構えた

その姿には町の女衆もうっとりせざるを得ない



だが、これを見た松ヶ瀬は逆に火がついた


「俺は色男ってのが大嫌れぇなんだよ~!!!」


※イメージです


一時は一万八千のダメージを負ったはずの松ヶ瀬だったが、時が南の刻に入ると、一万二千・一万二千・八千と次々に相手を斬り倒していく。


松ヶ瀬勝利の時が近づく中、南の四の時を迎え、越後のオンナ剣士茅森が松ヶ瀬の隙を伺っていた


だが、松ヶ瀬はどこまでもふてぶてしかった

もう勝ち目がなくなっていた優にあえて攻撃させて、松ヶ瀬は高みの見物を決め込んだのだ


そして優の一撃が決まり戦は松ヶ瀬の勝利となった


「わぁ~はっはっはっ!!!!」

「海賊だかなんだか知らねぇがもっと強いやつを連れて来~い!!」

高笑いしながら松ヶ瀬は国へと帰っていった。


勝利の後に国で作る飯が何なのかは言うまでもないだろう





その時、播磨国の園田は追い詰められていた

神無月の下旬の戦の場にあったのは信濃国の小さな天才剣士堀、越後国の領主である侑未姫、陸奥国のくノ一朱里紗、そして播磨の園田

戦いは堀と侑未姫、朱里紗が三つ巴の戦いを繰り広げ、園田は一人で相当のダメージを受けていた。

いつもは饒舌であり商売人としての満面の笑顔を見せてくれる園田だが、その時の表情は明かに曇っていた。


時は南の四の刻を告げる

園田側は倒れる寸前。しかし、もう一度体力を回復できれば機会はやってくる。園田は何とかこの苦境を乗り切って反撃の機会を狙う。


しかし、剣を振りかぶったのは堀。萬二・五で万全の形だ。


弱り目の園田だが、この堀の攻撃を前に負傷してしまう。萬二の急所を抱えてしまった。

遠くで戦いを見ていた河野公がつぶやいた


「萬二の傷を抱えては戦えるはずがない」


もはや満足に立つことすら難しい状況だが、園田は萬の二を抱えながら意地でも形だけは取りきるつもりだ


その姿は痛々しかった

そして最後の力を振り絞る園田だがやはり体勢は立て直せない


終わった

河野公はそう思った


しかし、もう体力のない園田が自身の短剣を朱里紗に投げた


「まさか」

河野公はつぶやいた。この園田の行動を河野はこう読んだ

朱里紗がその短剣を使って一撃を加える間に、園田が体力を回復し、もう一度剣を振るつもりなのだ

見事に朱里紗はその短剣を受け取り攻撃はならずとも朱里紗も形を整えた


ないはずの園田の攻撃の機会が巡ってきた


だが、そこまでだった

園田の刀は空を切り、崩れ落ちた


敗北


その後町娘かよの話では園田が「南南」と言ったとか、言わないとか。


後日、旅の途中だった河野公は播磨に立ち寄り、民衆に園田の戦いぶりを分かりやすく伝え、民衆は大きな感銘を受けたという話だ。






てぇへんだ
てぇへんだ
てぇへんだ~


そういいながら駆け込んできたのは江戸町では侍でありながら噺家でもあった日吉であった

「どうしたんだい」

浩翔公が聞いた


「どうもこうもねぇよ。相模国の咲がとんでもねぇ立ち回りしてやがるんだよ」

浩翔公は日吉に連れられて裏長屋の一角に向かった


そこで見た光景はすっかり叩きのめされた男三人の姿であった

そして、そこに一人立っていたのは相模国の女仕事人咲


男三人を叩きのめした咲だが、その立ち姿には気品すら感じられる佇まいであった


さて


茫然とする浩翔公は倒れているうちの一人。特に一人、ボロボロにされてしまっているのが信濃国の新参者渋川であることに気がついた


噺家日吉とこの渋川には浅からぬ関係がある旧友でもあった。


当初信濃国に迎えられるのは色男の鈴木優という男剣士と噂されていたが、策士森山の判断もあり、このどことなく”のび太”っぽい(この当時からドラえもんの原作は作成されていたらしい:ウソです)渋川が迎え入れられた。

切れ味鋭い戦いをする鈴木優の噂は信濃国にも伝わっており、この渋川の招へいがどうだったのか、策士森山の判断を問う声もあったとかないとか。(ないのだが)


だが、森山には何らかの確信があった。

この男はどでかいことを成し遂げると。


この日渋川の剣の勢いは素晴らしかった

だが、その勢いがすご過ぎたからか逆に大きな傷を負ってしまった


もはや死んでいるようにすら見えた渋川だが、何とか立ち上がり信濃国一行が居を構える出先の長屋に戻った


だが、その姿はもはや歩くのもやっとというほど。それほどの記録的な大けがを負っていた

長屋の戸を渋川が開け、よろよろしながら暖簾をくぐると、そこには信濃国領主内川、天才剣士堀、紗佳姫に策士森山の姿があった


「お疲れであったな」

涼しげに内川公が声をかけた

渋川はうなだれながら静かに頷いた


策士森山の眼鏡がきらりと光ったのはその時だ

「渋川殿。もしもう一戦戦えるとすれば、戦いますか?」


それは渋川にとって完全に予想外の一言であった


渋川は

「えぇ!もう一戦行けと?」


これを聞いた紗佳姫が切れたように立ち上がった

姫らしからぬ片足を椅子の上に乗せ、そこにひじをついてタンカを切った


「行きたいのか、行きたくねぇのか、どっちなんだぃ!」


予想外の紗佳姫の一言ににわかに場が凍り付く


渋川は改めて背筋を伸ばし戦いたいことを皆に伝えた


「なら、皆に向かって!」


紗佳姫の追撃の手は緩まない


「行きたい・・です、行きたいですよそりゃ~」


渋川の返答は100%紗佳姫の満足のいくものでなかったのも確かだが、紗佳姫も了承。

長屋の奥にたたずんでいた堀も静かにそれを見守る。


最後は策士森山が渋川を送り出した


その様子を見ながら、涼しげに渋川を見送る領主内川であった


内川は思った

こういう女性をめとる男はきっと出世することだろう。と。


内川が全く関係ないことをひそかに考えている一方、紗佳姫はやおら近所の日清亭のそば屋に出前を注文し、届けられたそばを豪快にかっくらい始めた。


内川はそれを見て、静かに頷いた。


さて

ぼろぼろの状態で戦場に向かった渋川だが、策士森山の策は見事に当たり、ついにその場で渋川は覚醒することとなった


その戦いだが因縁の宿敵、海賊団の仲林の姿もあった

ぎりぎりの戦いだったが渋川は仲林を切り倒し、深夜まで続いた戦いに見事に勝利を収めた


戦いに勝利した渋川はその剣を高く宙に掲げ勝利を宣言

その姿は昨年まで信濃国に大きく貢献した陰陽師沢崎の姿を少しだけ思わせた

そして、この日は信濃国から大勢の民衆も遠征に同行しており、その民衆が集まる長屋は大いに沸いた


その勝利を静かに見届ける領主内川は静かに頷いた

2022秋の陣 完

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