ヴェルニーチェ・リキッダVernice liquidaの作り方 De Mayerne Manuscript

ヴェルニーチェ・リキッダVernice liquidaの作り方。(Ms. p. 51)
処方 ニス用の樹脂1ポンド(サンダラックすなわちジュニパー)註(1)と亜麻仁油4ポンドを火にかけます。
そして別の容器の中にオイル3オンスを徐々に入れます。常にへらで混ぜます。常に強い火を維持し、すべてが溶解するまでオイルを沸騰してみましょう。
そして、あなたはニスが十分に沸騰させた時に知りたいので、ナイフの刃ですくい、その強い粘着性がまだ少し足りなければさらに沸騰させます。火からニスを持ち上げ、布を張ったざるに注ぎます。注意:水に注ぐ

Vernice liquida e gentile. 優しいヴェルニーチェ・リキッダ。
亜麻仁油3ポンドおよび黄色琥珀1ポンドと煉瓦(クレイ)の粉6オンスを用意します。そとて、次の2つの開口部を有する蒸留炉を作り、各開口部は蛇腹にします。以下見過ごされていることを明らかにします。
非常に強力な石炭が燃え上がる炎に、穴を開けたガラス張りポットでストーブの周りに鍋に引火しないように燃やします。
火災の危険に対して私は、まな板(これは濡れた布で覆われている)を用意し、火が跳んだときそのまな板でそれに蓋をしています。
鍋はオイルを石炭の弱火で加熱し、そして見かけは容器の天井まで膨張しますが、そのうちスカムがほぼ3分の1になります。私が言ったように、最初に少しのオイルで琥珀を溶解します。註(2)あなたが沸騰したオイルにそれらを投げ、いつも悲惨なことになるなら、そうならないようにうまく投入することです。その後炉から下ろし、スパイクラベンダーを取り粉末の上ににそれらを投げ入れ、よく混合し、蓋をして休ませます。

註1) この時代はサンダラックがジュニパー(ジネプロ)と同一だったということですが、
現在商品としてのジュニパーはFrankincense,Olibanumを指すことが多いのです。ニスの原料としてはサンダラックはこの1600年代頃のサンダラックと同一です。芳香剤もデ・メイヤーンは"REGIS & REGINAE MAGNAE BRITANNIAE,TRACTATVS DE ARTHRITIDE"
で解説していますまので、それを見るとジュニパーとサンダラックは別の記述になっています。これは謎です。
註2)亜麻仁油に直接サンダラックや琥珀を入れて作ると必ず失敗します。理由は、加熱時間が長くと温度が高すぎると、十分ランニングしないまま亜麻仁油は重合して、粘度が上がり、膨張します。混ざり合わない二つの有機物を加熱するとたいていの場合膨張します。最小限のオイルで琥珀を加熱する方法は、「液相」があることで温度が伝わりやすくなるからです。

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このDe Mayerne Manuscriptは英国の学者Théodore Turquet de Mayerne(1573-1655) がメモに残した手書きのノートです。その一部をErernst Berger(1857 -1919)が訳したものを参考にしました。原文はラテン語と英語、Erernst Bergerの本はドイツ語と途中からイタリア語になります。混ざっていることもあり、とても読みにくい文です。日本ではド・マイエルンと表記しますが、英国人ですのでデ・メイヤーンとします。出身はジュネーブです。

訳と処方の重量 
処方の略号はRPです。
昔の重量単位はポンドでしたが、実際の重量は時代と地域でバラバラでした。
16世紀の文献のポンドLbはlibra pondus秤のポンドと呼ばれる単位です。
グレーンは麦一粒の重さで、1ポンドはパン一食分の重さということです。
ちなみに米一合は6600粒。
薬衡ポンドApothecaries
pound(℔) 12ounce 5760grain 373.241 g
ounce(℥) 8drachm 480grain 31.1g
drachm(ʒ) 3scruple 60grain 3.887 9g
scruple(℈) 20grain 1.296g
grain(G) 0.0648g

しかしドイツでは次の単位Pfが表記されています。
Pfund(Avoirdupois Weight)
(1 Pfund = 16 Unzen = 32 Lot = 128 Quentchen = 512 Pfenniggewichte = 1024 Hellergewichte)
Pfund=Pf
Unzen=VNC
その他1/2をSS=と表記しています。(ブログで表記できないフォントβに似た字)
古書を読む人には常識かもしれませんが、なんとも言いがたい歴史と地域の壁を感じます。2017-06-26 12:01

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Le Vray Vernix des Lutha d Violles. de Mayerne/Ernst Berger訳
Pictoria Sculptoria & quae subalternarum artium
1620 T. de Mayerne.「画家彫刻家と芸術に属するもの」
"Beitr̈age zur Entwicklungs-Geschichte der Maltechnik" 「技術の発展の歴史への貢献」
Ernst Berger(1901)
"Le Vray Vernix des Lutha d Violles"
"Der wahre Firnis fuer Lauten und Violinen"
"The true varnish for lutes and violins"
「リュートとバイオリンのための正しいニス。」
処方。できる限り黄色で赤みがかった琥珀を何も加えずに密封されたクレイポットに入れてください。それは着実に燃焼する石炭の火の上に置いて、鉄の棒でその中を攪拌してみましょう。これはロジンのように見える黒い液体状に溶けます。
溶融したものを大理石の板石の上にそれを注ぎます。
油を分解するために、それはよく沸騰させ、十分に分解された後、ガチョウや鶏の羽ペンの軸を着けてみます。純粋なガラス張りの鍋に純粋な亜麻仁油を入れます。
その油が濃密に十分分解され沸騰して上に上らなければ羽は焦げません。
ニスを作成するには(油は英語でパイントまたはパリではパイントとと言います。)
約6オンスの粉末アンバーと油を一緒に暖めるましょう。すべてが溶解するまで、円にかき混ぜます。
だからニスは長くかかることが良いとされています。かなり液体になったら濃厚な油を琥珀に追加します。このニスは、太陽の下で乾燥と硬化をします。
ほど良い均一性に製作し、同じ布を介して加熱します。
油は、鉛の一かけらで分解しました 穀物やナッツ大のリサージを少々追加しました。沸騰させ、上記のように、鳥の羽を使用してテストします。
このニスは、一日で乾きます。
油を分解します。他の亜麻仁油のような場合(違う油か)にも発生しても同じことです。
火にかけたガラス張りの器にオイルを添加し、鉛板に流し出します。そして第二の同一のトレイでそれを覆い加熱します。
蓋まで膨張しますが、15分から30分できれいに収まります。2時間して次に進んでください。その後瓶の中油を太陽にすかしてみます。それは水のように非常に透明です。他の方法は、沸騰した油に火をつけて分解しますが、それは非常に透明になりますが 、完全に乾燥しているとき厚みが大きいことに気づくでしょう。

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註)分かり難いと思います。この本は99ページからde Mayerneの"Pictoria Sculptoria & quae subalternarum artium" 「画家彫刻家と芸術に属するもの」を訳していますが、偶数ページがフランス語(原文)奇数ページがドイツ語で、同じ内容をドイツ語訳しているわけです。
亜麻仁油を鳥の羽の軸が焦げる温度に加熱して、別に溶融した琥珀を溶かして琥珀ニスとします。処方は琥珀と亜麻仁油が1:4です。酸化鉛(リサージ)を乾燥促進剤として使用してますが、光硬化性であることは明記しています。
私もこの仕事を始めた頃、ヴァイオリン制作者から、これと同じ表現の製法を聞きました。de Mayerneが出所だったわけです。しかしこの方法はFillippo BonanniやAngelo Maria Alberto GuidottiとGenaro Cantelliの方法よりかなり原始的です。1600年から1700年の間に装置が進歩したのでしょうか。それ以前のビザンチン時代の錬金術師たちは、これよりも進んだ装置alembicを開発していました。
琥珀は加熱すると焦げます。液相としてオイルを使用して効率を高めても、オイルは400℃という琥珀の融点には揮発しますので耐えません。私はかつて、シリコンオイルや不活性液体・フッ素系フロリナートの中で琥珀やコーパルをランニングしてみました。
琥珀粉の表面が空気に触れなければ、酸化し炭化する方向には行かないと思ったからです。
しかしあまりうまくはいきませんでした。シリコンオイルといえど450℃1時間の加熱では突如白い固体粉末になったり、琥珀の分解で可燃性有機物が発生したりするからです。
シェラックやマスティック、コロホニウムを溶媒として一割程度使用するというのは良いアイデアでした。これは前述の三人の著書に出てきます。
2017-06-28 20:06

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Imprimitura doratura アロエの下地塗料2
Angelo Maria Alberto Guidottiの処方からアロエの蔗糖処理の下地を試験しました。
色は金色でとても良いと思います。紫外線の照射でややオレンジ色に変化しますが、生のアロエより変化は少ないようです。
オイルニスの下地として適当かは、実際に塗布してみるしかありません。
下地のあるものとないものでは、コロホニウムオイルニス(マルチアナヴァーニッシュ系)
では効果があります。二色性と相性が良いでしょう。もう一つの系ヴェルニーチェ・リキッダのサンダラック系でも使用できます。サンダラック系の場合オイルニスの色自体が薄いので、下地の着色は頻繁に行われます。コロホニウム系の場合、下地の着色は必要ないと思っていましたが、実際に使用するしないで大きく違いがあります。
斜めの角度で見ると赤く落ち着いた色合いになります。
この還元アロエをアルコール溶液にした場合、溶解性は良くないのでこの改良をしています。他社のようにセロソルブを使う方法はあるのですが、私は制約として16-18世紀の可能な技術で作るということは守って行きます。
写真は1無塗装。2アロエ下地Imprimitura doratura。3アロエ下地にヴァイオリンヴァーニッシュ・コロホニウム ライトブラウン。4 ヴァイオリンヴァーニッシュ・コロホニウム ライトブラウンのみ。2017-07-04 09:59 

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"Das De Mayerne Maniskript" Gudrun Bischoff編より
1620 T. de Mayerne.Pictoria Sculptoria & quae subalternarum artium 
"Wahre Beschreibung des Ambra-Firnisses und des chinesischen, welche mir Jehan Haitier diktierte."Jehan Haitierが決定した琥珀ニスと「チャイニーズ」(陶器光沢)の真の説明。

オランダレーキ法と呼ばれる黒いニスがある場合は、亜麻仁油1ポンドと琥珀1/2ポンドの胡桃大きさのかけらを粉砕します。金色のニスをしたければ、琥珀は1/2ポンドの金色で滑らかなものを取り、小さな断片ではなく粉末にします。
3/4が空で少なくとも2/4の土鍋でこれをゆでます。底を撹拌することなく、穏やかな薪の火で沸騰したままにしておきます。オイルはシューという音とともに上昇する場合にのみ、液体を攪拌する理由はありません、火から鍋を取り出し、火の上に置き再びそれを再び沸騰してみましょう。註1)
金色の場合はについて十分に二回盛り上がります、その後一度か二度以上盛り上がるため、全体では4回です。
最後に沸騰した後、(でも、金色の黒ニスを作るために)火に油を燃やすとオイルと黒ニスを厚くするためにいくらかの時間かき混ぜます。ここでは、オイルが完全に消費されることに注意して慎重に仕事します。
黒ニスを作るためには、黄色い琥珀1ポンドのうち、最も赤いラッカーまたは黒ニスにするため、最も美しく最も明るい琥珀を溶融します。希望の場合揮発性の塩から油を放出するために、上記のガラスカバー(または錫を試してみてください)を使用してください。
それは水のような液体です。そう上記1ポンドの残りの部分を追加し(そのうち約3/4しか存在しません)粉末のガムラックを1/4ポンド追加し混ぜます。それが溶融して一緒に結合します。ケーキ(ランニングされた琥珀)を形成するために、濡れた大理石の上に注ぎます。
このオレンジ色の混合物とラックから1/2 ポンドを取ります。それを粉砕し、油を計量し、上記のようにしてポットに投入します、それは優しく火を沸騰させて鍋に、そのすべてが少し回しながら撹拌溶融させます。
ニスが十分に流動させることが必要であるよりも、溶融した後に少し冷まして蒸留テレピン油を半分追加します。
このニスは、少し温かい状態では、それはあなたの手を耐えることができるので、上部にセーム皮に似た膜が浮かんでいる場合、あなたはこれをかき取り除去することにより均一にできます。
後に底に塗料が分離して沈降することはありません、およそ半年後ですが、いくつかの不純物、滑らかさや琥珀の性質のために、底に沈殿ができますが、上清は非常に純粋です。
塗料を黄色にするためには、ニスと少しテレピン油を取り、小さな容器に混ぜてガンボジやアロエ・スコットリーナのいずれかを添加し、弱い火の上に置きます、それを攪拌し、すべてが溶解している場合、上記のニスを追加し、一緒によく混ぜ、革を通して見ます。
それはとてもカラフルにすることができます。アロエはガンボジよりも溶解に優れ、ガンボジように美しい黄金色を生成し、強い熱で分離します。アロエにこだわります。黒のニスを使用している場合、それはランプブラックと暗い下地の作品を製作し、大理石の上で黒ニスの少しと、テレピン油で細かく練り込む必要がありました。
黒ニスは半パイントです。テレピン油は、通常のを追加し、一緒に混合しました。黒ニス。これは、速乾性ソフトニスで塗りつぶし、その後から、ブルームを除去する作業のため乾燥させます。註)2
ほこりが傷を付けないようにして、3時間後表面形成されることになります。
砂や灰を用いたレトルトで透明なテレピン油を蒸留します。(水浴では、再び重合します)
4〜5ポンドでは、オイルの4分の1が残ります。蒸留された液体は温泉水のように透明です。ブドウの木の灰の上にそれを濾過します。そして乾燥します。これは銅の容器で蒸留します。
マスティックは、蒸留テレピン油に溶けますがサンダラックには溶解ません。これは純粋なスパイク油に溶解しますので、私は以下に提案します。スパイク油と少しテレピン油とを混ぜます。

註1)あまり膨張が激しいときは、火から下ろすという意味です。

註2)オイルニスではまれにブルーム、白華現象があり欠点とされています。ただし私はこの現象を見たことがありません。
註3)黒いニス (独)"schwarzen Firnis" 原語(仏)"Vernix noirâtre"

2017-07-07 21:40

デ・メイヤーン・マニスクリプト"De Mayerne Maniscript"処方の解説
この文章の前後にもオイルニスの処方は数多くあります。
ヴァイオリンニスの元がこの書にあるというので、大陸の制作家が必ず引き合いに出します。まず処方の琥珀/亜麻仁油=1:2の基本型は「黒いニス」と表現しています。
ランニングした琥珀を使用して見かけが黒いからだと思いますが、なるべく無色が好ましい絵画と着色してほしい楽器との差があります。必ず後で漂白の方法を探っているはずです。この章は基本的にロングニスのベースに、ガンボジまたはアロエで着色すると金色のニスが出来るという内容です。実際はガンボジで着色は、アルコールが入らないと色は付きません。アロエは着色可能です。それ故に「アロエを推薦する。」という結論です。
アロエ・スコットリーナというのはアロエの砂糖漬けのことです。蔗糖は還元剤ですので、アロエを還元すると金色になることは、この前に書きました。アロエは熱や光で茶色になります。還元や光暴露で赤みのある金色にすることができます。もっと古い時代からの技術です。デ・メイヤーンのころはレトルト・アレンビック(簡易蒸留器、主に酒造に使用)でテレピン油を精製していました。琥珀をランニングする特殊なアレンビックは知らないようです。これは少しビザンチン時代より後退しています。
戦争や民族の移動で、資料が散逸したのと、技術屋がイスラム系の人々だったので、交流が途絶えてしまった結果かもしれません。ただし、大航海時代のいろいろな新大陸の樹脂が増えて、手持ちの技術が増してきました。これがアルコールニスの普及に繋がりました。
「ケルメス」赤の謎もそうですが、元々アルメニアの産のケルメスがあまり手に入らなくて,高価な赤い染料は、代替え品としてラック色素やマダーの技術が進んできたところ、新しいケルメスが南米で発見されたわけです。この辺の話も出てくるらしいです。

De Mayerne Maniscriptは英国人の学者T.De Mayerneの手書きの一冊の本(メモ帳)で、フランス語で書かれています。(一部ラテン語やイタリア語の使用)をドイツのErnst Bergerがドイツ語とフランス語に書き写した本を出しています。今回参考にしたのは、これよりも新しい、2002年にGudrun Bischoffという著者がドイツ語でまた書き直したものです。これでだいぶ訳すのに便利になりました。2017-07-08 14:20

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