証明×証明 - サイキックの証明 -
証明25

証明×証明 - サイキックの証明 -

「あれ、君か。どうしたの? こんな時間に」
「恋人の部屋を訪ねていくのに理由がいるわけ?」
「いや、そうじゃないけど。だって、連絡もなしに来るなんて初めてじゃない」
「何事も初めてが無いと二回目もないのよ」
「それはそうだけども。まぁいいや、とにかく入んなよ、寒いだろ?」
「凍りそうだわ」
「今コーヒーでも淹れるよ。コートはそこらへんに置いといて」
「……相変わらず汚いわね。整理整頓とか、そういう単語を知らないわけ?」
「別に困らないしね」
「コートの置き場所に困るわ」
「そこまで言うか。よっと……」
「あ、濃いめにしてくれる?」
「あいよ」
「……」
「……」
「今、どうしてだろう、って思ったでしょ」
「……は?」
「あたしはアメリカンが好きなはずなのに、どうして濃くしろというのか、疑問に思ったでしょ」
「はぁ……そうだね」
「やっぱりね。そうよね……」
「うん……えっと、どうして? あ、そか。今夜は遅くまで、ってことだろ」
「にやけるな。まったく、どうしてすぐそういう方向へいくかなぁ」
「違うの?」
「はいはい残念そうな顔しなーい」
「いや、まあ。……んで、どうして? なんか悩みごとでも?」
「悩みというかね……。ちょっと頭をすっきりさせたくて」
「ふうん」
「……」
「……なんかあったの?」
「まあね。大変なことに気づいちゃって、ちょっと困ってるのよ」
「大変なこと? それで相談に来たの?」
「そうよ。だからあなたのしたいことは、もうちょっと待ってね」
「……」
「オレをそんな奴だとでも思ってるのか? と言いたげね」
「いや、べつに」
「思ってるでしょう。わかるのよ。実はね、相談って、このことなの」
「このこと?」
「そう」
「オレが飢えたオオカミだっていうこと?」
「違うわよ、まあそれも多少の問題ではあるかもしれないけど」
「じゃあなにさ」
「あのね」
「うん」
「あたしね」
「うん」
「テレパシーが使えるようになっちゃったの」
「……」
「……」
「……は?」

   ☆★☆★☆

「今、何言ってるんだコイツ、って思ってるでしょ?」
「いや、ええと」
「また馬鹿なこと言い出した、って言って溜め息つきたいでしょ?」
「いや、あのさ、ちょっと待ってよ。ごめん、もう一回言ってくれる?」
「あたし、テレパシーが、使えるように、なったの」
「はあ」
「聞こえたわね?」
「まあ」
「そういうことなのよ」
「えーと……。なんか、君のジョークには絡みづらいな」
「ジョーク?」
「そうだよ、ジョークを言う時にはさ、なんかこう、いろいろと下準備みたいなものがあるものだろ? 雰囲気を作るとかなんとか」
「ジョークじゃないわよ」
「いや、だからごめん、絡みづらいって。いきなりテレパシーとかなんとか言うんだもの」
「違うって言ってるでしょ?」
「ごめんごめん、んで、誰と交信してるの? ETとはもう接触した?」
「……」
「……なんで睨むんだよ?」
「信じてくれないから」
「いや、えっと……?」
「本気に受け取ってくれないんだもん」
「あの、いったい、なんなの? なんの話なの?」
「だから、テレパシー」
「テレパシー」
「あたしが、テレパシーを、使えるようになった、ってこと」
「うーん」
「なによ」
「いや、ここは笑うべきところなのかと」
「あたしのこの表情を見ても、まだそう言うわけ?」
「いや……えっと、マジで言ってるわけかい?」
「マジよ。本気と書いてマジと読むのよ」
「はあ……あとで、嘘ぴょーん、ひっかかったー、とか言って踊りまわる、ってんじゃなく?」
「じゃなく。あと、嘘ぴょーん、はまずいわ。化石言語よ」
「はあ。……えっと、テレパシー?」
「テレパシー」
「……なんでまた」
「昨日ね、気づいたの。人の心が読める、って」
「ほう」
「サークルの、コンパでね。こう、他の人の言うことが、わかるのよ」
「わかるっていってもな。オレも、君の言うこと、わかるぜ。いや、今はちょっと怪しいけれども」
「違うわよ、そういうわかるじゃないの。なんていうのかなあ、予期する、っていうのかなあ」
「予期する」
「そう。相手が何か言うでしょ? その言うことが、あたしにはわかるのよ」
「……」
「気味悪いかしら」
「いや、気味悪いというかなんというか。じゃ、つまり君は今オレが喋ってることが、予想できているということ?」
「うーん、まあ、そんな感じかしら」
「はあ……じゃあ、この会話も無意味なのでわ」
「なんで」
「いや、だってオレの言うことがわかるんだったら、口に出して話す必要もないってことになるだろ」
「違うの。だってそうすると、あたしの言うことが、あなたはわからなくなっちゃうもの。なんていうかな、発信する力はないの。受信はできるけれど」
「はあ」
「それにね、言うまでわからないの」
「……は?」
「つまり、あなたの言葉を聞くまで、あたしが予期してた言葉だ、ってことはわからないの」
「……ごめん、何言ってるのかわかんねえよ、勘弁してくれよ」
「だから今の言葉も、あなたが言うのを聞きながら、ああ、あたしが予期してたのと同じ言葉だ、ってはじめてわかる、ってこと。聞くまでわからないの」
「……」
「わかった?」
「いや……あの、それってテレパシーっていう?」
「厳密には違うかも。でも、言葉って人の考えから創られるものでしょ? だったら、その言葉が読めたら、考えの一端が読める、ってことじゃない? つまり、テレパシーよ」
「いや、聞くまでわからない、ってのは」
「それは能力の強さの問題よ。あたしがそこまで強い能力者じゃない、ってだけのこと」
「能力者」
「そう」
「能力者」
「そうよ」
「……あのさ」
「なに」
「君、近頃、なんか変な映画か本でも読んだ?」

   ☆★☆★☆

「……信じてくれないんだ」
「信じるもなにも、なあ。結局、なんの話なのさ。わけわかんねえよ」
「まじめに聞いてよ。信じたくないのはわかるけど」
「いや、信じたくないも何も、テレパシーだなんて、な」
「科学的じゃない、って?」
「まあ、そうかな」
「世界中に話があるじゃない。双子のテレパシーとかも研究されてる、って聞いたことがあるわ」
「オレもあるけどさ、なんも証拠がないじゃない。……なんだよ? その哀れんだような顔は」
「科学で解明できないことは何もないと思ってるのね。典型的理系タイプだものね。しょうがないわよね、ああ可哀想な人」
「いや、あの、頭かかえていやいやしないでくれる?」
「だって、あなた、頭堅いんだもの」
「堅いとか柔らかいとかの問題じゃないと思うんだけども。第一、君の言ってること、テレパシーでもなんでもないじゃないか」
「どうしてよ」
「人の言うことを聞いて、それを予期してたと気づく、って言ったよね?」
「そうよ。無意識に人の考えを読み取ってるの」
「いや……それってさ、ただの予想と違うの?」
「予想?」
「つまりさ……喋る時って、自分の発言に対する相手の発言を、無意識に考えてるじゃない? オレがおはようございます、って言えば、相手もおはようございます、って言うだろう、みたいな」
「おはー、って言うかもしれないわよ」
「いや、そうかもしれないけど。でも、予想してる発言は一つじゃなくて、おはようございます、おはー、おひさしぶりです、今日も冷えますね、ゴミの回収車はもう行ってしまいましたか? とか、そんなんを色々と、考えているんじゃない?」
「最後のはレアだと思うけど」
「よく出し忘れるんだよ」
「実家にいた方が良かったんじゃない?」
「そしたら君がこうやって泊まりにこれないだろ?」
「オオカミ」
「ひでえな。……えっと、なんだったっけ」
「ゴミ回収車」
「そうそう。だから、そんな風にたくさんの予想を持っているわけじゃない? んで、相手の発言がその中の一つと同じだったりしたら、あ、言うと思った、みたいな、そんな感じになるんじゃないの?」
「つまり?」
「つまり、だから、君のテレパシーとかいうのもそういうことなんじゃないの?」
「違うわよ」
「なんでさ」
「だって、そんな予想で当たるようなのと違うの。そんな賭けみたいのと違うのよ」
「確実にわかる?」
「絶対確実、とまでは言わないけど、結構ね」
「絶対確実には、心を読めないわけだ」
「それは能力が弱いせいなの。それかもしかしたら、読みすぎで頭がパンクしないように、無意識に自己制御してるのかもしれないわ」
「いや……」
「それに、心を読むのって、いいことばかりじゃないじゃない? あたし、本で読んだことあるわよ。えっと、なんだっけ、宮部みゆきの……」
「『龍は眠る』?」
「そうそう」
「あれは小説のお話だよ」
「実体験に基づいた話かもしれない」
「……君は宮部みゆきがサイキックだとでも言うつもりなのかい?」
「そういうわけじゃないわよ。ともかく、他人の心を読みすぎることであたしの心が傷つかないよう、自己防衛してるのよ、きっと」
「いや、あのさ……ああ、もう。疲れるなあ、なんなんだよ」
「ごめんね」
「……いや」
「あ、コーヒー沸いたみたい。あたし淹れるわね」
「……」

   ☆★☆★☆

「ミルクいれないの?」
「いれない」
「砂糖もいれないの?」
「いれない」
「苦くない?」
「めちゃ苦い」
「……」
「ああ、やっぱ駄目だ。砂糖いれよ。……スプーンとって」
「はい。……ごめんね、イライラしてるみたいね」
「いや、そんなことないけどさ」
「理系の人間は科学で割り切れないことがあるとイライラするんだって、教授が言ってたわ」
「……なんか、理系に対して凄まじい偏見がある感じだけど」
「そうかしら」
「そうだよ。大体、別にこの話は科学で割り切れないとかいう類の話じゃないぜ」
「テレパシーなのに?」
「だーかーらー。予想だって予想。誰だってする、会話の予想。言葉のキャッチボール」
「でも、そんな勘みたいなものじゃないわ」
「うーん……」
「……どうしたの?」
「……」
「……」
「あぴょーん」
「……」
「……」
「……それ、なに」
「いや、あぴょーん」
「……あの、だから、なんなの? あと、その手は何?」
「いや、オレなりに、あぴょーんな感じを表現してみました」
「……とりあえず、馬鹿みたいだから下ろして」
「はい。……今の言葉にちょっとオレ傷ついちゃいました」
「だって馬鹿みたいなんだもの」
「オレもそう思う」
「……で、なんなのよ」
「今、君さ、オレが言うことを予期できた?」
「え?」
「だから、オレが……あぴょーん、って言うのを予期できた? 予期というか、聞いた時に予期していた言葉だと思った?」
「……いいえ」
「予期できなかったんだ」
「だって、あまり突然脈絡なく言うから」
「そうだよ、脈絡なかったよ。ていうか、あぴょーん、なんて言葉が脈絡あって使われるような現場があったら拝んでみたいもんだね」
「きっと楽しいでしょうね……」
「いや、あの……。まあ、ともかく、君はわからなかったわけだ」
「何が言いたいのよ」
「いや、君がわからないのは当然なんだよ。誰も予想できる発言じゃない。てゆーか、あぴょーん、って言われて、ああそうですよね今日はあぴょーんな気分よね、とか、やっぱりあぴょーんには秋刀魚が合うわよねとか、近頃あたしあぴょーんに凝ってるの、とか返す人がいたら、怖い。そんな人いたら、オレなら逃げる。二度と会わないようにする」
「そうね」
「つまり、予想できる発言じゃないんだよ。だから普通の人は、何だコイツ? って顔をするわけさ。でも、もし君のテレパシーとやらが本当にテレパシーなんだったら、予想できるはずじゃないの? オレの言葉を聞いた瞬間に、あ、やっぱりあぴょーん、って言ったわ! とか思うんじゃないの?」
「……」
「な? 考えすぎだよ、テレパシーなんて」
「……あなた、あぴょーん、って思ってた?」
「……へ?」
「あなた、あぴょーん、って言った時、あぴょーん、って思ってたの? あぴょーんな考えに頭の中を占有されてたの?」
「いや、そんなことないけど。つうかオレ、そんな人間になりたくないし」
「そうでしょ、あなたはあぴょーん、って言いながら、あぴょーん、っていう考えは全然頭の中に無かったのよ」
「いや、そうだよ、あったらヤだよオレ。大体、あぴょーんな考えってなんだよ。やたら怪しいぜ」
「つまり、あなたがあぴょーんと言いながら心の中で考えてたことは、あたしをどうやって説得するか、テレパシーなんて間違いだと決めつけるか、ってことじゃない。だからあたしには予想できなかったのよ。あなたはあぴょーん、なんて思ってなかったんだもの」
「いや……でも、そういう単語――だかどうなのか知らないけど――使ったってことは、それを考えてたからじゃないの?」
「そういう思考があっても、きっと砂粒みたいなものよ。他の思考の方がずっと大きかったの。だからあたしは言葉を読めなかったの。だって考えてることと全然違うんだもの」
「……」
「どうしたの?」
「……頭痛くなってきた」
「バファリンいる?」
「たのむ」

   ☆★☆★☆

「……あぴょーんのことだけどさ」
「こだわるわね。気に入ったの?」
「ちょっと」
「なんか、ちょっとデートを控えたい感じね」
「それは勘弁してよ。……でさ、オレさ、あぴょーん、って言った時さ、君の次の発言がわかったんだよね」
「わかった?」
「うん。それなに? っての。聞いた時、ああ、言うと思った、って思ったぜ」
「ふうん」
「つまり、オレは君の心を読んだわけだ。テレパシーだよ。……変だろ?」
「そうかしら」
「そうだよ。こんなんだったら、誰でもサイキックになっちまう。いいかい? オレはあぴょーん、と言ったんだ。そしたら君は困る。何言ってるんだこいつ、頭狂ったんじゃないか、と思う。だよな?」
「そうよ」
「そんなあっさり肯定しないでよ」
「だってそうだもの」
「わあん。先生、こいつがオレのこといぢめるよお」
「はいはい話そらさなーい」
「まあともかく、そうとしか思いようがないわけだよ。オレの突然のあぴょーん発言に、なんだこいつ? と困惑する以外の感情変化を起こす人がいるとは思えない」
「たまにはいるかもしれないわよ」
「どんな風に思うっての?」
「ああ、なんか素敵……とか」
「あまりそういう人に好かれたくないけれども」
「あたしは違うから安心しなさい」
「そうする。ま、そんなにいない、ってことは認めるだろ? つまりオレはあぴょーん、て言うことで、相手の感情に対して縛りをかけてるわけだ」
「縛り?」
「そう。こちらの発言、態度によって相手の感情の変化をある程度制限するわけだ。つまり、心の変化だよ。だから、あぴょーん、って言って相手が困惑したのを指して、あ、オレ困惑すると予期してた、っていうのは馬鹿らしいだろ? 当然のことなんだから。そうじゃなきゃおかしい」
「うーん……そう、なのかしら」
「そうだよ。君の場合だってそうさ。自分の言葉で相手の感情や次の言葉を制限して限定しつつ、その限定した範囲内のことを予測したと言ってるんだよ。つまり君は、相手の感情ベクトルにr(cos(θ-φ)+isin(θ-φ))を掛けておきながら、(cosθ+isinθ)方向のベクトルだ、なんて当然のことを、予測した、と言ってるわけだ」
「……わけわからないこと言って煙に巻こうとしてない?」
「ちょっと」
「なんであなたは日常会話にベクトルやら複素数やら三角関数やらを持ち出すのよ」
「友達は微積分とかも使うけど」
「……積分するの?」
「うん、今までの話を積分すると……とか。使わない?」
「きっぱりと使わないわ」
「そかな。でも、そいつ東大行っちまったよ」
「なんか……世も末ね」
「まあさすがにマクロ―リン展開とかは使わなかったけど」
「……」
「どうしたの?」
「……あたしにもバファリン頂戴」
「はい」
「あなたと話す時はバファリンを常備するようにしておくわ」
「それはどうも。で、話を戻すと、そういうことさ。単に予想してるだけじゃない、コントロールしてるんだよ。だから相手の発言を読んだ、なんて思えるのさ」
「なるほどね。……コントロール、ね」
「そ。こんなん、みんな無意識のうちにやってることなんじゃねえの? 考えすぎだよ」
「つまり……」
「うん」
「人はみんな、サイキックだということね?」
「……」
「……」
「……は?」

   ☆★☆★☆

「あのー」
「なに?」
「わけわかんないんですが」
「あなたが言ったんじゃない」
「なにを」
「人は相手の思考をコントロールしてるんだって」
「はあ」
「つまり、相手の心をコントロールする能力者、ってことよね」
「能力者」
「なるほどね、それは考えなかったわ」
「能力者」
「あなたが言いたいのはこういうことでしょ? 人はみんな無意識のうちに相手の心をコントロールする能力を持つ能力者で、その結果として相手の心を読み取れるんだ、って」
「いや、なんか、オレが言いたかったことと、欠片もマッチしてないような」
「そう? でも、きっとそういうことなのよ。人はみんな無意識のうちに相手をコントロールしてるんだけど、それに違和感がないのよ。あたしはたまたまそれを意識してしまっただけなんだわ」
「いや、あのさ」
「でも、テレパシーそのものも、あるんじゃないかしら。言葉――つまり呪文を使って相手の心をコントロールしなくても」
「呪文」
「だって、呪文を使わなくても、相手の心が読めることだってあるじゃない? 話したりしなくても。それ、よく考えると、テレパシーなんじゃない?」
「いや……単に、予想……」
「あなた、今、こんな話早くやめにして、早くベッドにいきたい、って思ってるでしょ?」
「いや、思ってないよ」
「……ほんとに?」
「……うん」
「……ほんとにほんと?」
「うー。そう思う気持ちもある気がするけどさ、卑怯だよ。そういう考えもある、ってだけさ。考えなんてたくさんあるんだから、そのうちの一つを当てたってだけじゃない」
「つまり、たくさんの思考のうちから一つを読み取った、ってことね?」
「……」
「なるほどね」
「あのさ」
「なに?」
「もし君がさ、あなたは今、鯖の味噌煮が食べたいと思ってる、とか言うとするよね?」
「言わないけどね」
「そしたらオレは、鯖の味噌煮が食べたい、って思ってることになるの? オレの無数の思考の中に鯖の味噌煮があった、って、君は言うわけ? つまりさ、そんなたくさんの思考の中から一つを読み取った、って言ってテレパシーにしてたら、なんでもかんでもテレパシーになっちゃうんだぜ。おまえは眠りたがっている、おまえは阿波踊りをしたがっている、おまえはマックよりモスが好みだ。オレがどんなに目が冴えててアンチ阿波踊りで毎日百円のバーガーを食ってても、いや、無数の思考の中には、眠りたがっている因子や、反発しながらも密かに阿波踊りに心惹かれる気持ちや、実はモスのトマトに誘惑される気持ちがあるって、そういうのかい?」
「ちょっと落ち着いてよ」
「ぜーはーぜーはー」
「よくそんな意味不明な例えを瞬時に思いつくわね」
「……とにかく、これがテレパシーだっていうのかよ?」
「うーん」
「違うだろ? そう言われると、そういう気持ちもあるのかな? って思っちまうってだけのことさ。オレは別にベッドに行きたいと意識してはなかったけどさ、そう言われると、ああそういう気持ちもあるのかな、って思っちまうだけ。それでテレパシーだなんて変なんだよ。言葉で操るとかいう以前に、なんとかと思ったでしょ? って本人に確認する時、否が応でもその人にそういう感情を付与することになるだろ? それを言い当てても、そんなん心を読んだことにはならないだろ?」
「うーん。感情を付与、ね」
「……うん」
「つまり、これも、コントロールする能力だっていうこと?」
「……」
「なるほどね」
「……オレ、なんか墓穴、掘った?」
「さあ」
「……」
「だいじょぶ?」
「……もういい」

   ☆★☆★☆

「落ち着いた?」
「まあ」
「もう一杯淹れようか? 濃いやつ」
「いや、もういいよ。三杯も飲んだら、ホントに眠れなくなっちまう」
「そうね」
「……」
「ごめんね、確かに、受け入れがたい事実だとは思うの。あたしもなかなか信じられなかったし」
「いや、あの」
「でもね、そういうことなのよね。人はみんな、相手をコントロールしあってるの。そういう能力を持ってるのよね」
「はあ……なんかもういいけどさ」
「ごめんなさい。……気味悪い?」
「いや、そんなことねえけど」
「嫌わないでね?」
「いや、嫌わないよ」
「……」
「ちょっと考え直してたんだ。まあ、それはそれでいいかな、って」
「受け入れるってこと?」
「うーん。……あのさ」
「うん」
「君さ、今、オレとキスしたいと思ってるでしょ」
「へ?」
「思ってるでしょ?」
「んー? ……別に思ってないけど」
「思ってるんだよ。無限の思考の中の、どれかでね」
「コントロールするつもりかしら?」
「ああそうだよ。なんてったって、オレってサイキックだから」
「そうね」
「君のことをコントロールしまくって、心を読んだ時に、オレとキスしたい、って、読み取れるようにしてやるよ。それができるんなら、なんだっていいや」
「あら。それだったら、コントロールする必要もないわよ」
「え?」
「ほら、目、閉じて」
「……」
「……」
「あぴょーん」

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小説家。児童小説中心に活動してます。 「絶望鬼ごっこ」シリーズ(集英社みらい文庫)、「死神デッドライン」シリーズ(角川つばさ文庫)、「恐怖の帰り道」シリーズ(学研プラス)など。 noteでは雑記とか創作論とかプロットとかをちょろちょろと書いてます。