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『AI崩壊/浜口倫太郎(講談社)』を読んで(2020年11月3日)

皆様、こんにちは。森貴史です。
いつも「スキ」をくれたり、コメントをして頂ける皆様、本当にありがとうございます。

本日は、今年の初めに映画を観ました『AI崩壊』(入江悠監督)のノベライズ本のレビューをさせて頂きます!

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2020年1月に公開された日本の映画「AI崩壊」(入江悠監督)の小説版として、書き下ろされた作品。作者は放送作家としても活躍されている浜口倫太郎先生です。

浜口先生は、2017年にも同じく入江監督の作品「22年目の告白ー私が殺人犯です」のノベライズ版も担当しているということで、タッグはこれが二回目ということになりますね(おそらく)。

今作は映画公開に先駆けて発表されたそうですが、僕が今作の存在を知ったのは映画を観て数ヶ月たった後。そのため、ストーリーも結末もおおむね知っていましたが「本編のあのシーンやあの背景、あのセットはどう文章で表現するんだろう?」と何となく疑問に思ったので、読むことにしました。

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舞台は2030年の日本、医療人工知能(AI)「のぞみ」に社会が管理された社会。「のぞみ」の開発者・桐生浩介が日本で帰国したその
日、突如暴走を始めた「のぞみ」は命の選別を始める。警察は桐生をAIを暴走させたテロリストとして追跡する。
桐生は追っ手から逃れながら、AIの暴走を止めるため、そして真犯人を見つけるために奔走するーーというお話です。

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映像作品を小説化する、
すなわち『脚本の小説化』ということ。
そのためか、全てではないですが簡潔化された文章表現・背景描写、無駄の無いテンポの話運びとなる場面が多く、
「じっくりと物語を読み楽しみたい」という人にはオススメ出来ないかもしれません。
逆に言えば、〝普段本を読まない人ほど、映像作品を観た後で読むとスムーズにページを読み進めることが出来る〟……かもしれませんね。

基本的には映画版を準拠した内容であるため、本編を見てしまっている自分はストーリー的な驚きはありませんでした。
しかし、そこはさすがプロの小説家。
僕のようなひねくれた読者にも楽しめるある仕掛けがありました。

それは『〝主人公〟の変更』。
もっと言うと、『〝視点〟の変更』である。

本編で準主役の西村悟と、脇役の扱いであった富永英人の二人に焦点が当てられており、本編では描かれていなかったキャラクターのバックヤードや心情も大幅に追加されていました。
ですので、オリジナルの映画版とは少し違う内容ーー富永英人に至っては話のキーパーソンとなる役回りを与えられているため、食わせ者なキャラだった映画版とは全然違う印象を持ちましたね。

また、今作のようなパニックアクション系の映像作品はどうにも派手な画が視覚的に目立つので、本編中に語った名セリフや教訓めいた発言といったものが、あまり印象に残らないと思います。しかし今作は文章ですので、「AI」と「人間」の関わり方について、
心にストンと響く一言が多く載せられていました。

個人的にはP.280に書かれている、
「正義こそが天使にも悪魔にもなるのだ」
の一文が好きでしたね。どういう流れで、誰が発したのかは是非ご自身の目で確かめて頂きたいです。

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一つ残念な点があるとしたら、今作のようなSF物にありがちな「ハッカーが万能過ぎて何でも出来ちゃう」こと。
物語に登場する〝ハッカー〟キャラは、コンピューター関連のことは何でも出来てしまいます。暗号やセキュリティーを破ったり、免許証を偽造したり……さらに頭の回転も早いのか、常に先のことを考えた行動をするのです。
今作に登場するハッカーキャラもしかり。
ですが、映画本編では全くそのようなそぶりは見せていなかったので、後付けされた、もしくは演出されなかった〝キャラクター〟なのでしょうか。
そのため、少し戸惑ってしまいまして……

まぁ、主人公の桐生自体が天才科学者としてそれ以上の神業を披露してるのですが……。

だから、良い意味でも「あぁこれはフィクションなんだなぁ」と腑に落ちた気がしました。

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ということで、難しい表現や文体は今作には無いので、普段本を読まない人は映画本編を観てから。
単純に小説を楽しみたい人は「SF脳」にしてから読むのがオススメです。

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