契約書レビューにおけるコメントの仕方



1 はじめに

 契約書レビューにおいては、修正意図の説明や相手方への意向確認等の目的で、契約の相手方に向けたコメントを付すのが一般的なお作法です。
 もっとも、コメントの付け方については、いくつかの方法があり、X(Twitter)上でも度々話題になります。
 そこで、本稿では、コメントの付け方について、その方法を紹介したうえで、それぞれのメリット、デメリットをまとめます[1]。
 なお、契約書レビューにおけるコメントには、相手方向けコメントのほかに、事業部門(クライアント)向けコメント、上司(パートナーや先輩弁護士)向けコメント等が存在しますが、本稿では、契約の相手方向けコメントに限定して解説します。

2 コメントの仕方の種類

 相手方向けコメントの仕方は、大きく分けて以下の3種類です。

⑴     Wordのコメント機能を使う

 Wordの「校閲」タブにある「コメント」機能を使ってコメントをするやり方です。

⑵     契約書本文中に【】を挿入する

 契約書本文中に【】を挿入し、【】内にコメントをするやり方です。
 【】ではなく、[]を使用する場合もあるようです(【】よりも入力しやすいこと、特にUSキーボードでの変換が面倒であること、【】を用いると海外のWordで文字化けするリスクがあること等が理由のようです。)。
 通常は、誰がいつ行ったコメントかがわかるように、「蛍光ペン」機能や「塗りつぶし」機能を使ってハイライトを入れます。コメントの往復が増えてくると、必然的に使用する文字色も多くなります。プリントアウトしたときに文字が読めないこととならないよう、配色を調整しましょう(「塗りつぶし」機能では、自分で色を調整することが可能です。)。

⑶     脚注を使う

 Wordの「校閲」タブにある「脚注」機能を使ってコメントするやり方です。
 日本語の契約書ではあまりみかけないため、本稿では簡単な紹介に留めます。

3 メリット・デメリット 

 それぞれの主なメリット・デメリットを挙げます。

⑴     コメント機能のメリット・デメリット

・メリット[2]

①     コメントの一括削除ができる(「校閲」→「コメント」欄の「削除」→「ドキュメント内のコメントを全て削除」)

②     コメントの消し忘れが生じにくい

③     契約書に慣れていない人にも見やすいと思われる

④     コメント機能を使い慣れている人が多く馴染みがある

・デメリット

①     コメントに「変更履歴」が残らない(新しくコメントされたものを探すのが面倒、「比較」機能を使ってもコメントは比較されずコメントの見落としリスクがある) 

②     コメントが増える、または長くなると、コメントが潰れてしまい(プリントアウトすると末尾にまとめられてしまい)、コメントを一覧することができなくなる

③     コメントが増えてくるとファイルが重くなる(ファイル破損リスクもある)

④     契約書本文につけたハイライトがコメントで見えなくなってしまう

⑵     【】のメリット・デメリット

・メリット

①     「変更履歴」が残る(「比較」機能を使って新しいコメントの見落としを防止できる)

②     コメントが増えたり長くなったりしても、コメントの一覧性を確保できる

③     コメントが増えてもファイルが重くならない

④     契約書本文につけたハイライトを隠してしまうことがない

・デメリット

①     コメントを消し忘れるリスクがある[3]

②     契約書に慣れていない人にはかえって見づらいと思われる

⑶     脚注のメリット・デメリット

・メリット

 「⑵ 【】のメリット」と概ね共通します。

・デメリット

①     本文とコメントの記載箇所が離れることから、コメントを確認するために画面を上下する必要がある(場合によっては脚注が次ページにいってしまうこともある)

②     (特にコメントが多い場合に、)どの部分に対するコメントなのか一見してわかりづらい

③     (脚注のフォントサイズが小さく設定されている場合が多く、)単純に見づらい

4 実務上の取扱い

⑴     契約類型による違い

  私の理解では、ファイナンスやM&A等のディール系においては、通常ほとんどの場合で、【】が用いられている理解です。これらの契約書は、関係者が多く(それがゆえにコメント数も増えやすい)、また、契約書が何度も往復することが想定されることから、コメント機能のデメリットで挙げた事項が顕在化しやすく、そのため、【】を用いているものと考えられます。加えて、関係者のリテラシーも高い場合が多いため、「② 契約書に慣れていない人にはかえって見づらいと思われる」というデメリットも妥当しません。
 これに対し、日常取引に関する契約書の場合には、コメント機能を用いている場合、【】を用いている場合のどちらもみかけることがあります。

⑵     レビュワーによる違い

 普段取り扱うことの多い契約類型の違いから来るものと思いますが、法律事務所がレビューする場合には【】が、企業がレビューする場合にはコメント機能が用いられている場合が比較的多い印象です。

5 私見

  コメントの仕方については、いずれかのやり方が絶対的な正解というものでもないと思います。むしろ、それぞれにメリット・デメリットがある以上、これらを場面に応じて使い分けるのがベストな選択ではないかと考えます。
 まず、ファイナンス、M&Aにおける契約書レビューにおいては、特段事情がない場合には、【】を用いるのが無難でしょう。
 また、これら以外の類型の契約書であっても、関係者が多い場合、内容が複雑で何度も往復することが想定される場合には【】を使った方がベターであると思います。関係者のリテラシーが高い場合には特にそう言えるでしょう。
 上記以外の場合には、クライアントの好み、上司の好み、相手方の好みに合わせることでよいと思います。たとえば、クライアントが、コメント機能を使うことが多い場合であれば、特段の理由のない限り、コメント機能を使う方がベターであると思います。

6 おわりに

 最後に契約書レビューに関する自著を宣伝させてください。



[1] 本稿執筆にあたっては、X(Twitter)での投稿を参考にさせていただきました。

[2] ここに挙げた以外にも、一つの契約条項に対してコメントが複数ある場合にも(コメントを複数付けられるので)見やすいといったご指摘もありました。

[3] 「【」や「】」を「検索」することによって消し忘れリスクは回避できると考えます。

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