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タンザナイト

宝飾品として今まで扱ってきたものは内包物をほぼ全く含まない、そして青紫のそれはとても魅惑的で純粋に透明感を醸し出す素晴らしい宝石で、つい職人としては硬度も硬いものと錯覚し超音波洗浄器で割れてしまう。なんとも悩ましい宝石でもあります。原石を見ると解るのですが通常はエメラルドぐらい内包物の多い鉱物なのでルーペ・クリーン(10倍のルーペで見た時に内部が無欠陥・無欠点)の綺麗で色の良い上質なものが日本にこれだけ多い理由を経緯として感じる出来事が二つあります。
一つ目は、1967年に東アフリカのタンザニア[アルーシャ地区メレラニ鉱山]でルビーを探していたマニュエル・ト・スーザーが初めて発見したとされていて現在の有名な宝石の中でも比較的新しく、そして同じ時期に高度経済成長期(
1954年12月から1973年)を迎えていた日本への輸入量が多かったこと。
二つ目は、日本でも有名なあのニューヨークの宝石商であるティファニー社がこの素晴らしい宝石の魅力を逃さずブランディング、売れると確信し大々的な販売促進キャンペーンを展開してこの宝石名称『タンザナイト』は一気に世界中へ認知されて爆発的人気を得たこと。
という条件が重なったのだと思われます。
名称も宝石学では「ブルーゾイサイト」となりますが、「スイサイド(自殺)」を連想させてしまう為にティファニー社がこの石に新たな名前をつけようと産地であるタンザニアへ想いを馳せて、北東部にある山のキリマンジャロを背景に見える夕暮れから夜への空の色と連想付けて「タンザナイト」という素敵な名前をつけたと言われています。
このようにジュエリーは特にブランディングという発想も重要視されている業界で、企画力はデザインをするように多彩な感度が必要ですし、身に着けたくなるようなプロモーションも職人のように『如何に宝石を綺麗に魅せるか』という努力を日々していく事が大きな鍵になっているのだと実感できる歴史の一幕になった宝石とも言えます。

そんなタンザナイトの魅惑的な輝きには「多色性」という特徴がキーワードでもあります。この多色性という特徴によって見る角度で青色~紫色が強くなる宝石となり、それと共に青味・紫味・赤味といった色合いを表すこともあります。ただこれはアレキサンドライトやガーネットなどに見られる[変色性]ほどはっきりではないので分類分けされています。
自然光の下では日本画に見られるような美しい群青色、夜のネオンや白熱灯の下では誉れ高き紫色、蛍光灯の下では爽快なほど地中海を感じるような青色へと変貌を遂げる正真正銘の身に着けたくなる宝石です。
当初はブルーサファイアに近似している多色性が少ない青味が強いものが高い評価だったこともあったそうですが、現在ではこのブランディングによって多色性の強いものが高い評価を得ているとのことです。

希少性もダイヤモンドより鉱山が限定されている事から1000倍希少だとも言われるのですが、現在そのタンザニア付近以外で採掘されたブルーゾイサイトにもタンザナイトと呼称していることがあるのでどこまで希少かは実のところ解らないのが現状で、これが適切かどうかはまた世界の宝石事情そのままに是か非か問えない状況でもあります。

少し個人的な興味で「ゾイサイト」という鉱物はとても多様な表情を持っていて、バナジウムを含んで青色に変色した灰簾石(かいれんせき)の変種が「ブルーゾイサイト(タンザナイト)」と呼ばれているのですが、同じゾイサイトの仲間で「ルビーインゾイサイト」というルビーを含んだ緑のゾイサイトがありまして、それが全く別物のような見た目で、ゾイサイトは【灰簾石(かいれんせき)】として緑簾石グループであるのと混ざり合ったようにルビー(コランダム)の【鋼玉(こうぎょく)】の原石の色合いがあるという、不透明でありながらそのシンクロしたような表情もまた宝石として魅了してくれる鉱物です。

自然にしか成し得ない神秘的な宝石達に導かれるようにジュエラーをさせて頂けているような、そんな気持ちになります。

【産出国】
主要産地国 タンザニア・オーストラリア・ドイツ・イタリア・メキシコ・スコットランド・スイス・アメリカなど

【鉱物組成】
Ca2Al3(SiO4)3(OH)

硬度 :6~7
比重 :3.10-3.45
結晶系:斜方晶系

【タンザナイトのお手入れ】

【宝石言葉】

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