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(26)少しずつ少しずつ

 前回の更新から1ヶ月以上が過ぎてしまいましたが、深刻なコロナ禍の中も全く生活を変えることなくケンとリュウは過ごしています。それでも、ケンの黒かった前歯が綺麗になり表情も心なしか明るくなってきました。

  
 先日、電気メーターの工事があって20分ほど電気が止まったんですが、クーラーの切れた部屋からメイが出てきて

「お昼ごはん、まだ食べていなかった。」

 と、ゴソゴソし始めました。

「ケンたちのいる母屋は電気が通っているから、あちらで食べたら?」

 と伝えたら、電子レンジでチンできそうな食べ物をいくつか持って出て行きました。
 その30分後に戻ってきたメイが

「3年ぶりにあちらのテーブルで食事をしたら、黒歴史が蘇ってきてなんか変な汗がでた。」

 と言いました。
 
 前々回の記事でも書きましたがメイは時々両親の代わりにケンやリュウのいる母屋に様子を見に行ってくれます。それは全く言葉の通じない者同士を繋ぐ通訳みたいな時もあります。なので、ケンやリュウのいる母屋に行くことに彼女は全く抵抗はないのですが、「食事」という日常的な行為をしたとたん当時我が家で起きていた壮絶な日常が蘇ってきたようです。中学、高校と多感な時期に過ごした弟たちとの葛藤、姉としての緊張した日々を「テーブルについてご飯を食べる」という行為でありありと思い出したのかもしれません。
 
 「わかった!嫌なことを忘れるには、引っ越すのが一番なんだ。」

 とメイは笑った。3年前に母屋と離れの別居生活が始まってから、メイは今住んでいる離れの玄関からでかけて離れの玄関から帰ってくる。食事も入浴もトイレも自室も全部こちらなので彼女の中では離れに<引っ越した>ことになっているようだ。

「逆にずっとあの母屋に住んでいるケンとリュウは、一生苦しみから脱出できないんじゃないか。」

 とメイにアドバイスされた(汗)
 
 アドバイスと言えば、前回の記事のコメントで強迫性障害に関する書籍を紹介していただきました。

 書籍レビューも高評価だったのでさっそく購入しました。まずは私が読んでみたのですが強迫性障害で苦しんでいる人には失礼かもしれませんが、そのメカニズムにちょっと笑ってしまいました。もしかしたらケンも笑うかも、笑ってこんなばかばかしいことに自分は苦しんできたんだと思うかもしれないと思いました。

 しかし、「読んでごらん」と言っても「後で読むからそこに置いといて」と言われてそのままになるパターンがほとんどなので

「ケン、ちょっと今いい?」

 とお伺いをしてから本のタイトルを見せて

「今から10分だけお母さんが面白いところを朗読するから聞いてて。」

 と伝えた。ケンは著者の名前を見て

「この人、知ってる。ネットで調べたことある。」

 と遮られた。

「そうなの?お母さんは初めて知ったけど解説が面白くて笑ちゃったよ。いい?10分だけ一緒に読もう。」
 

 と半分強引に読み始めた。途中ケンに止められることなく30分くらい読み聞かせは続き、読んでいる私の方が疲れてしまった(のどからからw)

「わかりやすくて面白かったよね、私もケンの病気のことがすごく理解できたような気がする。ここに置いとくから続きは自分で読んでね。」

  としたが、その後しおりが移動することはなかった。もちろん強迫性障害を克服したい当人には地獄のような苦しみがあり、それは酒やタバコ、薬などの依存症の人が離脱症状でのたうち回る感じに似ているようだった。ケンもこの先、1度は死ぬほどの苦しみを味わうことになるのかもしれない。
 その後、ケンに

「あの本は、あまり役に立たなかった?」

 と聞いたら

「お母さんにはわからないかもしれないけど、あの本のおかげで小さな強迫行為は意識して我慢するようになった。特に歯医者の通院に対しては気の持ちようが少し変わってきている。薬のおかげもあるかもしれないけど、本のおかげもある。」

 と話してくれた。教えてくれためしゅもさん、私泣きそうです。本当にありがとうございました!
 
 そして、もうひとつ別の方から教えていただいたユーチューブがあるんですが

 「発達障害の特性とその向き合い方」をお話しされていますがなかでも衝撃的だったのは、一般的な子育ての最終目標は「子の自立」ですが、発達障害の子は「自立ができません」というくだりでした。発達障害の子は自立ができないので、誰かに依存する。依存しないと生きていけない。親はその子にたくさんの依存先を見つけてあげてください、というものでした。

 本当に子育ての逆をつかれて「ああ、それでもいいんだ。」と、私はその言葉に救われました。親以外にも依存できるところ「療育施設」や「サポートセンター」「病院」「職場」「兄弟」「友人」「恋人」などなど。1人ではできないけれど代行してもらったり手伝ってもらったらできることがいっぱいあることは確か。そのことを自分たちも理解し、少しずつでも自分の進む道幅を広げていってもらいたいと思いました。


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