服作り業界のオカンとオトンへの手紙
日本の服作り業界を作ってきてくれたオカンとオトン達へ
前略、今まで日本の服作りを作り上げ今日に至るまで支えてくださり誠にありがとうございます。
数十年前の日本では"もの"がまだ不足し、ファッションやカルチャーにより多様化がまさに始まろうとしておりました。その時皆様は日本の服作りの礎となる仕組みを作り、洋服を作る技術をいち早く取り込み日本の技術として根付かせ国の一大産業として作り上げました。
現在のように仕組みや概念もインターネットもない時代にこの仕組みを作り上げるご苦労は本当に、本当に想像できないくらい大変だったろうと思います。
皆様のおかげで、日本のファッション文化は花開き、数多くのアパレルブランドが世界へと旅立ち、若者の自己表現により多くのカルチャーが発展しました。
また産業としても私の母、一族も含め服作りにより何とか生きてくることができました。
2000年ごろには国内の家庭でのミシンの保有率は50%あり、多くの家庭でミシンを使って物を作る文化が残っており、ミシンによって生計を立てていた人々は数え切れないほどいたと思います。
この業界を作り上げてこられた業界のオカン、オトン、オジイ、オバア達には感謝してもしきれません。
本当にありがとうございます。
しかし、現在私は非常に悔しい想いでいっぱいです。
時代は目まぐるしく変化し、
作れば売れる時代からものが溢れものが売れない時代へ変化していきました。
"作る"ということに人生を賭けてこられた皆様はこの変化する時代についていくにはあまりにも変化が早すぎたと思います。
レナウンの倒産は非常に象徴的で"いいもの"が売れる時代ではなくなっていき、マーケティング、ブランディングやらUXを高めるなど一見洋服とは関係ないような言葉が業界に広がり、まるで皆様が作り上げてこられた業界とは違うものになってしまいました。
そしてそれに伴い皆様が作ってこられた功績がまるでなかったかのように切り捨てられ、老害と言われ、業界の癌のように扱われただただ衰退する日本の工場を見ていてとても胸が痛みます。
私が合同会社ヴァレイを立ち上げた5年前、日本の縫製工場をずっと回っておりました。
そこで出会った多くの工場の皆様はご高齢で、たくさんの素晴らしい経験をお持ちでした。設備も素晴らしくまだまだ作れるものは多く私には宝の山に見えました。
しかしそれがただ例えばホームページがないからとか、頑固だからとか、そういった理由により衰退し、閉鎖していく様をみてこれは何とかしなければいけないと思い現在のMY HOME ATELIERというサービスを起こしました。
私は非常に悔しい想いでいっぱいです。
今、もし皆様がただでさえ厳しい業界において、コロナ禍で廃業を決意されたり倒産、解散などをされ業界を離れることになり、そのまま復帰されることなく寿命を終えられる時どんな思いを持ってその生涯を終えられるのかと想像します。
そして現在の日本、世界の状況を見て安心して「私たち、俺たちのおかげでいい世界になったな」と思いながら目を閉じる方がどれほどいるのだろうか、そんな世界が目の前に広がっているだろうか?そう思います。
この業界を作ってきていただいたおかげで、私たちは今自由に服を着ることができます。もののない時代に、なんとか服を作ろうと考え実行し、失敗し、成功し、挑戦し続けていただいたおかげで今の私たちの生活があります。
そんな御恩ある皆様が安心して目を閉じることができないことが非常に悔しく、力不足を感じております。
変化しなければ衰退する。
確かに自然の摂理として変化をしないと衰退していくでしょう。
私が生まれた時から見ていた縫製工場は今もそのまま、縫製工場です。
FAXを使って、電卓を使って、そして人が手を動かして服を作っています。
この変化の時代に、何と変化のない業界だろうかと感じています。
しかし、私は若者として、皆様が作り上げた業界で皆様が作り上げた文化や仕組みなど無形の資産を活用し生きている者としてとても皆様に「変化をしていないから淘汰されるべきだ」と言うことがどうしてもできません。
私は弱い人間ですので、自分の利益や家族の利益、自分の夢もあります。
だから人生を賭けて皆様にただ恩返しがしたいと言うことはできません。
でも、そうであっても皆様への御恩は忘れることができず、皆様が最後に目を閉じる時「私ら、俺らが作ってきたものがちゃんと繋がったな」と安心していただける業界にすることが、唯一私にできる恩返しであり私の使命だと思っております。
決意
私たちは2017年に「日本の縫製業を次世代につなぐ」というビジョンを掲げました。
その想いの源泉はこの業界を作り上げてくれた業界のオカン、オトン達への感謝です。皆様が私たちにこの素晴らしい業界を残してくれたように私たちもしっかりと将来世代の人たちにこの業界を残していかねばならないと考えております。
私たちは3つの事業の柱を持っています。
一つは皆様のように業界を作ってくれた方々が最後の最後まで働いていただけるように少しでも作ったMY HOME ATELIERという仕組みです。
この仕組みを使って皆様の技術を最後の最後まで発揮していただき、挑戦する若いデザイナー、メーカーの洋服を作っていただき、生涯現役を貫いてもらいたいと思っております。
二つ目は変化する時代の中でしっかりと価値を見出せる消費者を育む事業です"生産者はどこかで消費者になる"その想いを胸にアパレルブランドの運営を通じて消費行動を変えることで回り回って自分の生活をよくしていくことを目標にしております。
そして三つ目が子供達にミシンを教える事業です。
世界は誰かが作ったものに溢れています。
皆様が作ってこられた服、警察官が作っている安心、芸人さんによって作られる笑い。
そして子供達もいつか"何かを作る誰か"になります。
この事業は子供達が"作る"ということ、そして使うということを通して将来自分が何を誰のために作るのかを考えてもらう機会を作りたいと思っております。
この事業は地道な活動ですが、この活動を全世界に広げていこうと考えております。
そうすることで皆様が「もうこの業界は大丈夫だ」と安心していただけるのではないかと考えております。
私にできることは多くありませんが、できることを最大最速で実行し、
自分が死ぬ時に皆様のお顔を改めて思い出し、皆様に恥じない生涯を終えられたかを問おうと思っております。
以上、上記のように僕は器用に見えまして非常に不器用で、忘れてしまえばいいような気持ちをいつまでも持っております。
時にはこの想いがビジネスの邪魔をすることもありますが、強い支えになっております。
それもこれもやはり皆様のおかげなのだと感謝し、本日以降も精進して参ります。
今後とも温かい目で応援していただけますと幸いです。
草々
合同会社ヴァレイ
代表 谷 英希
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