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自分を取り戻すための日記 32

2022.6.24 心臓

四半世紀前、初めて行ったロンドンでとても不思議な夢を見た。

初めてのヨーロッパ、初めてのイギリス。
秋の終わり、枯葉舞う舗道、赤く染まる大きな公園、ヨーロッパが一番美しい季節。

格式と伝統はあるけれど古くて厳めしい居心地の悪いホテル。
黄色い東洋人はお決まりのコースで、一番日当たりの悪い奥の暗い部屋に通される。

底冷えのする埃くさい部屋。
間接照明しかない部屋は昼間でも薄暗い。
急に寒くなって来たヨーロッパの秋は、予想以上に暗くて寒かった。

そんな部屋で過ごした最初の夜に、私は夢を見た。
いまでもはっきりとその感触と感覚を覚えている。
不可思議な夢。

部屋の真ん中、何もないうす暗い空間の中、心臓が宙に浮かんでいる。
それは一見肉の塊に見えるが、近くで見るとリアルに熱い熱を放ちドクドクと脈打っていた。
赤い肉の中に流れる青い血管もはっきりと見え、
その瑞々しさとリアルな鼓動が、まさに「生命」そのものだった。
確かに心臓は動いていた。生きていた。
確かに熱く脈打っていた。
触らなくても解る、その熱さとずっしりとした重さ。

それは怖くもなく恐ろしさもなく、ただずっしりとした重みを感じて、そこにあった。

目が覚めた後も夢と現実の狭間でしばらくたゆたっていた。
金縛りにあった直後のようにすぐに動けない。
心臓の重みが私の身体にのしかかる。

宙に浮かぶ心臓がとてもリアルで、目覚めてからメモ帳に絵を描いた。
旅の記録をメモしていた小さなメモ帳に。

「これはメッセージだ」と直観でわかった。
場所の磁力がその説得力を増幅した。
いかにも何かが出そうなロンドンの古いホテル。

目覚めてしばらくしても、そのリアルな心臓の画像と放出される熱さを忘れられず、確かに聞こえる心臓の鼓動に耳を澄ませた。
あれは私の心臓だ。
あの鼓動は私の鼓動だ。
そう思った。

私の心臓は生きていた。
瑞々しく熱く、そこにあった。

あの心臓は一体どこに行ってしまったのだろう。

何年もそのリアルな存在感を感じていたけれど、いつのまにか忘れていた。
あのメモ帳に描いた絵も失くしてしまった。

あの心臓はいつ、どこに消えたのだろう。
いつから私は心臓を失くしてしまったのだろう。

空っぽな私の中にあの心臓が宿るとき、私は再び生き返るのだろうか。

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