見出し画像

お金がないのにお花屋さんから 花をもらった話。

お金がないのにお花屋さんから花をもらってしまった。

仕事でズタボロだった生活がようやく少し落ち着き、ぐちゃぐちゃだった部屋を片付け「な、なにか生活に華がほしい…」と思って言葉そのままに花を買いに行った。まだ引っ越して間もないけど、以前近くを探索した時に1束350円で花が買える良心的な価格のお花屋さんがあるのを見つけていたのだ。

実際に花屋に行くとそれはそれは色とりどりの花があった。ずっとコンクリート打ちっぱなしの灰色の部屋で、1人パソコンとにらめっこしていたので、世界はこんなに色が溢れているのかと純粋にびっくりしてしまった。

うんうん言いながら選んだお花を会計に持って言ったらお金がなかった。電子マネーばかり使っているので現金がないのだ。そういうことが多々あるので財布、iPhoneケース、カードケースに折りたたんだ千円札をいつも忍び込ませているのだが、それすらない。

せっかくお花を買いに来たのに。ポンコツを発揮してしまった。慌てふためきながら謝り続けるサザエさん状態の私に、会計をしてくれた年配の女性が笑いながら、咲きすぎてしまったからとアレンジメントしたお花をくれた。

こっちはお金をもっていないのに、お花屋さんでお花をもらってしまった。物を手に入れるためには、必ずお金と等価交換するものだと思いこんでいたので、お金を払わずにほしいものが手にはいってしまったことにとっても驚いてしまった。

アレンジメントしたお花は2種類あり、どちらがいいか選ばせてくれた。赤がメインのものと、黄色やピンクもはいっているもの。複数色があるほうが嬉しいなと思い後者を選んだ。

このあと予定があったため家に財布を取りに行くこともできず、「明日お金を持ってまた来ます!」と伝えてお花屋さんを後にした。

思いがけないところで人に優しくしてもらえると、嬉しいという感情より驚きが先に出てきてしまう。歩きながらじわじわ嬉しさが広がってくる。お金がないのにお花屋さんから花をもらってしまった!こんなことがあるのだろうか。

引っ越してきて2ヶ月目。仕事がバタついていたこともあるし、自粛期間も重なってうまく飲みにも行けず、この街でまだ知り合いはいない。そんな中、はじめて優しくしてもらった。

予定をすませて、夜おうちでお花を器に移し替えた。殺伐としていた部屋に色が増えて純粋に嬉しい。いつもパソコンを開く机の、エアコンが当たりづらい場所に置いて寝る。いつもより幸せな気分で眠りにつけた。

次の日、現金を握りしめてお花屋さんに向かった。前日対応してくれた年配の女性が「来てくれたのね!」と笑いながら花の紹介をしてくれる。昨日買おうと思っていた花と、もうひとつ何にしようか迷っていたら「迷った時は季節じゃなきゃ買えない花がいいわ、今なら桜とカーラーとチューリップ!」とお花屋さんならではの、花を選ぶコツを教えてくれた。

お花屋さんなんて定期的に行くことのない私は、どのお花が通年で手に入って、どのお花が季節限定なのかも分からなかった。なんて素敵な選び方だ!と思って、もともと買おうと思っていたミモザに季節ものだというカーラーを手にとった。

「カーラーの花言葉は、清浄と華麗なる美しさよ、かわいいあなたにぴったりね!」花を選んだだけでこんなに褒めてもらえることがいまだかつてあっただろうか。花言葉も教えてもらいながら、お金を渡して、束にしてくれた花を見ると、バラやカーネーション、ゆりまで入っている。

びっくりして尋ねると「おまけおまけ!また買いに来てね!」と笑ってくれる。買った花の2倍の量の花束になってしまった。

思ったより多めの花に囲まれて、いまうちは花瓶が足りない。そこまで広くもない1Kの灰色の部屋の至るところに花がある。その花を見る度に、あの女性の屈託のない笑顔を思い出す。お花と一緒に優しさももらってしまったみたいだ。

多分私は生まれてはじめてこれから花屋に通う。花を買いに、というよりもらった優しさを返しに、そしてまた優しさをもらいに。

ちょっと前、花のサブスクを頼もうかと思って色々を調べていたことがある。ただ、去年1年はホテル生活だったため定住場所がなくそれらを使うことはなかった。花が萎れる頃合いで、定期的に新しい花が送られるサービスは便利ではあるが優しさまではもらえない。

自動的に送られ続けるサービスより、自発的に思い出して物を買いに行く、そしてそれが定期購入のようなサブスクリプションになる。花屋にいく手間も時間もかかるけど、なんて素敵な形なんだろう。家にある花をみて、あの女性の笑顔と、優しくされたことを思い出して花屋にいく。そこで買った花を家で飾って笑顔になる。こんなにいい循環がこの世の中にあるなんて…!

情報が溢れているこの時代、自動で更新されサービスが提供されつづけるサブスクはとても便利だけど、自分で選ぶものならちょっと不便でも、顔が見えたり、会いに行けたりするサブスクがいい。

ーーー

酒小町という、お酒やお酒の場が好きな人が、お酒を楽しんだり、酒蔵さんとのお仕事をしたりする日本酒メディア&コミュニティをやっています。

毎月1日〜10日の期間にメンバー募集をしています。募集時にお知らせをするLINEアカウントがあるので、よかったら登録をお願いします。
初月は無料なので、ぜひ遊びにきてくれたら嬉しいです。


この記事が参加している募集

家事の工夫

スキ、嬉しい!更新の励みです。Twitterボタンから感想をシェアしてくれたら、Twitterにも遊びにいくね!乾杯しましょう!