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ユカイ工学代表・青木俊介と縁ある人との「ユカイ予想図」対談企画。第4回目は大杉信雄さんと

みなさんこんにちは。デザイナーの はらだ です。

ユカイ工学代表の青木俊介が、その道々で活躍し世の中へ向けて様々な提案をしている縁のある人物を訪ね、「ちょっと最近どうですか?」というざっくばらんな会話から、今をどう捉え、未来についてまで、様々に語り合う企画「ユカイ予想図」をお届けします。

第4回目の縁ある人は、アシストオンの大杉信雄さん。

今回は、雑貨屋さん視点でみるイノベーションの秘訣についてたっぷり語っていただきました!どうぞお楽しみください!

▼これまでの「ユカイ予想図」記事はこちら
第1回目:猪子寿之さんと片桐孝憲さん
第2回目:根津孝太さん
第3回目:遠藤諭さん

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大杉信雄さんと「ユカイ予想図」

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「アシストオン」代表取締役。
大杉信雄 おおすぎ のぶお
1965年、三重県生まれ。良いデザイン、優れたインターフェイス、使う楽しさを与えてくれる製品を集めた提案型の販売店「アシストオン」の店主。


雑貨屋さんの普通を知らなかったけどそこがカギだった

青木
実はアシストオンさんの話を色んなところでさせていただいているんです。

大杉
ありがとうございます。

青木
ユカイ工学だけではなくて、色んな企業の新規事業や製品のチームとコラボレーションされてますよね。

大杉
そうですね。我々はコンサル会社ではないので、アシストオンで製品を売ると目標が定まった段階で、一緒にどう売っていくかなどを考えています。
物を売ることって、見せ方や価格などだけではないんです。どのように製品が店に入ってくるか、お店にどう置くのが良いか、送料やラッピングは…?と考えることはたくさんあって。
最終的にお客様にどういう形で繋がるのかを考えていくんです。

だからこれまでの「良いもの作ったよ」ってバッと市場に出して、それで作り手は「終わった」みたいなことでもなくて。
作り手と売り手が一緒にモノを作って売っていくのが普通になってきましたが、そのためにできることを考えて動いていくのはメーカーだと難しいこともあるかもしれません。

青木
そうですよね。
大杉さんは普通っていう風に仰いましたが、作り手と一緒に動いてくれる売り手って、なかなかいないと思います。

大杉
私自身はもともと、1993年に現在のAppleが作ったNewtonを日本でどうやって売るか、ということでお店をつくらなければと考えてきた人間なので。

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現在はiPhoneやiPadの先祖として知られているNewtonテクノロジーですが、日本語が動く環境もできて、キーボードとかバッグとかの周辺機器やアプリがどんどん揃ってきたのにそれをどこで売るんだ?となって。
まだPDAが流行するずっと前ですし、ポケットに入るようなこのがこれまでのパソコンと同じような場所で売られるのも違うんじゃないか、という思いもありました。
もちろんAppleStoreなんかできるずっと前です。そこで東銀座に作ったのが、The Newton Shopでした。

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実は「AssistOn」という名前も、現在のAppleのSiriにあたるようなユーザーアシスタント機能として、Newtonに「assist」というものがあったのですが、そこから名前をもらっているんです。
まさに「その人の生活を助けるための道具」を売るためのお店。Newtonがどうだったように、iPhoneやiPadがそうであるように。

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アシストオンができた時はみんな「他にない」「面白い」と言ってくれたのですが、それはある意味当然で…雑貨屋さんの一般的な流通網を知らなかったんです。だから結果的に一般的な雑貨屋さんと180度違うやり方をしていたんですよね。
自分たちが面白いと思ったら直接「この製品を扱わせてください」と交渉するし、逆に「アシストオンがなんだか面白そうだぞ」と声をかけてくれる場合もあった。そうやって面白いと思ってくれているお客さんの期待に応える選択をしてきたんです。

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一人称視点で考えるものづくり

青木
僕が大杉さんに初めてお会いしに行った時にBOCCOを持って行ったんですが、その時も「なんか面白いね」と言ってくださって。
すぐに「ちょっとこれ使ってみるわ」っていう風に言ってくださったのを覚えています。

大杉
今も家庭やアシストオンのお店で大活躍ですよ!

青木
ありがとうございます!
大杉さんは「ちょっと触ってみるわ」レベルじゃなくて、ご自宅で連携機能などフル活用してくださっていますよね。
ユーザーさんのひとりとしてもご意見いただくし、その上で売り方も考えてくださって。そういうところがただ売るだけのお店とは違う、アシストオンさんの大きな特徴だと感じました。

大杉
BOCCOは純粋に私が好きなんです。
あとは前職の影響もあって、家の中にコンピューターとか、関連サービスがどう入っていくのが望ましいのかをずっと考えてきたから興味があって。
そういう意味で、BOCCOはすごく筋が良いと思っているんです。
技術とかデザインとか色々含めて、今はまだ未熟かもしれないけれど、良い方向を向いていると思うので、これは私も存在感を示しておこうと思って。

青木
なんと!それは嬉しいです!

大杉
BOCCOって青木さんの悩みを解決したいってところから開発されたじゃないですか。根本が自分目線ですよね。それが我々アシストオンの視点でもあるんです。
やっぱり雑貨屋さんって「今これが売れているから、これをやる」みたいなことってあるんです。たしかにそれは重要で、ニーズに沿ってものを作って売ることはユカイ工学でもやられていることだと思うんです。だけど、誰が必要としているのかの視点ってものすごく重要ですよね。
つまり「全世界の人が」じゃなくて、「自分が」とか「息子が」とか一人称の視点です。

青木
仰る通りだと思います!
ペルソナも妄想するより「俺がペルソナだ!」ってね。

大杉
そうそう。案外外から見ててもわかるんですよね。
「これは中の人が欲しいから作ってるんだろうな」みたいな面白さって。
誰が使うかわからないけどスゴイ技術が重要な局面もたしかにあるんです。けれど、自分が面白いと感じるような一人称の視点も大切ですよね。

青木
GoProも一人称視点のものですよね。
Wikipediaめちゃくちゃ面白くて僕好きなんですよ。

大杉
あれ面白いよね。書いた人も絶対GoProのこと好きだってわかる。

青木
間違いないですよね。
あとは、マウンテンバイクもそうかな。

自転車で山を走ることって何の課題解決もしていないけど、でもそこにコミュニティが生まれると製品も生まれて、カルチャーができる。

そうすると都会でもみんなマウンテンバイクに乗り始めるんですよ。これって僕はすごい理想的だなと思って。

大杉
格好良さってどこからくるかを考えると、マウンテンバイクの場合だと機能が前面に前に出てきますよね。
でも格好良さの視点ってみんな違うじゃないですか。だからみんなの思う格好良さを数値化して作りがち。
マウンテンバイクってよーく見ると格好良さが歪んでるんですよ。平均化されていないっていうか。
だから、ある人にとっては受け付けないものかもしれないけど、反対に「これは自分のために作ってくれたものだ!」って感じる人もいると思うんです。
これが一人称視点の大きな部分で、一人称視点で作られたものは自分ごとになりやすい。

Qooboもそうじゃないですか?
可愛さを追求したら、これでよかったんだ!みたいな。

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青木
たしかにそうですね。


雑貨屋視点のイノベーション

大杉
一人称視点に関連してイノベーションの話をしましょうか。
まず日本語でいうと「技術革新」みたいなことをずっと言われてきたわけですよね。
そこで、イノベーションを語る時の最大の問題が「すごく大きな物語を語りたがる」ことなんです。
例えば、「この技術で世界が救われます!」みたいな。
さっきも話したけれど、ある局面では大切な部分だけど、たったひとりの人を救った方が場合によっては良いかもわかんないんですよ。
ずっと外に出れない時にBOCCOが喋ってくれたらひとりの人は救われるかもしれない。

青木
たしかにそうですね。

大杉
ものすごく大きい枠組みで作られた話って本当に価値があるのかな?って思ってしまうんですよね。
イノベーションが悪いのではなくて、イノベーションを語る人の悪い癖っていうのかな。大きな話をしたがる部分は注意しないといけないと思っています。


生活動線を見つめる

大杉
少し話を戻しましょうか。
我々雑貨屋さんは何をみているか端的にいうと「生活動線」を見ているんです。

青木
生活動線?

大杉
アシストオンは年間で4,000件くらい「こんなもの扱いませんか」と新しい製品がやってくるんです。
もちろん自分たちも情報収集しながら導入することもあるのですが、どちらにせよ取り扱うかどうかは「生活動線」にハマるかどうかが重要なんです。

生活動線というのは、自分の朝起きてから夜寝るまでの行動を思い起こすとわかりやすいですね。
目覚ましがなって朝起きる、カーテンを開ける、子どもを起こす…
結構みんな行動って決まってませんか?

青木
たしかに。行動のルーティーンがありますね。

大杉
ただ、我々が生活動線そのものを変えることって中々できないんですよね。
そこで我々は「製品が生活動線の中のどこに組み込まれるか」を考えるんです。
買う人はきっと「この製品は私の生活動線の中に必要」と思うから買うわけですから。
生活動線に入り込むってことは、製品の居場所があるとも言えるわけです。
ユカイ工学の製品はそういった視点からも筋がいいと思いました。
BOCCOは見た目や色とか、可愛らしさを持っているから家の中に置きたい場所が見つかるじゃないですか。
Qooboに至ってはイスの上に置いてみたいなぁとか思っちゃいますよね。
これまでのロボットだと「精密なので大切に扱ってください」とか結構シビアだったと思うけど、それがないから考えやすい。

青木
いやぁ、嬉しいですね。
BOCCOは家の中に馴染みやすいデザインにするようにこだわって作っていますし、Qooboもそうですね。

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家の中に置くからこそ、子どもが触っても大丈夫なように考慮して作っています。


生活動線とイノベーション

大杉
イノベーションの例でいうと、iPhoneがわかりやすいかな。
我々がNewtonやってる時って、Appleはとにかくこのままだと技術が頭打ちになるぞってみんな思っていたんですよね。
もちろん一部の人はいじくったり、プログラミングをコーディングしてくれたり、ゲームをやってくれいたけれど。
80年代半ばになってきた時に「いやいや、コンピューターってみんなが使うんだって言ったって、仕事でしか使われないじゃん」ってみんな気づきだした。

青木
えっ!そんな時代があったんですか!?

大杉
ありましたよ!

青木
80年代半ばってMacintoshが出た少しあとくらいですかね?

大杉
そうですね。もちろんそこを打破しようとする動きもあって。
生活の中で使えるコンピューターを作らないことにはどうしようもないってから、一部の考え方はMacintoshになってましたよね。
どんどん小型化をして、9インチのコンピューターができた。このサイズに着目すれば何がしたかったのかがよくわかると思います。
つまり、コンピューターを使うならコンピュータールームに行かなければならなかったけど、普通の事務机の上に置けるようにしたんです。
じゃあその次に何をやるべきかって言ったら、ポケットに入るコンピューターをやる必要があるだろうと。

青木
そこからコンピューターが生活動線に入るのは難しかったんですか?

大杉
そういうことだと思います。小型のコンピューターを使うという概念っていうのが、そもそも我々の生活動線の中に無かったんでしょうね。
でも、iPhoneは違いましたよね。

思い出してください。iPhone出てきたとき何て言いました?
「コンピューター」だったとは誰も言わなかった。
「これは電話です」と言ったんです。

青木
ああ、そうでした。

大杉
もうあの時点では電話を一人一台持つというのが生活動線の中で出来上がっていたんですよね。だから普及した。

そういう意味では、iPhoneは生活を変えたと言えるかもしれないですよね。
電話として生活動線に入ってきて、その中でSNSとかが発達したりとか。
それからアプリケーションが使えるから、ソフトウェアであるとか、キーボードであるとかってところが変えることができた。
ただそれも、もともとなかった技術かって言うと、そうでもないですよね。みんななんとなくぼーっと「コンピューターで決済やるんだろうな」とかさ、「みんなで連絡取り合いたいな」とか思ってたわけじゃないですか。

青木
ガラケーでmixiとかやってましたもんね。

大杉
ね。でも、やっぱり生活動線の中に明確に入るような道具を仕立てたり、考え方を発想する人たちっていうのはすごく重要だなっていうことは変わらないし、その視点ってもしかしたら雑貨屋さんの視点かな、と思いますよね。

青木
本当そうですね。
僕たちは普段ロボットを作っていて「やっぱりアプリじゃダメなの?」「声かけたりするのもアプリで良いじゃん」って結構言われたりするんですよね。
たしかにスマートフォンやタブレットはものすごい高機能で、これ以上必要なものあるっけ?って言われることも多い。

大杉
でもアプリとか、タブレットとかじゃダメなんですよね?
だって生活動線入ってこないから。
お家に板が置いてあったときに、何ができるのかって考えるとスクリーン消しちゃったらもう終わりだし、それから家に帰ってスマホ見たくないって人はきっとたくさんいるだろうし。
親御さんから見てみたら子どももずっとタブレット見てたら…

青木
子どもがずっと見てたら嫌ですよね〜。

大杉
嫌だよねって思うかもしれないし。
ただ、やっぱり我々がずっと生活動線を辿って行くときに、中に入り込めるものはスマホではないかもしれない。もしくは、いつまで経ってもタブレットとスマートフォンなのかな?ってことも考え直した方がいいですよね。

青木
そうですね。

大杉
本当に良い生活とか、気の休まる生活を考えながらやることは、我々の生活を良い方向に導いてあげることに繋がりますよね。
だからこそ、技術を考えている人、それから道具とか物を売ると考えている人たちっていうのは、良い方向に生活動線を変えるということを考えないといけないですよね。
そこを考えれば、案外大きい話に結びつく可能性があるかもしれない。
もちろん我々はそういうことを考えながら物を売っていく。
数千円、数万円のものを売っていくことが、もしかしたらそういう力になってくれたら良いかなとは思いますよね。

青木
僕たちが考えているのは、スマホとかのスクリーン無しで、魅力的なものを作ろうっていうのはテーマとしてあって。
ものがあることで、ふわふわしていて気持ち良いとかそういった魅力もありますし。
BOCCOだったら、スクリーンではないので喋ってくれるんですよね。
そうすると、部屋のみんなに伝わるし、朝ごはん食べながらスマホでニュース見てたら家族から怒られるじゃないですか。
でもBOCCOが天気予報喋ったりしてくれたら…みんなが触れる情報なんで、そういう場面では適したインターフェースだったりする。
そういった可能性があるんじゃないかなと思っています。

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大杉
あと励ましてくれたり、声かけてくれたりね。
例えば、今は核家族が増えていて、みんな忙しいし、朝出る時間もバラバラ。でも、BOCCOが最後に家にいる人に一言声をかけてくれる。
それだけでも生活動線の中に組み込まれて変わりますよね。
「いってらっしゃい」って言ってくれるから「あぁ、気をつけなきゃ!」って思います。
生活動線の中に組み込むデザインが重要ですよね。

青木
最後まで…ありがとうございます!
大杉さんに聞く…イノベーションの秘訣ということで。
ありがとうございました!

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一人称の視点でものを考える、作る、売る、探す。
生活動線視点とイノベーションの関係は大変興味深いものでした!
素敵なお話をありがとうございました。


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