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東京と鹿児島の人口動態を数字で把握してみると

今年は新型コロナウイルスの影響で東京都の9月1日時点の人口が前月比で減少に転じた、というニュースを見たので。こういうデータは少し深堀りしてみないと全体像が見えないぞと思って書いてみました。果たして、これは地方にとってグッドニュースなのでしょうか

以下、数字の話が続きますのでざっくり結論だけ見たい人は後半まで飛ばしてもらってOKです。

東京の人口の動きを要因別に分けてみる

これは今年のニュースですが今年はまだ途中で速報値なので、詳細が見られる昨年のデータから東京の人口動態をじっくり見てみます。参照したのは東京都のサイトから以下。

まず「第1表 区市町村、変動要因別人口(総数)」から。

令和2年1月1日現在で、1年前と比べて総人口は『94,193人の

要因別にみると、自然増減(出生数-死亡数)が『16,258人の

社会増減(転入数-転出数)が『80,741人の

あれ、すでにおかしいな・・・人口の増減は自然増減と社会増減で決まるはずなのですが、だいぶ数字にズレがある。よくみると『その他増減』という項目があります。(これが何なのかはのちほど詳述)

その他増減が『31,490人の』。これでだいたい計算が合いました。

内訳にすると、東京の人口は自然増減では減少しているけれど、圧倒的に転入が人口増を支えていて、あと『その他増減』もかなりある、ということがわかります。

8月→9月の東京に何が起こっているか推測

今回は令和2年の9月1日付で前月と比較して人口が減少、というニュースなので、その1年前にあたる令和元年の8月→9月の人口の動きから何が起こっているのかを推測してみます。

同じ統計表から「第14-1表 区市町村、月別自然増減(総数)」を見てみます。自然増減では年間1万6000人ほど人口が減っているわけですが、これを月別にしてある表です。

まず目につくのは、11月~3月の冬の時期にぐんと減少幅が大きくなっています。1万6000人のうち8割近く、1万2000人くらいはこの5ヶ月間です。自然増減に関しては、やはり寒い時期に死亡数が増えるんじゃないでしょうか。数字は時に生々しいものです。

逆に言うとそれ以外の月の減少幅はたいしたことないんですね。8月については『631人の』。全体の増減からみるとかなり小さな下げ幅です。

続いて社会増減。同じ統計表から「第8-1表 区市町村、月別他県移動増減(総数)」を見てみます。年間で8万人あまり増えているわけですが、月ごとに見てみると、3月と4月でおよそ6割にあたる5万人ほどになります。やはり東京への転入は就職や進学の時期に集中していますね。それ以外の月も全てプラスなのですが、8月中の増減を見ると、『3,296人の』となっています。

この差し引きだと8月→9月では人口は2000人ちょっと増えそうなものですが、「第5-1表 区市町村、月別人口増減(総数)」をみると、年間で2月、8月、12月だけマイナスになっています。なんだこれは。

ここで、先ほど出てきた「その他増減」が登場するわけですね。同じ統計表に「第17-1表 区市町村、月別その他の増減(総数)」というのがあります。やはり、2月、8月、12月だけがマイナス。特に8月は『4,472人の』と大きく減らしていて、この結果自然増減、社会増減、その他増減の合算で、昨年も8月中の人口動態は2,000人余りの減となっています。8月→9月の人口減は、今年特有の事情ではなさそうです。

この「その他増減」とはいったいなんなのか。

同じ統計表の「利用上の注意(PDF)」によると、

「その他の増減」とは、出国、入国並びに帰化、国籍離脱及び実態調査等職権による記載、消除及び補正による増減等である。

とあります。この内容だと主に出入国が大きい感じがしますね。特定の月に転出している外国人が多いとも読み取れます。

東京都の外国人人口・8月減少の謎

東京都のウェブサイトにある別の資料「外国人人口(平成31年・令和元年)」をみると、東京都の外国人人口は総数で55万人あまりとなっています。この外国人人口が、どうやら2月・8月・12月に出国が多くなり、「その他増減」が減少となっている。中でも8月が大きい、というのはどういう事情なのでしょう。

独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)が毎年行っている「外国人留学生在籍状況調査」によると、日本国内の留学生総数は312,214人(2019)となっています。東京都の外国人人口のおよそ6割に当たる数の留学生が日本にいることになります。東京都のみ、という数字を見つけられなかったのですが、この調査は高等教育機関と日本語学校を対象としていますので、大学が東京に集中している事情を考えると、留学生の動向が「その他増減」に与える影響は小さくなさそうです。

そう考えると2月・8月・12月における「その他増減」の減少は、それぞれ4月入学、9月入学、1月入学(または編入)のカリキュラムが修了する時期と対応しているという推測が成り立ちますね。一般的に日本以外は9月入学を採用している国が多く、日本の大学も留学生に関しては9月始まりで受け入れているとすると、8月の出国が多いのではないか、と考えられます。

(10/21追記)8月12月のその他減は、長期休みに伴う帰省(帰国)もあるのではないか、との指摘を頂きました。その通りかと思います。

東京の人口動態まとめ、と今年の事情

これまでの考察をまとめると、東京の人口動態は

自然増減では減少(出生数より死亡数が多い)

社会増減では転入が圧倒的に多く人口増を支えている

「その他増減」は留学生の動向が大きく、8月には出国が多い

という事情があり、これらの結果、全体としては人口が増えているけれど、8月→9月の時期には出国が多いので人口減に転じやすい、と言えそうです。

東京の人口の動きが少しクリアに見えてきましたね。元ニュースにあった今年(令和2年)9月1日付の前月との比較は、自然増減はそこまで今年特有の事情がなさそうですから、転入、転出、出国が大きな要因になっていそうです。月ごとの人口変動要因が明らかになればこのあたりもより細かく見えてくると思います。

鹿児島の人口動態と比較

さて、東京の人口動態がざっくり掴めたところで、鹿児島県と比較してみます。鹿児島県も様々な統計資料を公開していますので同じくらい詳細に見てもいいのですが、さすがに記事が長くなりすぎるのでざっと概観だけ。参照したのは以下のページです。

東京のデータと比較するため、同じ年の「第1表 市町村別,男女別人口及び世帯数(2019年(令和元年)10月1日現在)」を使います。

総人口1,601,711人に対し、前年からの増減の内訳について自然増減(出生-死亡)は『9,344人の減』社会増減(転入-転出)は『2,914人の減』です。合算すると12,258人の減

東京と比較すると、東京は自然増減はマイナス、社会増減がプラスで後者のほうが大きく人口が増えているという構造でした。鹿児島の場合、どちらもマイナスですが、人口減少に与えるインパクトは8割弱が実は自然減だということがわかります。

ちなみに、鹿児島県在住の外国人は10,547人(平成30年)。東京の50分の1以下です。

東京の人口が単月で減少に転じたとして、それが地方に流れることを期待する気持ちはわかります。テレワークなど働き方の多様化やICTの普及で勤務地を選ばないケースも確かに増えているでしょう。ただ、数で見た時に今年8月→9月の単月で東京の減少数は1万人余り。その理由は留学生の帰国が大きく作用しているのではないかという考察はすでに述べたとおりです。通年で見ればまだ東京の人口は増え続けるでしょう。その要因は社会増なのですから、東京以外の地方からの流入ということになります。

仮に、(ありえないことですが)その1万人が全て鹿児島県に流入したとしても、年間の鹿児島県の減少幅をカバーするには足りません。東京以外の46道府県で奪い合うとしたら、言うまでもないことです。リモートワークの導入などで地方に流れるケースを期待するのはいいのですが、この流れが多少加速しても、数の上では地方の人口減少を補う規模では全く無いという点は踏まえておく必要があります。

統計上の数字に接する態度、ひとに接する態度

このように書くと、これから地方の時代だという盛り上がりに水を指すなというお叱りも聞こえて来そうです。ただ、この投稿で書きたかったことは「統計上の数字は数字として見る、人は人として見る」のが重要ではないか、ということです。

数は限られているかもしれませんが、地方に移住したいという人の動きをこのコロナ禍が加速させていることは確かでしょう。一方でデータ上の人口は、地方に関しては今後も当面減り続けることは間違いありません。その中で「ひとりの移住者」に向けられる目があまりにも期待値の高すぎるものであるのはどうだろう、とも思うのです。移住してくるのはデータ上の数字の塊ではなく、生身の人間です。得意なことも不得手なこともあるし、気持ちが乗らないことも、気が変わることもあるのです。

人口が減ったエリアであればあるほど、移住者というのは目立つ存在になり得ます。人口減少に歯止めがかかるのではとか、なにか都会から来たすごい人が地域を一変させてくれるのではないかというような過度な期待をせず、データ上の現実を俯瞰して受けとめ、その地域が持つありのままの良さが移住者も含めた一人ひとりの住民と自然に溶け合うような態度を持つことが、コロナ以降のあり方としては大切なのではないか。コロナをきっかけにこれから地方の時代がやってくるといったような過度な狂騒はいったん置いて、地に足をつけた地道な暮らしを積み重ねることが地方の良さを結果として際立たせるような気がしています。

統計上のデータはシビアにドライに見る。目の前のひとにはひとりの人間として接する。人口減少社会だからこそ、そのような態度で居たいものです。


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