11話:背中から倒れる勇気

2018年6月18日(月)
 私は、去年から英語で日記を書いている。ロンドンに滞在してからは、フラットメイトにチェックと音読をしてもらい、それを録音した音源を学校の通学中に復唱していた。この日記は、フラットメイトだけでなく日本の友人・チェルシーにも画像を送っている。チェルシーは、私が英語日記を書き始めた頃から勉強に付き合ってくれている上、滅茶苦茶な英語が連なった単語ノートと言った方が良い文章が送られてくることを”楽しみ”とまで言ってくれる。初めた頃は、絵と英語の日記だったが、あまりに解読不能な英語のため、日記は、日本語と英語でチェルシーへの手紙として書くようになった。

 日本時間の夕方、ロンドンは朝を迎える。
 私は、朝目覚めるとベットの中から、チェルシーにLINEを送り、電話出来るか尋ねた。話そう〜!と明るい返事が返ってきてすぐに、電話をかける。

 「いつも私は、友人に助けてもらっているのに、何もお返しができない。今私が出来ることは、たまにご飯を作ることや、ゴミを捨てること、家を掃除することしかできない。荷物の追跡は、電話のため、シャーロットに確認してもらわなくてはいけない。一緒に住んでいる犬もまだ、少し怖い。彼らは、私のたくさんの出来ない事に対して、毎回丁寧に教えてくれる。それにも関わらず、私は何もお返しができず、自分が時間泥棒のように感じてしまい、今どうしたらお返しができるんだろう」
 と二言目からすでに、泣きながら話した。チェルシーは、辛抱強く私の話を聞き、冷静なアドバイスをくれた。
「恩は、今返せる訳ではないし、今返そうと思わない方がいい。出来ない事は、しょうがないし、ゆっくり時間をかけて出来る事をしていけば良いと思うよ」
 チェルシーがくれた言葉は、明日しか時間がないかと思うほど焦っている私に、数年先まで続く未来の時間を示してくれた。そして、涙と嗚咽まじりで、また、話し始める。
 「私が、”いつも助けてくれてありがとう”と言うと。シャーロットは、It's my pleasure. と返してくれる。そして、他のフラットメイトは、よく褒める言葉をかけてくれるが、本当は、どう思っているんだろうと考えてしまっているの。。。」
 これに対しても、チェルシーは、
「その言葉をそのまま信じるべき」
と言ってくれた。
 人を信じることは、体の骨からガクガク震えるほど恐怖を感じる。嫌われてしまうことや、本心を知った時の落胆と言った想像上の世界を作らず、体のパーツ全ての重心を後ろに倒してみる。倒れ込んだ身体は、友人が受け止めてくれると信じて。
 チェルシーの言葉を身体に覚えさせるように、ベットの柔らかい感触を背中で確かめながら、光が差し込む天井を見つめる。これからは、目の前にいる人の言葉を正面から受け止めようと決意した。幸い、ここは、日本よりは建前がない文化圏だから、出来るだろう。やるしか選択肢はない。
 涙を拭いすぎて頬が痛くなるほど長い電話に付き合ってくれた彼女は、私の後ろにある大きな支えの存在を、教えてくれた。 


 

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