4話:ロンドナー2日目:水道水が飲める。米が炊ける。

 曇りか。窓の外が白い雲で覆われている2日目のロンドンの朝、時差ボケによって私は、5時に目が覚めた。全く二度寝出来る気配もないので、昨日購入したヘアアクセサリーを身に着け、今からクラブにでも行くかのような容姿で外出する。歩き始めてすぐ、小雨が降り始めた。
「なんてロンドンのような天気なんだ」
雨でさえニヤついてしまう。傘を取りに行くか迷ったが、ロンドナーを気取るためウィンドブレーカーのフードを被り、鳥の鳴き声が響く住宅街を前に進む。向かった場所は、BrixtonにあるBrockwell park。翌週末Erykah Baduがトリを務めるField Day と言うフェスが行われる公園は、住宅街の真ん中にある公園だった。
「こんなところでフェスが出来るのだろうか?クレームがたくさん来るのでは?」と考えながら、公園の門を通り抜ける。なだらかな丘全体が公園となっており、その傾斜を利用したステージは、丘の下に設置するよう、準備が行われていた。反対側の傾斜の広場は、整備された歩道でぐるっと囲まれている。広場の中心でぼーっとしていると、始めは気に留めていなかったジョギング中のランナーが、次第に増え、気づくと、芝生の広場は、途切れることのないランナーによって、ぐるりと囲まれていた。
(一体何が起きているんだろう。きっと今は、持久走大会が行われていんだ)
と、自分の中でこの状況をイベント事と勝手に解釈したが、それを見続けた結果、それは大会でもなんでもなく、この公園の朝の風景だった。

 その晩私は、人生で初めて鍋で米を炊いた。日本のお米は高いから、ライスプディング用の米がいいと、友人に教わっていたのだが、昨日から探しても見つからない。スーパーマーケット3店目でやっとこのお米を見つけられた。これは、Riceの売り場ではなく、お菓子の材料売り場で手に入れる事が出来る。とりあえず、そこにある500gの小さいパッケージを全て買い占めた。
 以前の中国での食生活は、昼食は、外食、夕食は、香港で買い込んだ日本製のレトルト食品を、ホテルの部屋の電子ケトルで温めて暮らしていた。電子ケトルで米を温めるには、一度ジッブロックに米を入れ替えて20分ほど浸さなくてはいけないため、意外に手間がかかる。洗面台は、野菜を洗った水の跡が少し黒く残っていたり、2週間お腹が壊れ続けたりと、安心して食事が取れない状況にストレスを感じていた。そんな状況から、水道の水が飲め、自分で料理ができる環境にいる事が、いかに安心で幸せな事かと心から感じた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?