梅雨

 先週の出来事。6月、梅雨。日暮れの18時半。
今日も仕事が終わらないなーと思い、空いた小腹に何かを滑り込ませようかとコンビニへ向かう。噛むことで元気が出て、甘さで頭の回転も進むグミと、子供の頃から好きだった炭酸飲料・スコールを手に取った。

 昔からの好みのものは、愛する人に囲まれて何不自由なく育った日々に一瞬時を戻してくれる。別に戻りたいわけではないけど、感情としては悪くない。
帰省するたびにもらう小さな缶ジュースやお菓子は、かさばるけどカバンに入れて持って帰る。600kmの距離を超えて、東京へやってきたそれらは、と金になった歩兵のようにパワーアップし、疲れたときに身体に入れるとどんなエナジードリンクよりも元気が出る気がするので、僕に取っては掛け替えのないものになる。

 6月の初め。母から連絡があり、叔父に皮膚腫瘍ができてしまったことを知る。どうやら出血もあるらしい。ちょうどタイミングよく帰省する予定があったので会いに行った。いつも冗談ばかり言うお調子者の叔父は、かなり弱っていた。
僕と叔父は実の親子のような関係で、小さい頃両親が仕事で忙しかったため、僕はほとんどの時間を叔父の家で過ごした過去がある。小学生になってからも毎週のように行っていたし、今だって時間を見つけては会いに行っている。だからこそ言えるが、自分のことでそんなに参っているところは見たことがなかった。でも、できてしまったものはどう嘆いたって仕方がない。とにかく今できる最善策を取るしかないので、さっさと病院に行くように伝え、東京へ戻ってきた。
その後、叔父からの電話で病院に行ったと報告があった。しかし、病院に行っても「わからない。もっと大きな病院で検査をしてもらえ」と。不安だろうけど、とりあえずできることをした叔父は電話口では冗談を言う余裕ができていた。ひとまず良かった。

 レジ前で、おそらく死ぬほど身体に悪いであろう、お気に入りのホットスナックを注文しコンビニを出ると、雨が降り始めていた。
そこを、リクルートスーツを着た女の子がエナジードリンクを持ってスタスタと歩いて行った。エナジードリンクを飲まなきゃやってられない面接でも受けたのか、明日も戦いが控えているのか、その子の戦いはわからないけど、胸を張って頑張って生きているんだろう。疲れも出ていたけど、堂々と歩く姿はどこか凛として輝いて見えた。「立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花」という言葉があるが、見る人が見れば、何かそう言う言葉が生まれるた気がする。去っていく後姿を、しばらく見つめていた。

 僕は今、きっとあの女の子のように凛としていない。頑張ってはいるけど、きっと姿勢は悪いし、毒ガスっぽい空気が出ている気がする。ここ最近、自分の仕事のことや叔父の心配で切羽詰まってしまって、心体ともに休まらず疲れているんだろう。
頑張り方にも色々ある。多かれ少なかれ、誰しも辛い思いを耐えて頑張って生きている。でも、あの子を見るに、良い頑張りをしている人はきっと姿勢に出るんだろう。そしてどうやら、僕の頑張り方は今、なにかが違っているようだ。少し考える時間が必要だと感じた。

 コンビニから戻った僕は、上司に「来週、叔父が心配だから休みが欲しい」と話した。それが6月最後の木曜日の出来事。ちょうど週末が京都出張、そのまま戻って働く気だったが、少し時間をもらった。

そして今、月、火を叔父と過ごし、東京へ戻っている。

なんでもない梅雨の1日。僕だって誰かのエナジードリンクになってやろうと思った。けど、またエナジードリンクをもらってしまった。

ここからが勝負。まだまだ精一杯やってみよう。

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