めちゃくちゃださい傘

コインランドリーでうたた寝していた。

気付いたら深夜1時で外は雨が降っている。

冬も近付き、寒さも深まり始めた土曜日。

乾き切った洗濯物を持ち帰るにも
傘がない。

仕方なく、雨が弱まるまで
少し待機することにした。

テーブルの目の前には、
同じように傘を忘れたのだろうか、
洗濯物を詰めたIKEAの袋を
抱えて外を眺める男性。

「弱まるのかなあ。」

無意識に口をついて出た言葉が、
予想以上に大きく、彼の耳にも
届いてしまったみたいだ。

「ほんとですよね、こんな時間に。
早く帰って寝たいのに。」

仕事に追われ、
休むまもなく一週間が過ぎた。

同じように彼も疲弊しているのが
顔から伺えた。

「昼間晴れてたのにずっと寝てたのが
馬鹿でした。笑
もっと早く来てれば
こんなことにならなかったのに」。

「僕も。ずっと家で寝てて。
最近こんなんばっかですよ。
嫌になっちゃいますね」。

隣にはコンビニがある。
2分程雨に打たれれば傘を買って
濡れずに家に帰れる。

こんな微妙な距離と、
気怠さを天秤にかけて
動くのに躊躇う。

10分程だったのだろうか、
彼が徐に動き始めた。

「やっぱ僕傘買って帰ります。」

二言三言交わしただけの相手の
独り言とも取れる言葉に、
返すのもなんか恥ずかしくて
会釈だけした。

数分後戻ってきて彼は、

「良かったらこれ。」

差し出されたのはビニール袋に
入った缶ビール。

「2時まで一緒に待ちませんか?」

断る理由はない。
明日はどうせ休みだし、
先週までなら彼氏とどこかに行くのが
当たり前だったけど、別れた今
家でぐうたらするだけだった。

冷えすぎた金麦が冷たくて、
こんな寒いのになんで美味しいんだろう
と思いながら、目が覚めていくのを感じる。

彼は29歳、私の一個上で
専門商社に勤めてるらしい。

年末の繁忙期で疲れ切っていて、
普段毎日行く三茶のバーにも
全然行けてない。

そんな話とか、好きなラッパーのこととか、
趣味の話まで、
この時期に500ミリのビールを飲み干すまで
長い時間話した。

結局2時。

「もう出ないとですね。
隣のコンビニまで歩きましょっか。」

コンビニから出てくる彼は、
またもやビニール袋を差し出す。

「傘買いました。でも一本だけなんで
良かったら家で飲みなおしませんか?」

明け方まで飲んでもまだ止まない雨。

盛り上がったけど、
家近いしここで寝るのもなんかな。
と思って、

「帰りますね。」

じゃあこれ。

と言って差し出されたのは
おばさんっぽい花柄のめちゃくちゃださい
傘だった。

「いや、先週雨降ってて会社から適当に
持ってきたやつなんで。笑」

躊躇わず借りた。

本当か嘘かどっちでも良かった、
なんせ本当に眠かったから。

翌朝目が覚めると玄関には
昨日借りた傘。

LINEを開く。

「あの傘返してもらわなくて
大丈夫なんで!
またあそこで会えたら話しましょう。」

モヤっとした思いのまま、

雨が止んでカーテンの隙間から
零れる日差しの眩しさも気にせず
もう一度寝る。

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