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『烏の北斗七星』(宮沢賢治)

(あゝ、マヂエル様、どうか憎むことのできない敵を殺さないでいゝやうに早くこの世界がなりますやうに、そのためならば、わたくしのからだなどは、何べん引き裂かれてもかまひません。)マヂエルの星が、ちやうど来てゐるあたりの青ぞらから、青いひかりがうらうらと湧きました。
(本文より)

『烏の北斗七星』は、宮沢賢治が生前に出版した二冊の著書のうち、童話集『注文の多い料理店』に収められたお話です。今回で、この童話集に収められているお話は全て朗読教室で取り上げたことになります。このお話が最後まで残ったのは、「戦争」をテーマにした物語であったことが大きいかもしれません。少し躊躇したというか・・・です。

主人公である烏の大尉とその許嫁の烏は、戦を前に今生の別れを覚悟しますし、敵の山烏は攻撃を受けて命を落とし、艦隊は喜び、そして主人公は今日も生き延びたことにホッとします。描かれているのは戦争の真っ最中、至極当然のように敵を殺めていますが、このお話の最後には主人公がマジエル(北斗七星のことと思われる。「マヂエル」は大熊座の学名 Urasa major)を見上げて上記のように呟きます。また、艦隊の大監督や駆逐艦隊たちも、灰色の目から涙を、熱い涙を流して喜びますが、それは敵を撃沈したことよりも「わが軍死者なし」にかかっているような気がしてなりませんでした。

このお話は、全編にわたって「音」や「聲(こえ)」が頻繁に登場しています。大監督の錆びて「悪い人形のようにギイギイ云う」聲、負傷兵の足に響く大砲の音、烏の大尉の許嫁はいちばん聲のいい砲艦で、大砲の音は「があ、があ、があ、があ」と耳もつんざくほど響きます。
この「音」と「聲」の登場頻度は、これまで読んできた宮沢賢治作品の中でも際立っていて、戦争というテーマ、登場人物(山烏)の死とそれによる歓喜と安堵の深刻さを一層深めていきます。

日常生活でも、相手の声色のひとつひとつ、体を通っていく音の響き、地鳴り、振動、そういった目には見えないものから漠然とした不調和、不安を感じたこともあります。
ならば、というわけでもないのですが、自ら発する日々の音を心地よいものに変えていけたらと願わずにはいられません。この物語で発する声を、どの方向へ向けるのかも、自分で決められるのが朗読の良さでもあると思います。

2025年1月のテキストは、『烏の北斗七星』から始めようと思います。
ご予約お待ちしております。

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