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「舞台に立つ人でも緊張するんですか?」と美容師さんに聞かれて答えたこと

「舞台に立つ人でも緊張するんですか?」

美容師さんが僕に質問した。

これは少し前に美容室に行った時のことである。そこは初めて行く美容室だった。その時は次に出る作品のために髪型の制約があり、その流れで舞台の話になった。僕は「作品の話になったら面倒だなぁ(なんせその作品は仮面劇というマイナーな演劇だったので)」と思っていたのだけど、話は「緊張すること」についてになった。そしてそれは思いがけず面白いものになった。

「緊張しますよ。普通に。」

僕はそう答えた。

***

美容師さん(以下「美」)「え、そうなんですか?てっきり緊張しないのかと思っていました。」

僕「いえいえ。むしろ緊張しない方がまずいと思っています。」

美「え、どうしてですか?」

僕「緊張するってことはチャレンジしてるってことなので、それはいいことだと思っているんです。」

美「なるほど、たしかに……!ちょっとアシスタント呼んできます。」

その時はただのカットだったので「なんでアシスタントが必要なんだろう?」と思ったのだけど、アシスタントを連れてきた美容師さんは次のように言った。

美「彼は一週間後にスタイリストのテストを受けるんですけど、すごく緊張するタイプなんです。だから今の話をもう一回してもらっていいですか?

僕「なるほど(笑)」

そして僕は再び同じ話をした。するとアシスタントの男の子は次のように納得した。

アシスタント(以下「ア」)「たしかに。テストは自分にとってチャレンジだから、緊張して当然だ。」

そしてさらに「ひとつ質問してもいいですか?」と聞いてきた。僕は「もちろん!」と答えた。

ア「あの……緊張すると手が震えてしまうんですけど、それはどうしたらいいですか?」

僕「なるほど……。手が震えたまま、やるべきことをやればいいと思います。僕もすごく緊張すると震えますけど、でも何もできなくなるわけではないので、できることをやります。そうしているうちに震えは自然と治まっていきます。震えを抑えようとすると逆効果なことが多いです。」

ア「な、なるほど……!」

アシスタントの男の子はまた納得しているようだった。そして「ちょっと復習していいですか?」と言って、男の子はこれまでの話を自分でまとめていた。

***

「緊張すること」に対してどうアプローチするかは、もっと広まっていいことだと思う。多くの人は「とにかくリラックスしようとする」か「とにかく頑張ろう」とするのだけど、それらはあまりうまくいかない。なぜならどちらにしても緊張と戦っているからだ。

重要なのは緊張と戦わないことである。緊張することは自分の一部だから、それと戦ってもしょうがない。それは汗が出ている自分に対して「汗を出すな!」と言うようなものである。むしろ程よい緊張は集中力を高めるから、「緊張を使う」という風に考えた方がうまくいきやすい。

そもそも、日常で緊張できる機会はそう多くはない。だから「緊張する」ということ自体をアトラクションのように楽しんでしまえばいい。そう思えればもう緊張は自分の敵ではない。

はたしてアシスタントの彼はスタイリストになれただろうか。そして人生は続いていく。

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